トラフィックを抜けて、後はスムーズにウェストサイドまでタスカンは機嫌よく走って。
ああ、ここまで来たならラッフルズに停めるか、いっそ「家」のパーキング?とも思ったけど直ぐに却下した。
普通に、路上駐車。人通りの絶えない一角だから、1時間程度なら大丈夫。
美味しいシャンパンが似合いそうな天気だけど。
ドライヴァ様はノン・アルコールだしなあ。
エンジン音が止まる前から。ちらちら視線が纏わりついてくるけど、仕方ないか。
ちょうどいまからがランチアワーだし、なにしろゾロはハリウッドの住人よりよっぽど現実離れしてるしね。
「おつかれ、ありがとう」
キィを抜くゾロに微笑みかけて。
フードを戻しながら、どういたしまして、って返された。
「オリジナルなカリフォルニア・キュイジーヌでいい?」
「ああ、任せた」
歩き出しながら問い掛ける。
「オーケイ、テラスの気持ちいいところにしようね」
水辺まで歩いていく獣じみた優雅さで、ゾロが道を進んでいく。少しだけ、ヒトの流れが変わる。
ストリートよりは店に近い場所ならオオケイだな、と返されて、いくつかのレストランを頭のなかから探し出す。
遠すぎもせず、近すぎもしない距離をおいて進むゾロだけを視界に収めながら。
うん、あそこがいいかな。
とん、と指先でゾロの肩に軽く触れる。
「決めた」
一本、メインの通りから横に入ったところにある店。
あそこなら、きっとあまり「行儀の悪い」ゲストはいないはずだから、ゾロも落ち着いて食事できるんじゃないかな。
と、いうより。
むしろ、プライドが邪魔してあんまり不躾に他人を眺めるなんてしない人種が多い筈。
ソムリエの女の子が可愛かったけど。もうきっと、本業が忙しいんだろうな。NYCで、ビルボードでよくみかけるようになったから。
あそこなら、偶々誰かが来ていたとしても。目配せと意味ありげな笑みでオシマイ。
それとも。
ユーレイでもでてきたと思われるかなぁ。通り過ぎる人たちだから、どうということも無いけど。
だけど、ゾロの存在感が大きいし、取り憑くような悪霊にはおれ、見えないだろうし?
バカな思考を少し遊ばせて、またゾロに眼を戻す。
「魚がイイ?あそこのは美味しいよ」
サングラス越しに、目元が微笑んでいるのが見えて。
また。
心臓の辺りが少しばかり忙しない。
「久しぶりにシーフード、食ってないよな」
「うん、ずっと砂漠だったからね?」
あそこだよ、と。
道を1本ずれてしばらく進んで、見えてきた小さなサインボードを指差した。
相変わらず、路上に置かれてる。
すこしはなれたここからでも、ちょうど良い音量で流れてる音と、カトラリも触れ合う音や、微かなヒトのざわめきの気配が届く。
す、と。柔らかく背中を掌で押されて、肩越しに見上げるようにした。
「うーん、キスしたくなるじゃないか…!」
囁き声付き。
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