部屋に戻ってから。気づいてしまえば。
焦れて、泣きそうになっていた。指先、届かずに。つるりと薄くて硬質なモノが在る。
そんな感情がずっと底に凪いでいて。腕を伸ばしてみても何かがある、そんな感覚で。だけど、それでも変わらず、ほんとうになんにも変わらずに、愛されているのもわかる。
そして―――すべてと引き換えにしたって後悔しない、愛してるっていう想いと。変わらずにあるのに、だから、こそ。コドモじみて焦れた。
冴えて、穏やかな翠がおれを写してる、それはわかる。
だけどおれのコトバ、おまえに届いてる……?腕をきつく回して、そうしたなら齎されたコトバがあった。
見上げる翠、それにおれは変わらず見惚れるけれど。
その底を過ぎるものが読み取れないよ。でも―――
抱かれてみるか、と問われた。
おれの知らないころの、“オマエ”に。
唇に触れる。そうっと、重ねる。
ほんの僅か、体温を移すくらいに触れてみれば。く、と首の後ろ側、強い手に引き寄せられて。自分から身体を少し引き上げる。
薄く開いた唇の間に、差し入れられてまた肩が揺れた。
背に回していた腕を引き上げて、眼を閉じた、ゆっくりと。ひく、とまた身体がちいさく跳ねかける。
息を零すくらい、遠慮が無くて。いつもみたいにからかうのとは違って少しだけ―――乱暴、な。抱きしめてくれる腕が痛いほど、きつく。力、労わるよりもその存在を知らされるみたいに、どこかざらりと力の影が横たわる、撫でられて。
「−−−−っ、」
きつめに舌を絡ませて吸い上げられて。また背で指先を握りこむ。
直に、追い上げられるみたいにとても精巧に掬い上げられ。身体の奥からも、肌の表面からも。引き起こされてくモノがざわめいてく。
「―――っふ、ぅ」
喘ぐ声が零れ落ちてく、それもすぐに呑み込まれて。
甘やかすみたいなゾロの、柔らかい声で名前呼ばれることもなく。浮いた唇の間を、つるりとまた濡れた舌先で辿られ、短い声があがってく。
だけど、差し迫った飢えなんか一切感じない、からかってるわけでもなくて。指が、ただ3つだけ留めてあったシャツのボタンをあっさり外していく、身体の表面を生地が滑り落ちていくその動きだけで身体が熱くなる。
だけど、おれは伝えたいから、名前を切れ切れに呼んで。
指先に、手触りの良い髪を梳いて。額を押し当てるようにしてた。
合わされる、ガラスめいた透明度のあるグリーンが。おれが名前を綴ると、まるで真意を測るみたいにじぃ、と覗き込むようにされて。焦れて、焦がれて、愛してるのに、同じくらい心臓の奥が軋むけど。
それでも、おれはおまえに愛されたいんだ。愛させてほしいんだ。
「もっと、」
囁く。腕に爪を立てるくらい、縋る。
ふ、と軽く笑う、ゾロが。だけどその笑みは、おれに向けられてるわけじゃない、遠い。
その笑みをみておれの中は溶け出すことはなかった、けど。じわり、と渇いた。オマエに。
強い腕に抱き上げられて、フロアから足が浮く。ゾロの首もと、チェインに口付けた。ベッドルームに連れていかれる間に。カットソーの薄い生地越し、キレイに模られた背を辿る。腕の届く場所ぎりぎりまで。
「っく、ん、」
ベッドに押し付けられて声が零れる。
肌の表面、柔らかく口付けられるたび。身体の跳ねて震える箇所に時おり歯を立てられるたび。
まるで、身体に記されたなにかを辿り直すのかと。それくらい、遊びが無くてそれでも容赦なく快楽を引き出していかれるなんて、はじめてで。
ひとつ息が引き上げられて、身体が追いつく前にまた、薄く穿たれて奥から高まる。
「ぁ、アぁ…っ」
声だけが滑り落ちてく。
逃がしたくても、溜め込まれていく熱さと。辿られるだけで泣きそうなくらい、感じる。
くすくすわらいあう余裕だとか、おまえの見せてくれるサインだとか、何もない。だけど、疼くように肌の下が熱い……―――あまやかされてる身体だった、って。同じおまえから知らされて。
