分厚い音の隙間から、なぜかヒトの絶叫ってヤツが響いて。
知り合い連中とシャンパン片手に、失踪と気紛れの理由を訊かれてたなら、ソレが聞こえて。
まず、セブが。舌打ちした、知り合い?―――って、わ。
振り向いたなら、ちょうど真反対、ずいぶんと遠くにある筈のカウンタまでの距離がなぜか奇妙な具合にスカスカで。
音じゃなくて、冷気にぴりぴりしてた、空気。見えた、だってさ。
叫んでたのは、さっきのマルチェッロで。何故か、叫ばれてたのはゾロで。
ばしい、と。セブと目が真正面から合った。お互い、「ナンデ??」って顔してた、自分たちは。
だけど音の波のかでも大層見事によくサーフするマルチェッロの叫びは、明らかに懐かしさと好意となんていうかもう、嬉しくてしょうがない、ってトーンをちっとも隠してないソレで。
他人とかじゃアリエナイだろ。
反してゾロは、―――――うああ、肩の辺り。なんだか凶悪だぞ?気配が。
「なに。どしたのオマエのツレ」
「おまえのダチこそどうしたんだよ」
早口なのはおれたちで。
「すげえ、アリステア怒ってるじゃねえのー」
ひゃあ、とセブが片手で額の辺りを抑えて。
「や、でも。アレスのやつ尻尾がんがん振りっぱなしって、うーわ、男相手にアレが甘えるのかよ、なんだありゃ―――うーわぁ、恐ェー」
明らかに面白がってる声がセブからしてる。
「笑い事か?」
「おもしれぇじゃん、ほらほら」
ビックリ、が溶けてみればセブはにやにやわらいながら、遠巻きにされている2人組を指差す。
―――――叱られてもメゲテナイのはマルチェッロ、おまけにゾロの罵声はイタリア語だった。あれは、完全に懐いてるんだ、ってことは―――
「なぁ、セブ?」
「イエス?」
「アレッシィ、シカゴ訛りがちょっとあったよね?」
「んー、それっぽいかもな、真ん中からきたっていうし」
―――ビンゴ。
だったら、ゾロ、っていうよりは。ステファノ、の知り合いなんだ。
「嬉しそうだね、あれだけ小突かれても。うあ、あれ痛そうー」
あろうことか、頭突き?されて。マルチェッロが額を抑えて身体を折り曲げてそれでもわくわくしてる風情で。
呆れ半分、怒り半分、なゾロが。ずるずるずるずる、「わんこ」を引き摺る。
「あれは、仲良いよね」
「つーか?」
セブがすい、とブルーグレイをあわせてくる。少しだけ身体を折り曲げて。
「あれは、アレスがむちゃくちゃ慕ってンじゃねぇの、健気だなあ。アイツ、もしかしてギャングスタだったのかー?」
あっけらかん、と。バカの振りも完璧なDJが目を煌かせる。
「IRAじゃないネ」
「はーぁ?どうみてもファミーリア、の方だろ。まぁ、アレスのバカはもろバレだけどな、アリステアの方は擬態完璧だったのにナ?」
「いいんじゃないの?」
ほら、と半地下のパティオで、さっきからくるくると表情を変えているマルチェッロを見遣る。
話しながら、やっぱり気になってガラスの方へヒトの間を縫って近づきながら。
「あ、ホントだね。感動の再会って?」
セブがちいさくわらった。
「−−−うん、」
マルチェッロが、ぎゅうぎゅう抱きついていて。
ゾロ?ステファノ?アリステア?なんだかそれが全部混ぜあったような「ゾロ」が、なんだか諦めたみたいに、背中を叩いてるのが見える。
「ふゥん?」
セブの声が不意に近くで聞こえて。
「あああああにきィ!!!!は、下にあれァ好かれンな。イイ顔してンじゃん」
な?とセブが覗き込んできて。
「んー?しらねぇよ」
「あ、拗ねた」
「ガキじゃないよ」
「えー?そう?」
くい、と顎を捕まえられた。
「触るなっての」
「ほらほら、ガラス越しに見たら失礼でしょ。再会の喜びってヤツァ放っといてやりなさいって」
ほーら、向こう行こうねー、とまた引きずられかける。
拗ねる?マサカ。
マルチェッロがガラスの向こうから手を振ってきたけど。
腕押さえ込まれてるからノーリアクションしかないし。だから、目で「どーぞご自由に」って言ってから。
「放せってばバカDJ」
「むこーいったらな!」
マルチェッロがまた額を抑えてた。また何かされたんだ?懲りないなぁ。
まぁ、いいや。
遊びに来たんだし、ゾロもトモダチがいた方がいいし。
そう思って視線を戻しかけたら、一瞬、すこしだけ困ったようなカオしたゾロが目線を投げてきて。
軽く肩を竦めて見せた。きっと、ゾロのことだから見えるだろうな。だから。にー、とわらって。
うわきもの、って言ってみた。音にしないで。ウン、冗談だって、ハハハー、だ。
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