ブロードウェイから外れて、ブルーミングデールのあるレキシントン・アヴェニュウに入る。
パーキングに停めて、周りを確認してから車を降り、ロック。
状態を記憶してから、百貨店のエントランスに向かう。
さて、土産には何を買っていこうか。
もうすぐ、旅行が始まるしな。
ああ、ラゲッジケースでも買っていこうか。
エリィには、チキンでも。
トラベル・アイテムのフロアを半周して。
前にサンジが好きだと言っていたブランドの店を見つけた。
積み上げられたディスプレイのスーツケース。
1個1個手作りの、イギリス製の革とファイバーのモノだ。
"世界を巡る"なんてシャレたブランドの。
声をかけてきた店員と暫く相談をする。
色と大きさ、総重量を確認。
まあ、重ければ自分が持てばいいだけの話だけどな。
あまり大きすぎても仕方がないから、30インチの黒革に茶のストラップの、オリジナル・デザインのスーツケースを自分用に。
それからサンジのためには、センティナリ・デザインの同じく30インチのスーツケースを購入。
同色で買ってもつまらないので、たまにはサンジが好きな赤のモノを。
真っ赤だと締まらないから、茶のストラップにする。
"マミィ"と一緒だと、"ベイビィ"は嫌がるか?と店員に訊けば、呆れられた。
"9ヶ月のオコサマは、そこまで自己主張なさいませんよ、お父様"。
猫…なんだがな。
ま、勝手に誤解はさせておけばいい。
一応"エリィ"はオスだしな。オレンジよりはグリーンのほうがイイか?
―――ヴァケイションらしく、明るくいくか。
オレンジのセンティナリ・デザインの、9インチのヴァニティ。
それを纏めて、包ませた。
「プレゼントですか?」
「ああ、一応全部包んでもらえるとありがたい」
ラッピングを解く喜びってのは、あるしな。
クレジットであっさり一括購入してやれば、気合が入り直ったと見える店員が。
丁寧にエレガントな包装を施してくれた。
それを包ませている間に、フード・フロアでフリー・レンジのブロイラー・チキンを買って。
車までお運びします、という店員の心意気を買って、車まで戻った。
乗り込む前に、ざ、と目でチェック。
明らかに"新車"で"旅行気分"な"上客"から少し大目のチップを貰った店員は。
傍目にもうきうきとした様子で、帰っていった。
チキンを冷蔵庫に入れて、帰路に着く。
―――出かける度に思う。
誰かが待ってくれているというのは、プレッシャーにもなり得るが……良いものだ、と。
アパートメントの前で車を停めて、部屋まで戻る。
手にはチキンとトラベルケースが3個。
ドアの前で鍵を探していれば、珍しく、開くことがなかった。
いつもなら、車が停まる音で出てくるのにな…?
周りを再度、ざ、と見回してからドアを開ける。
問題は無い―――ああ、気配はあるな。寝ているのか…?
荷物を持ってリヴィングまでいけば。
窓際にあるソファの上で、サンジがクッションに埋もれて、すやすやと眠っていた。
すい、とエリィが顔を上げ、尻尾をはた、と揺らめかす。
唇に人差し指を押し当て、しぃ、と合図。
チキンだけを冷蔵庫に仕舞いに行き、それからソファに近づく。
日差しを受けて金色の髪が、きらきらと煌いていた。
エリィが僅かに誇らしげに見つめてくる。
ああ、オマエはよくやった。いいコだな。留守番、ご苦労様。
頭をそうっと撫でてやると、静かに喉が鳴っているのが伝わってきた。
眠っているサンジの髪を、額からそうっと横にずらしてやる。
柔らかな手触り。"猫毛"という表現がよく解る。
僅かに長い睫が揺れ、呼吸のトーンが変わった。
いい、寝てろ、と念じる。
"眠り姫"を見詰める王子は、こんな気分だったのだろうか。
"白雪姫"を見詰める王子も?