「あ、ぁ…っあ」
ボトムス、引き降ろされるだけで身体が強張りかける。
指先がリネンを縋って。息を零そうとしても、腰骨まで撫で下ろされて身体が震える。
「んぁっ、」
押しとめてくる掌、その熱さに潤みきった目で見詰めても。
翠のなかに、飢えと混ざりあう、狂おしさ、欲されてるってそれだけで信じられる色は無くて。一瞬、おまえなのかわからなくなる。
引き上げられるのに、熱に溺れきれずにいたなら。中心に触れられる、唇で。
ミドリは逸らされず、一瞬コンランする。
「−−−ゾ、ぉろ…、」
濡れた声が喉をせりあがるけど。
奇妙なアンバランス、愛情と、だけどどこか醒めて静かな。おまえのそんな表情、おれは知らない。だけど―――
「あいしてるよ、」と。言葉にして泣きそうになった。
身体の訴えてくる熱情と、アタマのなかで溶け切れない快楽と、確かにオマエに抱かれてるって事実と、ぐしゃぐしゃだ。だけど、確かなのはやっぱりただひとつで、オマエだけをおれは欲するんだ、って。身体も心もタマシイも現在も過去も、それこそ全部、なにもかも。
涙を零してたのかもしれない。身体の中心、熱にきつく引き上げられて。
「ぁ、ッア、…っ」
背が浮きかける。
絶え間なく引き上げられて、ぱし、と視界が無くなる、一瞬。腰、捩れかける。
くん、と身体が強張る、弛緩することも出来ないほど高められたまま。耐え切れずに熱を零しても、放してもらえずに深く含まれたまま短く鳴く。
「・・・っあ、」
リネンに投げ出した自分の腕が妙に鮮明に見えて。灯かりが落とされてもいないことを、いまになって知る。
「目、閉じてろよ」
静かにそう言われたけれど。短い息をしながら、首を横に振った。
「―――ゃぁ、」
知らず、上げてた片膝を戻そうとしたなら。ぐ、と腰上げさせられて。
息を呑む。
―――――ぁ、あ。
とくん、と心臓がまた鳴った。
理性?が警告してくる。いいのか、って。だけど―――
躊躇いをとうに見透かした力強さで、足を広げさせられて。曝される。
「―――ぁ、」
意思とは関係なく、視界が揺らぎかけて。高まった身体の奥、身体が強張りかけたのを。
「――――――ぁ、あ、ンっ…ッ」
差し入れられる乾いた熱と。下肢が捻れ跳ね上がりそうになる濡れた熱さと、同時に奥に感じて。震える。
揺らぎそうになる下肢を引き留められて。丁寧で、何も見逃さない、暴くような巧みさで快楽を落と込まれてく。
「ぁあ、ッァ、」
交互に、ぐるりと内を撫でられて、濡れた声が強請るみたいにこぼれてく。
「く、うッンぅ」
身体が拒もうとする、過ぎた熱を逃がして欲しいのに。
まだ先、もっと奥、高いところへと。どこか乱暴に、舌と指だけで追い立てられてく。
音。濡れて。
「ぁ、ぁあ、あ、ゃぁ、やぁ、だ―――ぁ、」
涙が零れても、内はまだ先を焦がれて。
優しいのに片時も許してくれない、ただ熱い焼ききれそうな快楽だけ与えれ続けて。
「は、あ、…ッァ」
また、蜜を溢れさせてた。
熱を零した震えも収まらないのに、拓かされた奥に、濡れた舌先を浅く深く、ぐうっと強く差し入れられて、鳴いて。奥まで濡らしていくのを酷く緩慢に身体に覚え、感知させられてく。
ぽろぽろ勝手に涙が零れてくのを、ゾロのミドリは映し出すけど。
差し入れらたものを締め付けて、身体は咽いでる、もっと、と。
手は止められずに、またおれを高めていくその熱さに涙を零して。
リネンを腕が滑る、縋るものが欲しくて。
身体が内側から溶け落ちる、焼け落ちる前にぐずりと崩れてく。
腕、なんとか伸ばして。
おまえに、触らせて―――?
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