――――……ぁ、れ…?
へんだ、と。
「―――――――――ろ……?」
声がカラカラで。
でも、それ以上にへんなのは。
さっきまで、―――おれ。
ぞろ、の。髪に手、入れてなかったっけ……?舌先、まだ。痺れてるみたいな気がするのに……?
深く絡めるまえに、舐めさせてもらってなかったけ……?
「オハヨウ、」
すう、っと。
音が、目に見えるみたいだ。ゾロの、声が。
重さのないクリスタルの欠片みたいに、キラキラと――――――――――落ちてくる。
「―――――ぁれ…?」
目を閉じてみる。
とーん、とーん、と。肌の表面に、欠片が落ちてあたってくみたいだ。―――――目を開ける。
ぞろの身体に添わせていた腕を、引き戻して。
重い、うう。
伸ばした指で、唇に触れてみたなら。
指が重くて、すこし唇が押し付けられるみたいになって。
「―――――っふ、」
指先に、すこし。濡れた感じがして。
手が落っこってた。
乾いてたね、―――――へんなの。
そのまま、自分の口に指もってきて。
「―――――ん、ん……?」
辿ってみた、ら。
「―――――かわいてるよ、」
おれのも。
ずっとあてられたままの、眼差し。
見上げる、――――――――――首、だるい。
「へんだ、」
訴える。
「ナンデ?」
なんで……?だってさ、ずっとキスしてたよ。そうだろ……?
「も、ダメ、っておもったのに、」
おかしい、うん。
また、笑い声の欠片。きらきらしてた、それから。
薄くひらいたままだった唇に、乾いたままのキスがとん、と。
「――――――――――ぅう?」
すぐ側で、光を取り込んでる翠をみる。
「ちがぅよ、」
ちがうじゃないか、ぜんぜん。
けほ、と。咽かけて。
「なんでさっきとちがう?」
は、と。 短く息を吸って、一つ呑みこむ。
「……、」
みどり、見詰めてみても。
「さっき?」
トン、トン、って。
ちっさな笑い声が尖ってない角で顎のとことか、落ちてく。あたってる気がする。
「うん、」
頷く。
「オマエ、浮気してた?」
「ここらへんまで、」
手を伸ばして、指先。ぞろの頬とか。薄く笑ってるせいでゆっくりと肌のした、うごいてくのとか
感じとれるくらいに押し当てて。
「なかから食われちゃうのかと思ったの、じゃあ、……え?」
む……?うわき?
「相手、オレなのか?」
指先からも、伝わる。
もっと、わらうみたいな声と。
「わかんないよ、」
瞬きをもういちどしてみる。
「やさしかったもん、」
目を閉じそうになる、掌が髪を掻き混ぜてく。
「やぁさしかったもー……」
ん??
キラキラ、光のわっかが ―――――水?
いらないよ。
「いらぁない、」
いらないか、と訊かれて。
たぽん、と。水がボトルの中で揺れる音が聞こえた。
飲むのか、ふうん。
く、と。顎捕まえられて。
「んんんん、」
水、含んだ唇あてられて。
いらない、って、と。言ってみる。
だって、いま。なんか、きもちぃいし。わらいだしたい感じだし。
「んー、んぅ、」
頬、のとこ?
触られたら口ひらいちまって。
水、飲み込んでく。ひや、と。すぐに消えてく。
「ん、くく……っ」
変な音ー。笑い声じゃないねえ。
へんなの。
飲み込んで。
あん、と。
さっきまでしてたことの続きしてみた。柔らかに優しい口付けを終わりがないほどに。
そして、逃げる振り、追いつく振り。
ほしい、来て?と。言葉にしないで濡れた音だけ。
ちゅる、ってイメージの音。そんな風に絡めて吸い上げてくれてたのに離れてって。
「―――――ぅー、」
んん、ん?
上向きのまま。
水、飲んでて。
「―――――っは、」
顎、のとこ。伝い落ちてきた水。
掌で拭って。
そのまま、首の下まで掌を落とした。
「びしゃびしゃ、」
掌を動かして、言葉にする。
「マサカ、」
ぞろが笑い声混じりに言ってくる。からかうみたいな、柔らかい。
「ほんと」
「昨日に比べればナ」
「いみわからないよう、」
笑いカオに返す。
口元、引き上げたぞろが。
顔の前に腕もってきてくれて、見上げた。
「なぁんですかー、」
齧っていい、ってこと?
