鼓動が高鳴っているのを間近で感じる。
あの夜以来、また感覚が鋭くなっているのはしょうがない―――笑いたくなるようなシアワセな気分のまま思う。
今ならきっと、一つ触れるたびに跳ねる心臓の音すら、捕まえられるかもしれない。
さらりと手触りのいいシルクの上に手を滑らせる―――ああ、ほら。跳ねた。
く、と詰まった息が耳元で優しく神経を煽る。
そのままさらさらと指を滑らせ、軽く首筋に歯を立てながらローブを結わいていた紐に手をかける。
赤のシルク。連想する―――カワイソウな子猫チャン、まぁた喰われちまうぞ、奥の奥まで。
ゆら、と蒼が揺れ。頼りない音程で舌足らずに名前を呼ばれる―――滴っているのかと錯覚するくらいに甘い声。
紐を引いて解いて、左右に生地を開かせる。
「―――ああ、そうだ」
する、と指で胸の上に線を引く。
「どうせなら、少し楽しんでみるか」
「な…っ、に……?」
揺らいだ声に、潤んだ蒼を見詰める。
「ちょっと待ってろ」
一心に見詰めてくるサンジに、にぃ、と笑みを浮かべる。
「頼むから、嫌だ、とか言うなよ?」
手がローブの傍で、肌蹴られたままなのを躊躇している。
首が傾げられ、くすっと笑いを零す。
「ベイビィみたいなのも可愛かったけどナ、いまはもっと……な?」
さあ、と目元を赤らめたサンジの唇を指先でなぞってから、体を離してベッドから降りる。
アンパックされた荷物が置かれたクローゼット。からかうような茶色の眼差しを思いながら、小さな瓶を手に取る。
シーヴァ、ねえ?子猫チャンの餌ってわけか。
ぽーん、と放り投げながら、ついでによく冷えたミネラルウォータの瓶も冷蔵庫から取り出す。
上機嫌のままの自分を自覚しながら、それでも悪い気はしない。
ベッドルームに戻れば、シルクのローブの前をゆるく合わせたサンジがそのまま横たわっていた。
ふゥん?
ふわ、と目が開けられ。上半身を起こしたサンジが、す、と視線を向けてきた。
「美味しく頂かれたくはない?」
ぽーん、と小さな瓶を放り投げながらからかう。
一瞬きょとん、としたサンジに、にぃ、っと笑いかける。
「脱いで素っ裸で待ってるかと思った」
それはオマエの性格ではないけどナ?
ふわん、と微笑んだサンジの傍に戻る。ペリエの瓶をサイドテーブルの上に乗せる。
「そういう方がいい?」
甘い声で言ったサンジに、好きにすればいい、と笑いかける。
「どのみち遠慮なく喰っちまうワケだし?」
細い指先がすう、と襟元を撫でていくのを目の端で追いかける。する、と赤が目の前で揺れ。ゆっくりと左右に生地が滑り落ちていく。
とろ、と熱く蕩けた吐息が、僅かに開いたままの唇の間から零れ落ちていった。
にぃ、と口端を引き上げ。サンジの目の前で黄金色の液体が入った瓶を揺らす。
「プレゼント」
さあ、どういうことか理解できるか?
ゆっくりと蒼が見上げてきた。真っ直ぐに、それでも艶やかな色味を取り混ぜた視線が合わされる。
「そうなんだ?でも、」
甘い声でそう言ったサンジが一つ息を飲み込んだ。
「……嫌、っていうオプション。ナシなんだろ、」
小さく落された、それでも艶を含んだ声が囁くように言っていた。
「まぁな」
サンジが落したローブをフロアに落とし。
すう、と一瞬閉ざされた瞼の間から蒼がまた覗くのを待つ。
ぴく、と揺れた肩は、サンジの“期待”の度合いを反映していて、またどうしようもなく楽しくなる。
「ケド、オマエ。嫌いじゃないダロ」
「ゾロ、」
小さな瓶をひとまずリネンに転がしておく。
「んー?」
かり、と肩口を齧られ。勝手に笑いが零れていった。そのままサンジの熱く火照りだした背中をそうっと引き寄せる。
「酷いのな、そんなの知らないよ」
拗ねた声が耳を擽る。
するりと背筋に沿って指先で辿り、甘えたままのサンジの耳元で声を落す。
「チャレンジするのに躊躇はしてないだろうが」
軽く肌を粟立たせたサンジの腰あたりを指先で擽る。触れるか触れないかの瀬戸際の、フェザータッチ。
「Somewhat you're my master」
だけど、ある意味。オマエってば“先生”だし。そう甘い声で返してきたサンジの目を覗き込む。
「ふゥん?」
ぺろり、と目尻の火照った肌を舐める。
「おれ、なぁんにも知らなかったもん」
艶めいた笑みを浮かべたサンジの腰に手を添え、リネンに背中を落させる。
「それが今じゃなあ?」
顎のラインを指先で辿る。
「甘えて強請ってくるようになっちまってな」
にぃ、と口端を吊り上げる。
「いいんだ、オマエ専任の、インキュバスにでもなる」
とろりと潤んだ蒼が、きらきらと光を弾いている。
「……じゃあ甘えた声で強請ってもらおうか」
どのみち鳴かすけどナ。
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