| 
 
 
 
 ロング・ビーチは、ノース・キャロライナが誇るビーチ・リゾートだ。
 巨大なホテルがいくつも立ち並び。少しリッチで煌びやかな街並み。
 どことなく垢抜けて、都会的だ―――アットホームだったジョージタウンとは、酷く対照的な。
 
 甘く視線を蕩かしたサンジに笑いかける。
 「昨日の約束は反故にはできそうにない、」
 明日、ビーチで遊ぶ元気は残せるかな。
 ホテルのサインがいくつも並んでいる中、ビーチ沿いの一軒にナビが誘導していく。
 近代的な建物、20階建て。
 天辺から7階分が、テラスのように斜めに切り取られている。
 
 ロータリィに車を回し。
 こちらに歩み寄ってくるベルボーイの姿を窓から確認する。
 「おつかれさま」
 サンジがそう言ってきて、にこお、と笑っていた。
 「オマエもな」
 一瞬頬を撫でてやり。
 黒いキャップを目深に被る。
 
 エンジンを一度切り、けれど鍵は抜かずに置く。
 ベルボーイがサンジ側のドアを開けた。
 「ありがとう、」
 にこ、と笑い、サンジが車から降り。
 自分も降りて、トランクからスーツケースとヴァニティを下ろす。
 ベルボーイがすかさず引き受けていった。
 
 サンジがエリィのケージを引き出していき。
 「持とうか?」
 訊いてみる。
 「チェックインのとき邪魔だと思うよ?」
 サンジがにっこりと笑い。髪をくしゃりと撫ぜてやる。
 
 別のベルボーイが車をパーキングに停めに行った。
 ドアマンに扉を開けられ、サンジを伴って空冷の利いたエントランスに足を踏み入れる。
 ベルボーイが、ソファの横に荷物を置いていた。
 「お客様、こちらで暫くお待ちください」
 これはサンジに向けられた言葉だ。
 にこりと笑いながら、サンジがソファに腰を掛け。
 ひら、と手を振ってから、コンシェルジェ・デスクに向かう。
 
 「予約を入れたウェルキンスだ」
 「ミスタ・ウェルキンス、当ホテルへようこそ」
 にこ、と中年のスーツの男性が、制服姿の女性と入れ替わった。
 「チーフ・マネージャのエヴァンスです。すぐにお部屋にご案内いたしましょう、どうぞ」
 「ああ、アリガトウ」
 社会保障カードとライセンスを見せれば、すぐに身元証明は済んだ。
 電話口で必要な情報を教えておいたから、チェックは簡単で済んだ。
 
 ベルボーイが僅かに居住まいを直し。
 エリィに話しかけていたようだったサンジをソファから立たせ、天井の高いエレガントなつくりのホールを抜ける。
 ライムストーンの床の上を抜けるいくつかの足音。
 声がカーペットの敷かれたフロアより響くのは仕方が無い、ビーチリゾートだしな。
 
 「ウェルキンス様のお部屋へはこちらのエレヴェータをご使用くださいませ」
 トップ7フロア直行の箱に乗り込む。
 扉が閉まり、他の客たちからと遮断されてから、部屋の階数と番号を教えられる。
 カードキィについてのレクチャは遠慮した。
 エマージェンシィの対応については、非常階段の位置などを聞き覚えておく。
 「コンシェルジェ・デスクは24時間オープンでございますから。車の出し入れなどなんなりとお申し付けください」
 ティン、と渇いた音が響き。目的のフロアに着く。―――19階。
 
 部屋まで誘導されて、ドア、開けられた。
 荷物を持ったベルボーイと共に入れば、もう一人、従業員エレヴェータで上がってきたらしいベルボーイが合流してきた。
 カードキィと共に車の鍵が渡される。
 「ウェルキンス様のお車は地下2階の駐車場番号18に停めさせていただきました。先ほどのエレヴェータをお使いいただけ
 れば、直接パーキングまで到達できます」
 デスクを通すのが面倒だったら、という配慮らしい。
 
 アメニティの説明は遠慮して、ベルボーイたちにチップを支払い、引き払って貰った。
 トン、とサンジはエリィのバスケットを広いリヴィングのカーペットの上に置いていた。
 リヴィングのテーブルの上には、バスケット・フルーツとヴェースに入った花。
 くうう、と伸びをしているサンジの髪にトンとキスしてから、鍵をポケットに入れる。
 出しっぱなしにはできないのも―――習性だなァ。
 苦笑する。
 
 サンジがエリィのバスケットを開け。
 「探検しておいで、」
 そう言っていた。
 ジョージタウンで泊まったB&Bより数倍広いホテルの部屋は、さぞかし探検しがいがあるだろう。
 する、とサンジが腕を回してき、きゅ、と力が込められた。
 腰に片手を回し、髪を額から梳き上げてやる。
 「オツカレサマ、」
 トン、と露になった額に口付けを落とす。
 ふわりと微笑んだサンジは、やはり甘い艶を帯びている。
 「オマエもね、」
 
 「今日はそうでもないよ、おかげさまでな」
 笑って目許にも口付ける。
 「そ…?」
 「そう」
 僅かに肩を揺らしたサンジにトンと口付けをし、腕を緩める。
 やはり部屋は点検しないと落ち着けない。
 ―――親子だと笑いそうだ。
 
 「オマエも点検するか?」
 匂いを嗅ぎながら、静かに部屋を制覇していっているエリィを指差せば。
 きらきらと目を輝かせたサンジが、なんの?と歌うような口調で訊いてきた―――予測、肯定。
 
 「部屋、内装」
 コメントはせずに質問だけに答えれば。
 「おれはね、」
 すい、とサンジがスーツケースを指していた。
 「アンパックしないと落ち着かない」
 にこ、と笑う。
 
 
 
 
 next
 back
 
 
 |