時間帯のせいなのか、邪魔にならない音量で流れていた音が変わった。ラウンジ・ミュージック―――どうせなら、ジャズの方が馴染みがあるんだがな。
帰っていく客が、どういうわけだかほとんど必ずこちらに視線を向けてくる。ちらっと視線を走らせては、頬を紅潮させてバーを後にする。
イチイチ目くじらを立てるのは面倒だし、第一“デザイナのムッシュ・ミクリヤ”が言った通り、今着ている服は“魅せる”ための服だしな。ショウガナイ。
それに何人か、サンジの知人や顔馴染みも交じっているらしい。声をかけるほど親しくはないが、会釈くらいはしなければ、といった具合の関係者。サンジもふんわりとした雰囲気を纏ったまま、知り合いには柔らかな笑顔で一瞥を返していた。丸きり知らない他人にはムシを決め込んでいる。澄ましたシャム猫のようで、なんだか微笑ましい。

薬草のブレンドが個性的な緑色の酒を、ゆっくりと啜る。先ほどまでこちらを凝視していたデザイナはスケッチブックに頭を突っ込んでおり。反対側でカメラマンが、しょうもねぇな、といった風情で頬杖をついて深い溜め息を吐いていた。
強いアルコールの甘さが喉を焼く。鼻から抜けるような独特の薬草のアロマが、気だるげな気分にさせる。
サンジは手を伸ばし。ウェイタの男が持ってきた白葡萄のレーズンを枝から外しながら食べていた。
店内から斜めへ外に。高い位置から見下ろす夜景を見遣る。ビバリィヒルズ、ねえ。
目線を戻せば、サンジが視線を沿わせてきた。
ソファに凭れ掛かったまま指先を伸ばし。夜風に僅かに乱れた髪を直してやる。
「話し込んでこなくていいのか?」
ふわ、と。微笑を浮かべた蒼に笑いかける。
「だれと?」
「久し振りに顔を合わせた誰かと」

「ここからの眺めが、」
サンジが言葉を切り。視線を僅かにずらして肩越しに夜景を見遣る。
「すごく好きだったんだ、」
そうっと大切な何かを告げるように、サンジが呟いた。
「オマエは月の天使だからなァ」
低く笑って、酒を呷る。
「だけどね、」
そうっと続けられる言葉に、また視線をサンジに戻す。
「自分は独りきりなんだ、って知らされるときもあって。心は誰のものでもない、ってわかったりとかすると」
小さな吐息。
「でもそれは、おれがダレも愛してなかったからだけなんだ、って。いまでは判るから。もう一度ね、同じ景色みたかったんだ」
僅かに揺れる蒼を見詰めて、静かに笑みを浮かべる。
「―――感想は?」
「んん、」
オマエの目には今と昔と、どう違って見えるんだ?と。視線で尋ねれば、サンジが僅かに首を傾けた。
「どの灯りの下にも、営みがあるってことは、見えるかな。寂しくはならない、ただ、」
言葉を切ったサンジの蒼い相貌に映り込む光を見詰める。
「前よりずっと。好きかな」
少しだけ、笑みを乗せたサンジの頬を軽く指裏で辿る―――するりと、一瞬だけ。

「―――夜景を夜景として見れるようになったかな、オレは」
目を伏せたサンジに、そのまま語りかける。
職業病―――追認した、自分の業を。そして、それでもどうやら距離を置き始められたらしいことにも。
じぃ、と聞いている風情のサンジに、また笑いかける。ゆら、と揺れる蒼が合わされて。目線を手の中の緑に落した。
「漸く回りを見渡す余裕ができてきたらしい」
―――過去の自分とは、世界の見方が違う。
「自惚れていいかな、」
そうっと呟いたサンジの頤を捕まえ、そうっと金色の天辺に口付けを落す。
「モチロン、オレの天使」
ざわつくフロアが、少し遠く感じられた―――進歩、ではあるよな……?
サンジから手を離し、また夜景を見遣る。
人の営み―――あの明かりの一つ一つに、物語があるのだろう。空っぽのオフィスにも、街灯の下にも。
以前のままの自分が感じただろうこと―――それをフリーズさせる。今は、必要のないことだから。
ふいにサンジの声が響いた。

