ありゃ、と思った。
しまった、ローライズ穿いてイイ?と訊くの、うっかり忘れてた。
うううん、頭が「地元モード」に切り替わっちゃってたしなぁ。
一瞬、そんなことを思ったけど、忘れる事にした。
風が相当、気持ち良いし。少し倒し気味にしたシートから見える空はまっさおだ。
エンジン音も、ちょうど良いアクセントで、さすがゾロのドライヴィングテクニックは文句なしにこの「気難しい」クルマを手懐けてる。
シティに近づいてくると、だんだん道がクルマで混み合ってくるけど。
視線を横に投げる。
サングラス込みで「嫌味」な出来で、嬉しくなるヨ。
おれがふざけてじゃらっと遊ばせてもらったから、手首とか指とか。
ゾロは押さえ気味でますますイイ男具合がタイヘンなことになってるけど。

す、っと腕を伸ばしてみた、ナヴィシートから。
「んー?」
「買い物のあと、ディナーでも行く?」
「Why not、」
返事に、笑みが浮かぶ。
いいんじゃねえ?って返されて、そのまま続ける。
「じゃ、その後軽く飲んで、夜中になったらクラブ行こう」
「買い物は先に部屋に送らせておくか」
「ウン、もちろん、一回部屋に戻ってもいいし」
これは、オーケイってことかな?
「気分次第か?―――ああ、エリィが拗ねるか?帰らないと」
くっく、とゾロが笑う。
「大丈夫、賄賂あげてるから」
ティビーに、キャットニップを擦り込んできたんだ、実は。
「たまには、デカイ音聴きたい」
なぁー、いこうよー、と続けた。
「オーケイ」
やった。
―――あれ?わ?ひょっとして、うわ。

「ゾロ、あのさもしかすると」
うん、多分そうだよな?
「んー?」
「一緒にクラブ行くの、もしかしたらハジメテだよね?」
「もしかしなくても初めてだぞ」
うわ、なんだか、ドキドキするんだけど。
「うわ、」
笑って、ステアリングを軽く握るゾロの手首で。
時計―――ああ、ユリウスI、それがフレームで光を弾いた。
「西」にいるんだなあ、って実感した。
「なぁー?」
わらう。
「んん?」
「なんかさ、初デェトみたいだね?照れるって」
けらけら笑う。や、だって照れるし。
すい、と。グラス越しに視線が投げられるのがわかる。
ゾロが笑ってる。
―――どうしようもなく、気分が良い。

「いっそのこと、オープンテラスに居座ろうか」
シートに身体を預け直す。
「ハ!オーライ」
「ゾォロ?」
ここまですんなり了解されるとはなぁ、と。少しびっくりするけど気分は上昇するばかりだ。
なんだよ、と軽い口調で返されて答える。
「おれ、素直だからね?自惚れるヨ」
クルマが道に連なり始める。
視線の先のゾロは、にぃ、と。どうみてもワルイ笑みを浮かべる。
ああ、ほら。もう他のヒトからも見えちゃうからおまえそれ勿体無いのに。

「オマエが想像してるより、オマエのことを愛してるからな、」
そんなことを告げてくれて、でも同時に。
前の車が動かなかったから、軽くホーンを鳴らしてた。
だけどね、ゾロ。そういう表情をきっとミラー越しにでも見ちゃったらアクセル踏めないって?
見慣れてるはずのおれだって、コトバ、すぐに出てこなんだよ?
「―――嬉しい、ほんとうに」
どうにか返せたのはコレだけだった。
「でも、おまえだっておまえの思ってるよりずっと、」
コトバを切った。
またクルマの流れが緩やかになっていく。
すい、と片眉を引き上げて、続きを促すようだったゾロの方に少しだけ身体を落として。
秘密の話しめいた距離でコトバにした。
「独占されちゃってナイデスカ」



「I told you that I love you with every piece of my heart and soul, that my love will forever be yours until my existence completely vanish?」
言ったろ、オマエのことはオレの心と魂の全てで、オレという存在がこの世から完璧に消えるその時まで愛すると。
軽い口調で本音を告げる。
「I mean, even after your existence evapolated or shattered in pieces, My Love」
おまえが消えちゃっても、バラバラになっちゃっても、そのあともずっとってことだヨ。
同じように軽い口調でサンジが返してきた。
軽い渋滞の状態をいいことに、手を伸ばして柔らかな頬に触れる。
す、と僅かに寄せられた頬に笑みを浮かべる。
「I sure will」
その通りだな。
暫く“いいコ”に徹していたお陰で、サンジが纏う雰囲気は真夏の太陽に似つかわしくなく艶やかだ。
シフォンのように柔らかく、その魂を委ねてはくれるけれども。
このまま引き返してオマエのことを喰っちまおうかと思うが、漸くまた車が動き始めたので自戒しておこう。
そう思っていたら、かぷ、と指を一瞬齧られた。
ちらっと寄越された蒼に、片眉を引き上げる。

「Naughty love cat, ah?」
イタズラ猫チャンだな?
小悪魔のような表情を浮かべたサンジに口端を引き上げてみせ。
それから軽い脅しをかけておくことを決意する。
「さっきのリクエストを全部叶えさせたいなら、イタズラは程ほどにしておけよ、」
サンジが声には出さずに、猫のように鳴いていた。
くっと込み上げる笑いは押し殺さずに、緩くサンジの額を突付く。
「悪い狼に噛まれちまっても知らないからな」




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