手を、はたん、って。一つかけた。
そうしたなら、すこし引き上げられた、ローブの袖口から腕が覗いて。さらりとゾロが肩辺りを肌蹴させて。見えた。
だれかさんが齧った痕が残ってた。薄くだけど。
「”うわきしてた”ー?」
くくく、ってわらった。
まだ充分じゃないって?って。
ぞく、ってした、そう言ったゾロの低い声が聞こえたから。
肩口、肌蹴られたとこからも、みえた。
縋って、縋りついてそれでも滑って。
爪で表面を深く凪いで行った痕。
「いたい?」
うん、と手を伸ばす。手首、おれのには。薄赤い痕が残されてた。
「オマエじゃなきゃ、許してない」
……この返事は、痛いってことだね。
そう、と。
掌で包むようにすれば。
じわん、と熱拡がってきた。手のうちがわ。気持ちよくて少し強く押し当てる。
「―――――いたい?」
身体、起こして。
いたたたた、おれのがいたいー。
わ、あ、わ。
ちぇー……。もっと触ろうと思ったのに。
ベッドにおれ転がされてた。
「さわらせろー、触らせて?」
ごめんなさい、と。ぞろの顎のとこ、指先でなぞった。
「オマエも辛いだろうから、イーヴンってことで」
「きもちいーよ、」
に、って。わらうカオ、おまえの。見てるだけでね。
「だるいのと重いのが、ぜんぶぐちゃぐちゃで、わけわからねえーの」
へら、ってわらったらきっとバカだ。でもしちまったんだから、しらない。
「ふゥん」
「きしっきし、いうんだよねえ?」
みしみし、じゃないんだけどなあ。
腕、また差し出された。
「なあん?」
「一通り触ったら、昼飯食おうな」
「うーん?」
すこしだけ浮いて離れてる身体に、すこしだけ近づこうとしたら。
――――――――――いーたーいーって。なんか、鳩尾から下ぜんぶ。
「触らせてくれるんですか」
ぃい、っと。ぞろの目の先で指をすこし折り曲げてみせた。
「腕、だろ?」
「なぁなぁ、ねえ、ぞろ」
くく、って笑い声してる。
「ナンダヨ」
「ふわっふわしてる、」
「あー。動くとぐらぐらってのもするだろうな」
「ありゃ?そ?」
「ソウ。最後にメシ食ったの何時だよ」
んん?忘れた。でも食いたくない。
「ぞろー、」
「ナンダヨ」
「腕、って一番ダメージ少ないよなぁ?」
おれあんまり触れなかったとこだろうし?
「食いたいのはソレしかナイってか?」
「肩でもいいよぅ、」
くく、って笑い声が勝手にでてくる。
「齧らせてやるけどナ、食えないダロ」
「喉も好き、頬骨のトコも、耳のトコも、腰のトコも、実は背中も好きなんだよぅ?」
「一箇所にしとけ」
目の前。差し出された腕を捕まえる前に言えば。
そんな返事と低い笑い声が落ちてきて。
「全部食っちまったら、残りの一生食うとこ無ェぞ」
「ばかだねえ、ぞろ」
腕捕まえて。掌にそうっと唇を押し当てた。
「残りの一生って、だれのだよぅ?」
「オマエの」
「あれ?」
指先、ちゅ、って音を立てて触れた。
「おれがおまえのこと、食っちまって、全部。なんで残りがおれなわけ?」
んんん?残れるわけないじゃんねえ?
「どこかで計算がおかしなことになってる?」
ぺろ、って。ぞろの掌を舐めた。
「残念ながら、オレたちはまだ生きてる模様ナノデ」
うん?
「けどオマエがそろそろ何か食う決心しないと、オレも餓死しそうだ」
「ふぅん?食べナよ、いいよ」
ありがと、いままで寝てたの付き合ってくれてたんだ?
「おれ、ここで観てるし。ドア開けといてナ」
もうすこし水飲んで……、って。
いふあい。ハナ、摘まれたよ?
「バァカ。果物でも剥いてやるから、オマエも食うんだよ」
ぱたぱた、と。手でぞろの手、退かそうとしたけど。
「いひゃい、っては」
うー。
やっと、退かしてくれて。
「おれ、起きれないもん」
「寝てていい」
「おまえ、ちゃんと食べなよ、テーブルで」
トン、って額にキスされて。ぞろの方見上げたから、キレイな顎の線が見えた。
―――――……あ、齧った痕、ついてるよそこにも。
顎の下。
うわあ。
「ぞーろ……?」
「バカサンジ」
はむ、って唇噛まれて。
じりじり、びりびり。身体の真ん中を広がってく感覚はどこか遠くて、だけどリアルだ。
「一人で食っても美味くないだろ、食うなら最初から一人で食ってる」
「ぞろ、」
肩、なるべく両方、あんまり熱くなってないところを選んで包み込もうとしても無駄な努力っぽいけど、とにかく、包んで。
「もうしない、って言ったのに、余計しちゃったね?」
引っ掻いたり、齧ったり、っての。
「ま、ショーガナイ。相当イッチマッテタからな」
にぃい、って。
―――――――――――――――ええと。ここに。
獣がいるんですけど。何か。ジェヴォーダン*に出てきたのより、よっぽど。
「こわいわるいだよ、そのかおー」
かじ、と。ぞろの顎のトコ、齧った。で、そのまま。頬に頬でくっついてたら。
「オマエ、好物ダロ。」
「イッチマウくらいね?際限なく」
ぎゅう、って腕。力入れて―――――って、いたあー。
うう。
わらいながら、からだがいたい、と訴えれば。
ぞろが。
機嫌よくちっさくわらって。ぎゅう、と思い切り抱きしめてきてくれて。
あったかいし、うれしいし、コウフクで、どっかいっちまいそうなんだけど、
ぎっしぎし聞こえた、頭の中。
そうしたら。
「腹になにか入れたら薬飲ませてやる」
「なにいれようかー」
そう言ったら。
ばぁか、だってさ。
ふぅん?ばぁかで結構ですー。
「あいしてるよ」
脈絡ないね。でもいいや。
*ジェヴォーダンの獣:18世紀フランス、南フランスのジェヴォーダン地方で起こった事件。3年間の間に100人以上もの婦女子が獣(ベート)によって殺害された。
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