「あのな、」
声が甘く柔らかい。
「ここから、西に30度くらいかな?視線流した方向に、子供の頃住んでたんだよ、」
その方向を見遣る―――ライトの洪水に埋もれた街並み。
「…なんだったら、明日。玄関先まで行ってみるか?」
笑みを浮かべて訊いてみる。
「子供の頃の家でも、どこでも」
「ううん、あんまり?ただの空き家だしね」
「それならビーチは?」
最も泳ぐこともできないケドな。
「うううん?歩くだけ?」
「そりゃあナ。一昔前の水着でも持ってない限りな」
縞々の、と言い足す。
静かにサンジが笑った。僅かに仰向いて、喉が曝される―――耳の付け根に、淡い痕。
くくっと笑う―――強請られたしなァ……?

す、と。強い視線を感じた。
ゆっくりと顔をそちらに向ければ、にっこりと笑う例の“でっかいの”が居た。
「歓談中に失礼。どうも気になって伺ってしまった。少しの間だけ、ご一緒させていただいてもいいかな?」
す、と。目の前にネームカードを差し出された。
白いカードに流麗な書体で、Andrew Mckinleyと書かれていた。隅にはオフィスの名前とコンタクト・アドレス。職業は、フォトグラファとあった。硬めの紙にプリントされたソレには、僅かにスクエアの凹凸があり。
ああ、そういえば。コイツは確かファッション業界では有名な“御大”の一人として数えられているんだったという情報を思い出した。こんなに躾けられた愛想のいい大型犬のような人間だとは思ってもいなかったが。
す、と。サンジが男を見上げていた―――琥珀色の双眸が、僅かに和らぐ。
「アンドリュウ・マッキンリィ、フォトグラファです。貴方がどうにも魅力的で。邪魔なのを承知で勝手に呼ばれました」
ハハ、と。明るく男が笑う。
「遠くから見てもインパクト充分でしたけど。間近で見るとお二方揃って、非常に印象的ですね」
ビジネスしなれたトーンだ。
それでも不快に思えないのは、声のトーンが柔らかく、朗らかだからだ。
本人は相当大らかでフレンドリィな人間なのだろう―――その上、成功者の割に傲慢さが無い。在るのは裏打ちされたプロフェッショナルとしての自信だけ。
「―――突っ立ってないで座れ。首がイカレル」
に、と。笑って、テーブルの角に置かれていたシングル・ソファを顎で示す。
サンジの蒼が合わせられているのに視線を戻し、軽く片目を瞑る。Nessuno problema、モンダイナイ。
にこ、と笑った男が。大柄な割には優雅な仕草で白いソファに座った。
既製服でも上手に着こなすことに長けているらしいフォトグラファが、真っ直ぐに見詰めてくる。
サンジがひらりとバーテンダに手を振って。グラスを、と言っていた。

静かにオトコが新しいグラスと共に現れ。よく冷えた薬草酒を静かに注いで消えていった―――口許が笑ってたのを見逃さなかったけどナ。
「どうぞ、」
「うわ、ご馳走になります」
にか、と笑った男がグラスを取り。軽くサンジとオレに掲げてから、一口呷った。
「うん、美味いな」
「それはよかった」
真っ直ぐにオトコを見詰めれば、くぅ、と。違った種類の笑みを浮かべ返される。
「ちゃんと鞘に収まったナイフなのに、切れ味が鋭いですネ」
「アンタもな―――勝手に深淵覗こうとするんじゃない」
「ハハ!どうもすみません、良いモノを見極めるのがどうにも性分なようで」
にこにこと笑いながら、フォトグラファがオレとサンジを交互に見遣ってくる。
「お二人ともモデルには見えないですが、非常に興味をそそります。見立てはご自身で?」
ゆっくりと飲みながら会話に耳を傾けていたサンジに目線を遣る。
「おれの友人に、すっかり遊ばれて」
甘く耳心地の良い声でサンジが応える。
「―――もしかして、“ビビ”だったりとか?」
僅かに考え込んだオトコが、ふわりと笑みを浮かべて琥珀色をサンジに向けた。自分が間違うとは微塵も思っていない目。
ぱ、と。サンジの双眸が大きく見開かれた。

