拙い舌使いで舐られる―――常ならば愛情が沸き起こって仕方が無いのに、今も感情はフラットだ。
泣きそうな蒼い瞳だとか、懸命に吸い上げてくる仕草だとか、震える四肢だとか―――愛している者なのに、快楽は一定値を保ち続ける。
いま意識は、マルチ画面のモニタルームのような状態だ。さまざまな情報が一定量で流されていく。
だから―――サンジがたどたどしく舐め上げいる間でも、エリィが居る位置や、エアコンディショナが作動している微かな音、キッチンにある冷蔵庫のモータの音、そんなものまで拾っていく。
意識が拡散している、私情は概ね押し殺される。
く、と舌が絡まり、吸い上げられる。反応が一定以上に上がらないことに、苛つきはしないのだろうか?
僅かに息が苦しそうなのが解る―――それでも止めようとしないのは……
疑うことの馬鹿馬鹿しさ。
“愛している”
“愛されている”。
―――泣きそうになりながらも、縋りつくようにオマエの存在が意識の一部にしがみ付いている。
腿辺りに片手が縋るように力を増し。
いっそう奥まで迎え入れられる―――肉体が快楽を享受していく。
このままオマエを抱いちまったら―――ああ、オマエのガーディアンに殺されるかな。
不意に意識に上った情報に、口端を吊り上げる。まあ……それも覚悟の上だった筈だ。
なぁ、と揺れる金色の頭に声を落とす。
く、と吸い上げられて、緩く髪を撫でる。
少し唇が浮いて、蒼が金色の間から覗いた。色付いた目元をそっと撫でる。
「抱かれてみるか、って訊いたんだよな―――来るか?」
目を細めていたサンジに訊く。
ふ、と息を零していた。
いっそう柔らかな風情に、目を細める。
ぺろ、と熱を舐めたサンジが、小さく「くれないんだ、」そう呟いていた。そしてゆっくりと身体を起こしている。
色付いた声に、小さく笑う。指先で喉元を撫でる。
すう、とサンジが乗り上げてきて、自ら拓こうとしていた身体が、く、と震えていた。
「…サンジ、」
名前を呼ぶ。
ゆら、と蒼が合わせられていた。中心部に手指が添えられ、ゆっくりと奥に導かれる。
「あ…なに、蕩かされたのにね」
ちっさい揺れる声が、唇から漏れて。こくっと喉が上下していた。
く、と息を呑み。サンジが身体を落としていっていた。
小さく眉根が寄っていく。苦しそうではあるけれども、色味が増して、酷く色っぽい表情だ―――それが響いてこないわけじゃない。
ただ――――
「―――ぁ、あぁ、ア、」
息を吐くたびに切れ切れな音が空気を震わせる。
ゆっくりと、最奥までサンジが含んでいく間に、何度も快楽に震えているのが見えた。
きゅう、と肩に縋り付かれて、背中に軽く回していた片腕に力を込める。
泣き出しそうに潤んだ蒼も。
赤く色付いた艶やかな肌も。
苦しげに息を吐き出す唇も。
愛しくてならないもの―――そう解っているのに。
「―――バカネコ、」
うっすらと汗ばんだ頬を撫でる。
とろ、とサンジが微笑んだ。
向かい合ったサンジの身体を引き寄せ。
そのまま唇を合わせる。
「…ぁう、」
喘ぎ声はそのまま飲み干し。快楽に竦んでいた舌を絡み取る。
両腕でサンジの身体を支え、キツく熱いウチが絡み付いてくるのに構わず、ゆっくりとリズムを刻ませる。
“くれないんだ”と呟くように言ったサンジの声が頭の中でエコーする。
甘く苦しげな嬌声を喉元を滑り落とさせながら。
オマエに与えられるものは全て、差し出していると思う。
生きるために必要だった“今”の状態の自分を―――捨ててきた筈の“形”ですら、オマエと向かい合いた
いと思うほどに。
甘い嬌声を飲み込み、熱い身体を下から穿ちながら。自分のイカレ具合に、阿呆みたいに満足した。
縋るように回された腕―――抱きしめようとしているのか、これは?
何度も滑る腕が懲りずに戻されるのを感じながら、サンジが一番深く感じ続けるリズムで追い上げていった。
昂ぶり過ぎた快楽に、舌が震え、零れた涙に頬が濡れる―――ああ、“愛し合って”いるのかもな。
奇妙な満足感が沸き起こっているのを感じ取りながら、サンジを絶頂へ促す。
腹に擦り付けられていた高ぶりが、熱い飛沫を零していた。
そのまま構わず、怯んだような舌を軽く噛んで押さえ、テンポは緩めずにおく。
くう、と強く絞られるのに、歯を食いしばる―――快楽は、精神と合わされば二乗の効果を齎すが、合わなければ精神を置き去りにする。
だから、どこまでもフラットな感情を抱えたまま、
内で沸き起こる衝動を自覚する。
身体を震わせ、強張ったままのサンジの内を強く抉る様にリズムを刻み。
ぽろぽろと頬を涙が零れ落ちていくのに、漸く口付けを解いた。
息も苦しそうだしな。
「なぁ、泣くなよ、」
―――本当は泣いても構わないんだけどな。
ぺろりと塩辛い涙を舌先で掬い取りながら囁く。
「――――ぁ、っん、ん」
快楽に浸りすぎてどこか霧がかった蒼は、それでも“オレ”を捕らえている。
抑えようとしている嗚咽、溜まらずに泣きじゃくるように喘ぎ、無我夢中で鳴き―――ああ、“イトオシイ”よ。
「かな…し、いんじゃなぃ、から、」
溶けそうな声のサンジの耳に囁きを落とす。
「解ってる、―――愛してくれてるんだろ、」
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