甘く熱が積もるような身体の表面が、指先で触れられるだけで、眩暈がするかと思った。
そしてなにより、何処か緊張もしていて、同時にどこまでも甘えている自分にも気付いて。
今朝目覚めてから、それはずうっと続いている。
耳に届く声は変わらないのに、その口調がおれの知ってるどれとも微かに少しずつ違っていて。
おれの記憶にいつまでも残っている、少しどこか張り詰めたようなトーンはとても薄まってやがて感じ取れなくなるほど微かになって、いまでは酷く上機嫌なときの、からかい混じりの色味が。底に流れていて。
だけど、いま初めて聞いたわけじゃ、ない。昨日、両腕に抱きこまれながらテラスで聞いたソレととても近くて。
だけど、僅かに違っている。
髪の先までおれのことを甘やかしてくれてるだけだった、昨日の声とも違って、鼓動が勝手に跳ね上がる。
いまのおれが「ある」のは、オマエがいればこそ、で。それはもう、なにもかも。

そんなことを甘えた口調で告げれば。
ずく、と。新しい疼きを埋め込んでいく手指が軽く触れて。背中をリネンについて、見上げていた。
午後ちかい光りを溶け込ませる翠。
指先で、顎のラインを辿られるだけで、息が零れ落ちそうになる。
甘えて強請るようになった……?おれ?
でもそれは、オマエにだけで。
視線だけで、何かを埋め込まれているかと錯覚しそうになるんだよ……?
求める気持ちが、堰を越えてしまうのも。
愛している、ってことと。快楽に涙を枯らすこととが、縺れ合うのも。
おまえにだけだ、ってこと。知っていて言う恋人に。だから、言葉にして。

“甘えた声で強請る”、なんてことも。煌いた翠が要求してきたなら。
おれに、拒否なんてできるわけがないのに。
ゾロの手の中にあった、金色のモノも。それを手にしていたゾロも。
多分、手酷い誘惑者なんだろうな、と。溜息にも似て、どこかで思っていて。けれど、その腕だけがおれは欲しいから。やっぱり、おれはばかなままなのかな……?
何も知らなかったバカなコドモが、バカなおれになって、そのあとは何だろう。
どこかまだぼんやりしたままで思っても、走り出しているのはアタマもカラダも気持ちもぜんぶで。
「ゾロ、」
おぼつかない声かもしれない。
「んー?」
ほら……な?
穏やかにのんびりしてる声だ。触れそうで触れない手指に、もうおれは焦れてるのに。
「”ベイビィ”じゃなくなるようにする、」
肩口、さっき軽く歯を立てた場所を指先で辿る。
「ばぁか、」
間近で、からかうような声が落とされて。

ゾロに答える前に。
ひどく楽しそうに煌く翠に魅了されていたら、噛み付くようなキスが落とされて。
く、と。指先を辿っていた肩に埋めた。
唇を割り入る熱に、身体が奥から揺らいで。
声を逃がしたくて首を逸らすようにしたなら、そのまま深くまで弄られて捕まるようにあわせられて喉がひりつくように思えて。
肌の表面は、ほんの僅かに触れられる感覚にひりついて、もっと先を強請る。全身で。
あわせられた唇が熱くて、喰われてるみたいだ、とどこかで思って。
絡みとられる強さに、おれを内側から噛み砕いていった“ステファノ”の烈しさが見え隠れしても、優しく身体の面を触れていく掌に“ゾロ”なんだ、と腕をまわす。
ぞく、と。背中の中心を甘い痺れが爪でたどられるみたいに落ちていって。
足先が、リネンに線を引いていく。
ついていけなくなるギリギリ、で。漏れる息だけで、強請ってる。もっと触れて欲しい。
落とし込まれてく甘い重さを広げさせて欲しくて。
長い口付けに、何度も腰が捩れていきかけても。羽根よりもかるいタッチでもっと焦らされて。

「−−−−−−ぁっ、」
薄く、唇が浮かせられたときに零れた音は濡れ切っていて。
一瞬だけ、浮かせられたゾロの身体の重みをバカみたいに恋しく思う。
鼓動が、早すぎて。肌の表は熱くて。
息を浅く取り込んで。
泳ぐように流れた視線が、ゾロを見つけて。
ゾロは、リネンに落としていたガラスを取り上げて金色の液体をビンの中で揺らし、指先を濡らし。
纏わりつくとろりとした透明にもみえるソレを口元へもっていってた。
く、と。その様に身体がまたどこかへ引き上げられる。
「ふゥん、」
耳が、ゾロが漏らした軽いトーンを拾って。
ちらりと覗いた舌先の赤に、眼を逸らせなくなりそうで。
「の……むの?」
揺らいだ、掠れた声。
どうにか喉から押し出した。




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