「なんだ、ビビを覚えているんだ、」
ふわ、と。華が咲き零れるようにサンジが明るく笑う。
「ああ、ヤッパリ。あのコはテイストがはっきりしてたからな。自慢じゃないですが、一度仕事をした相手は覚えてますよ」
にこ、と笑って頷いた男に、サンジが明るい声で言う。
「現役最後の一枚をアナタに撮ってもらうって、喜んでたから」
「モデルとしても才能の在った子だったけどねえ。でもま、今のほうが性分には在っているらしい」
「ええ、自慢の友人ですから」
「ああ、だけど―――やっぱり。アナタもどこかで見たことがあるな」
ふわ、と笑ったサンジに、オトコが小さく首を傾ける。
「でも少し風情が違うんだ―――アワードの会場に居たりとかしたことないかな?」
有名な音楽チャンネルの名前をオトコが出した。
―――へえ?

「いいえ、ここ1年半は出かけてません」
ふわりと柔らかな風情で、にこ、と満面の笑みを浮かべたサンジに、ぱちくり、とオトコが瞬く。
「そうですか。ガードが固い人だったし、いつも衣装が手の込んだものを着ているので、一縷の望みをかけてみたのですが。別人ですか」
そのまま、ひょい、と琥珀色の視線が当てられる。―――なンだ?
「ウン。アナタもちょっと風情が似ているんですが、ぜんぜん別人なんですよね。間違いなく、アナタのほうが年上だし」
「話はそれだけか?」
苦笑して言えば、またオトコはにっこりと柔らかい笑みを浮かべた。
「イエイエマサカ」
獲物を見つけた狩人のように、真剣さの欠片を滲ませた目で見詰められる。
「貴方がたをナンパしようと思いまして」
「―――ハ!」
飾らない言葉に思わず笑う。サンジもくくっと横で笑っていた。
「モデルでもない、役者でもない―――それなのに、そこまで魅せる人間がどういう方なのかも興味がありますし」
興味?
「オレとしては、無視していただくのが一番なんだがな」
「言われると思ってました」
ハッハ、と明るくオトコが笑う。

「でも。パーフェクトなボディに素敵なアクセントがあるお二人を、そのまま行かせるのはちょっとオレの職業意識に反しまして」
アクセント、と呟いたサンジに向かって、トン、とオトコが自分の首筋に触れていた。
「アナタの場合はココだね」
それから、とオトコが笑う。
「アナタはもう言う必要がない―――見せるためにつけたわけではないのに、ソレすらチャームにできる力量が惜しくてね」
僅かに小悪魔風に口端を吊り上げたサンジに、アンドリュウがにかりと笑う。
「アーティストとしても素敵ですね」
―――痕を着けたのがサンジなのだと、アタリマエのように認識していやがる。
「お褒めに預かり、」
艶めいた声でサンジが言う。
「いくら褒めても、褒めきれないですよ」
にっこりとオトコが笑う―――裏の無い笑顔。計算はあるのだろうが、悪意の類はゼロだ。
アンドリュウに視線を向ければ。にっこりと笑ったまま、す、と指が四角を作る。