発想に、低く笑う。よりによって"王子"はないだろう。
ロマンティック・バレエの演目でもあるまいし。
7月の日差しは随分と温かいのか、眠ったままの頬は、僅かに赤みを帯びていた。
いいシエスタのようだ。
また眠りに戻ったエリィが、すい、と身体をサンジに添わせるのを見て、一度車をパーキングに停めてくるか、と考える。
僅かに身体を浮かせれば、ゆっくりと瞼が引きあがっていった。
マンハッタンの空より青い目が、くう、と細まっていく。
そこに溢れる表情は"歓喜"。
すう、とサンジの細い手が上がってくる。
そのまま、頬を包まれた。
温かく柔らかい掌。
ふわりと微笑んだサンジが、
「―――おかえり、」
と柔らかく言ってきた。
「タダイマ。待ちくたびれたか?」
笑って口付けを落とす。
すう、と両腕で抱きしめられて、サンジの浮いた背中に腕を回す。
「不貞寝してたんだよ、エリィと」
「良く眠れていたみたいだった」
きゅう、と肩口に顔を埋めてきたサンジの髪を撫でて、横顔に口付ける。
くすん、と小さく笑う声が響いてきた。
きゅう、と抱きしめられて、抱き寄せる。
「起きないようだったら、車を停めに行こうかと考えていたんだ」
「ん?」
さらさら、と手から零れる金髪の手触りが気持ちがいい。
く、と見上げてきたサンジの青を見詰める。
「停めてないの?」
「新車。レンジローヴァ・ディスカヴァリ。エリィも乗せて、試乗に出かけようかと思ってな」
どうする?と目で訊く。
「――――――ンん?」
まだ僅かに寝惚けているサンジの頬に口付ける。
「ひとまず、目を覚ますためにそこの土産を開けてみろ」
ぱあ、と漸く表情を明らめたサンジから腕を緩める。
すぐに、ふわ、と笑ったサンジが腕を掴まえなおしていった。
「目覚めは決まってるんじゃなかったっけ?昔からの決まり」
キラキラと目を輝かせるサンジが。
Would you please?と言い足してきた。
すい、と長い睫が伏せられて、不意に自分の役割のミスマッチに笑い出したくなる。
「With your kiss, my life will begin」
"あなたのキスで、生まれ直すから。"
そう言ったサンジの唇に、キスをする前に告げる。
「王子じゃないぞ?」
トン、とキスを、笑ったまま落とす。
く、と小さく笑って。サンジが柔らかく告げてくる。
「そうだね、アナタは―――」
ふ、と零れた吐息が甘い。
「おれのイノチかな、」
くう、と抱きしめられる。
さらりと髪に口づければ。
「出かけるとき、不細工なカオしてたろ、ごめんね」
柔らかな口調で、小さく落とした声でサンジが言ってきた。
「かわいかったぞ?」
笑って唇を啄ばむ。
「笑ってる方が、好きだけどな。オマエがオマエらしくあれば、オレは好きだよ」
どんなオマエも、愛しているからな。
さあ、とカオを赤らめたサンジの、火照った頬に唇を押し当てる。
「美味そうなカオするな。すぐに食っちまいたくなるだろ、」
笑って軽口。
するりと腕を解く。
「おれ、アンラップしてくれないんだ」
"小悪魔"のような笑顔を浮かべたサンジに笑って返す。
「あっちが先?」
3個の、大きな包みをサンジが指し示す。
「そう。この後出かけないなら、車パーキングに入れてきちまうよ」
笑ってサンジの手を取り、立たせる。
「一人1個ずつな?」
頬にキス。
サンジがふい、と見上げてきて。
伸び上がってきて、トン、とキス。
それから、包みを解きに行っていた。
一つ目のラッピングをするすると開けて。
「ヴァケイションだ」
ハッピー・ヴォイスで言った。
「目的地はオレンジ・カウンティ、大陸横断の旅。楽しそうだろ?」
ヴァニティを見て、くっくと笑うサンジの横でラッピングを拾い上げる。
サンジがふわふわと甘い笑みを浮かべて振り向き。
「ほんとう?」
そう言ってまた笑った。
「ゾォロ、うれしい、おまえと?」
「こっち移ってきてから篭りっきりだったしな。暑くなる前に家族旅行だ」
ふわん、と天使のように甘い笑みを浮かべたサンジの金色に輝く髪に口付けを落とす。
「おまえといられれば、ほんとうは何処でもいいのに」
すう、と腕を回してきたサンジの腰に、腕を回す。
「どこでもいいなら、行く価値はアリだな」
トン、と唇に口付ける。
真っ青な双眸が、きらきらと愛情に溢れて煌いていた。
「世界じゃなくてアメリカを巡る?」
にこお、と笑顔を浮かべたサンジを抱き上げる。
「プランは南の大都市を回って、ロスまで。1ヶ月ほどかけて、ロード・ムーヴィばりのヴァケイション。楽しそうだろ?」
「最高」
ひゃは、と笑ったサンジ抱えたままを、くるりと一周回る。
「アストンだと、少しキツいからな。レンジ・ローヴァに買い換えた。新車だから革の匂いがまだ取れていないんだが、
砂埃の中を長時間走ってもアレなら平気そうだろ?」
僅かに目を見開いたサンジに笑いかける。
「おれも運転してイイ?」
「オマエ、免許持ってたっけか?」
「持ってるよ―――!」
にこお、と笑ったサンジの唇を啄ばむ。
「じゃあ、名義変更してこないとな、ミスタ・サンジ・ウェルキンス?」
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