「ダメ、ですかね?」
「ああ」
「やっぱりかあ」
オトコが苦笑を浮かべる。
「別に素性とかも訊かないですし、専属契約を結んでくれ、とも言いませんけどねえ」
「タイミングが悪かったな」
タイミングですか、と。オトコがさらに苦笑いを深めた。
「そう。既に一人、こちらから目を付けた人間がいるんで」
遣り取りをじぃっとサンジの蒼い双眸が見詰めてくるのを感じ取りながら、真っ直ぐ拒絶の意味を込めてアンドリュウを見詰める。
「―――ありゃ。フラレますか、オレ」
一度だけ目を丸くしたアンドリュウが、くくっと笑った。
「腕前は風評どおりなんだろうと、アンタの目を見て判ったけどな。こればっかりは―――な」
「色々ご事情お在りなんですよね」
「先にオファ受けちゃったもんね、」
そう言いながら、サンジが視線を合わせてきて笑った。
「おまえさ?」
「うーわ、マジかよ。―――差し支えなければ、恋敵の名前を教えていただけませんかね?」
アンドリュウが、チクショウ、と言いながら朗らかに笑った。
「クァスラ、という名前のオトコだ」
「ク……あっちゃあ、本当に?“リカルド”ですか」
うわ、ヤラレタ、と。アンドリュウが頭を抱えた。
―――へえ?アイツ、“大御所”に名前を知られているくらいに有名なヤツだったのか?
「飛べる鳥は強いなァ、昔馴染みに親友、友人……うーわ。テリトリィが被る、」
ふわ、と視線を僅かに跳ね上げ。サンジがからかうようなトーンでアンドリュウに言う。
「おれはオファ受けてませんよ?」
ぱち、とアンドリュウが一瞬真面目な視線になった。

「是非!どうでしょう?」
まじまじ、と、琥珀色がサンジを捕らえる。
「報酬はきちんとお支払いしますし。日数も、半日、いえ、一日いただけたら」
身を乗り出して、アンドリュウがサンジを見詰める。どうでしょう?と。カメラマンというよりはやり手の営業マンのような熱心さで言う。
「コイビトがオーケイと言ったなら、よろこんで。あ、でも、」
ふわ、と微笑んだサンジに、苦笑を漏らす。す、と。シャム猫のような表情をサンジが作る。
「おれの父親ってアナタのファンだったんだ、」
「―――ええと、」
ぱちくり、と。アンドリュウが目を瞬く。
「―――親父さん、ですか?」
「エエ、」
頷いたサンジが、斜めに視線を寄越している。
「―――それはつまり。アナタの恋人とお父様がバッティングする可能性があるから嫌だ、と仰る?」
頭の中を忙しなく動かして。アンドリュウが記憶を探っている様子を見守る。
ふ、と。オトコが表情を引き締めた。

「ミスタ・ハロルド・セレスのご子息?」
―――へえ。本当に記憶力は定からしい。
「史上最大の親不孝モノとはおれのことです」
―――へえ。本当に記憶力は定からしい。
にこ、とサンジが、小さな笑みを浮かべる。
「親孝行しようかなァ、」
ぽそり、と。一度くらい、と言い足して。
「―――あーと、」
ちらりと何かを考えたらしいアンドリュウが、視線を合わせてきた。サンジのヘヴンリィブルゥも合わされる。
「―――さすがにロケ地をバッティングさせることはできませんが。日付の融通は利きますから確実に貴方がたのスケジュールに合わせられます。もちろん、部外者も入れず、撮影日や場所のこと等も秘密にしておけます」
「―――アンタとクァスラは、知り合いではない?」
「いえ、知り合いではないです。ただ―――会った事も話したこともないのですが、知っています。共通の友人が数名おりますので」
もちろん、その腕前も、とアンドリュウが続ける。
「撮る写真のタイプが、オレのがグラフィックデザインだとすればクァスラのは水彩画なので、同じ路線で競うことはないのですが―――」
「……脅威、か?」
「イエ。ただ惹かれることは確かですね。オレには無いものを持っていますし。―――きっと5年もしたら、固定ファンがついて。商業的にも成功を収めるでしょう」
「…アンタ、カメラマンよりはアナリストになるべきだったか?」
くくっと笑えば、ぱちくり、とアンドリュウがまた瞬き。それからにかりと笑った。
「オレ、美しいものが大好きなので」
「例えば、セト・ブロゥとか?」
「あーれーはー……美しいです、そりゃあ。けどまあ、親友なんで」
くぅ、とオトコが笑う。
「美しいだけの被写体とは、雲泥の差が出ますね。オレの腕もまだまだってことです」
ちらりとサンジを見遣る。―――そうだな。

「日にちと時間帯はこちらから連絡させていただく、ってことで?」
「―――本当に?」
「アリステア?」
にこお、と。これまでになく嬉しそうにアンドリュウ・マッキンリィが笑う。まるでガキだ。
驚いている声のサンジに視線を落す。
「いいんじゃないか?」
サンジが眠っている間に認めた手紙―――添えられるものなら、添えたいしな。
ふわん、と笑い。ビックリした、と呟いたサンジに、に、と口端を引き上げてみせる。
「ついでだ。赤いのだって喜ぶだろ」
「あ」
ぽん、と。アンドリュウが手を打った。
「あああああああ、ナルホドナルホド」
そうかそうかキミがアンファン・テリブルの、と。男が呟く。
「んん?」
サンジがアンドリュウに向き直った。
アンドリュウ・マッキンリィ、アンタどんな人脈持ってやがるんだよ。思わず苦笑を浮かべれば。
アンファン・テリブルのなになんだろう?と。サンジが目で訊いていた。
「―――昔、まだ駆け出しの頃。撮らせてもらったんだ、キミの―――キミを一番大事に思っていた人を」
今までとは違った柔らかな眼差しで、アンドリュウがサンジを見下ろす。
「いまも偶には会う?」
「最近、漸くコンタクトがついて。また一緒に、時折飲みに行くようになったよ」
「そう、」
声が酷く優しいアンドリュウに、サンジもふわんと笑みを返した。
「じゃあ、次に逢ったならおれからだから、って」
ふわ、と。フェザータッチで、サンジがアンドリュウの頬にキスを落とした。

「……わかった。うわ、そうか、キミが……サンジくん、かぁ」
「不肖の息子ですけどね、シアワセなんです」
ふんわりと、エンジェリック・スマイルを浮かべたサンジに、アンドリュウもゆっくりと笑みを浮かべた。
「見れば解るよ」
「あ、ナイショなつもりなのに」
ぽんぽん、と。アンドリュウの大きな掌が、サンジの腕で軽く弾んだ。ふわ、と蕩けた笑みを浮かべたサンジに、アンドリュウが苦笑する。
「それだけのアクセントがあって、それは無理な相談です」
にっこりと笑ったアンドリュウが置いた名刺を引き取る。アンドリュウの視線がまた真剣味を帯びた。
「承諾していただけて、本当にありがとうございます」
す、と。男が頭を下げた。
「―――イエ。縁が在ったってことでしょう」
苦笑すれば、にか、とアンドリュウが笑った。
「本当は、アナタも撮ってみたいんですけどね。あんまり欲張ったらいけませんよねえ、」

ふいに、サンジが歌うようにノンビリと告げてきた。
「ミスタ・アンドリュウ、お連れが放心してこっちみてる、」
す、と。アンドリュウとほぼ同じタイミングで視線を放置されていたデザイナに向ければ。あんぐり、と口を開いてこちらを指差していた青年がいた。
「はーろう?」
サンジが指先をひらひらとさせて、呼び寄せている。
「ぎゃああああ、ナンデナンデナンデ???」
唇を読まずとも、絶叫が聴こえた。あんの阿呆、とアンドリュウが毒吐き、掌に顔を埋めた。
「あ、おれ嫌われちゃった?」
サンジがこちらに視線を戻して、くすくすと笑いながら言ってきた言葉を聴きとめ、アンドリュウが呟くように言った。
「……いや。トキがイカレテるだけなんです」
あーあ、ここのラウンジ、もう使えないかもな、そうアンドリュウが呟くのに苦笑を浮かべる。
「オレが迎えに行ってきましょう」
目立ってしまったのならこの際、徹底的に覚えさせることに限る。昔から言うしナ、木を隠すなら森へ、って。




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