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 立ち上がろうとするゾロの気配を呼んで。あぁ、なるほど、と思った。
 開き直っちゃったんだね、おれのコイビトは。じゃあ、もういっそおれも加担しよう。イカレパーティだもん、ってことで。
 立ち上がりかけたゾロの腕を緩く捕まえて、引き寄せて。落とされた視線を受け止めて。どうした?って表情で訊いてきてくれるのを確かめて。す、と。唇の端に軽く口付けた。目を合わせたままで。
 そうしたなら、半分苦笑交じりのそれでも柔らかな笑みをもらった。
 ふわりと柔らかだった緑が、力を一瞬増して。
 え?と思う隙もなく。ぐ、と腕に強く腰を引き寄せられて。どこかゆっくりと強く、唇。啄ばまれた。
 うわ、負けた。
 くく、と喉奥で笑いを抑えて。
 に、と『こわいわるい』笑みを乗せてみせたゾロは、デザイナのせんせを『迎えに』優雅な歩幅でそれほどもない距離をウッドデッキの上を進んでいって。
 モーゼじゃないんだけどねえ、視線の海が真っ二つにゾロの先で割れてた。
 
 「微笑ましいなぁ、」
 声が斜向かいから、聞こえて。マッキンリィが小さくわらってた。
 「そー?」
 とん、とソファに埋まり直す。
 「そう。一生懸命生きてるってカンジがしてる」
 穏やかな口調が、静かに空気を充たしていく。
 「うれしいな」
 ほんとうに。
 「でも。随分と危なっかしい、」
 穏やかな、どこか厳格な口調が続けて。
 「うん」
 眼差しを上げれば、にっこりと温かい笑みとぶつかった。
 
 ヒトの繋がりは入り組んで見えるけど、ほんとうはそんなことないのかもしれない。
 笑みで返して、ヨロシクお願いします、と告げた。丁寧にアタマを下げられて、驚いたけど。
 視線が上げられたとき、たぁしかに。マッキンリィ・ザ・フォトグラフアはオトウトイモウト見るときと同じような眼差しだった。
 「あのヒトがアナタを好きなの、わかる気がする」
 あのヒトもきっとおれ以上に我侭なヒトだろうし。そりゃ、好きだろうな、って思ってたら。
 にこ、と笑ったマッキンリィが。
 「キミがアレのお気に入りなのも、よく解るよ」
 ウィンクと一緒に続けていた。
 ぱし、とそれをソラで捕まえてみてから、に、とわらって。クッションの下に仕舞ってみた。もらえないしね、けどモッタイないだろ?
 
 視線を投げたさき、ゾロに迎えに来られたデザイナ氏が、ざ、と一歩引きかけてたけど。好奇心には勝てないみたいで、やっぱり。
 音に紛れて、ゾロの低く落とした声が聞こえた。こちらへどうぞ、と。それから、仕草で促して。
 どこか子犬みたいな印象のデザイナ氏がお散歩みたいな感じでやってきてて。かわいいなぁ、とか思っちまった。
 隣の悪いエスコートのことを、時々見上げて、また顔あかくちゃったりだとか。なんか身体がそれでも退けてるところだとか。なんだろう、全然……
 「擦れてないなァ」
 思わず感嘆する。
 「イカレバカクチュリエだからなァ、」
 そんなことを言うマッキンリィはそれでも、柔らかな眼差しでいるままで。大事な友人なんだろう、ってわかる。
 「ミスタマッキンリィ、パーティはこれ以上増える?」
 カールにグラスを持ってきてもらうついでに訊いた。
 「一応、知人が二人。マリカっていうトキの従姉と、シルヴィアってモデルだ」
 「え」
 瞬きした。
 「―――知り合い、か」
 「ウン」
 おれの返事に、マッキンリィは苦笑して。
 「参ったねえ、案外世界は狭い」
 そんなことを言っていた。
 
 おかえり、といえる距離にまで2人が近づいてきたとき、デザイナ氏の髪になにかついてたんだろう、ゾロがそれをあっさりと取れば。なにか叫びそうになった口元を自分の両手でデザイナ氏ががばっと抑えてた。
 ぷ、って。ゾロが吹き出したのが聞こえた。
 「わ、笑うことないと思うっ」
 「いや失礼、思わず」
 「う〜〜〜」
 そんな2人の遣り取りが聞こえて、笑みが勝手に浮かんだ。 そうしたなら、マッキンリィが。
 「見た目ほど、キミの恋人は『怖い悪い』じゃないらしいな?」
 そう言ってふんわりと笑みを乗せていた。
 「ええ、あのオトコはね?相手によって色を変えちまうんです」
 そう言ってわらった。
 「カメレオンの割には物騒だな、」
 耳辺りの良い低い笑い声が聞こえる、写真家から。クァスラにさき越されたのが悔しいな、とそう言っていた。
 
 「でもきっと、おれは一人でうろつかせてもらうってこと少ないから、」
 一緒には会えると思いますけど?と。告げて。
 「口説くチャンスはあと1回はあります、”師匠”」
 ムカシ、ビビの撮影を覗いたときこの写真家のアシスタントがこの人のことをそう呼んでいたことを突然思い出したから、付け足した。
 くう、とマッキンリィが笑みを浮かべたままで、またおれの頭をくしゃくしゃに掻き混ぜていって。
 「アンドリュウと呼んでくれ、」
 賑やかな風情を振りまきながら戻ってきたゾロたちがソファに落ち着く前に。
 「もちろんキミは共犯になってくれるんだろう?」
 魅力的な笑顔、ってやつの世界基準を浮かべた「アンドリュウ」が言って。
 「もちろん、アンドリュウ」
 おれはいつだってアリステアのこと口説いてますし、と付け足してわらう。
 口笛、軽く吹いたアンドリュウが「力強いねえ」なんて言っていたけど。
 
 がっちがちに固まった気配が届くからなんだろうと顔を上げれば。なんだか不思議な2人組みがもう声の届くところまできてて。
 「えー?」
 わざと抗議してみた。
 「なんかさっきと雰囲気違うじゃないか、」
 案外すんなり打ち解けてる、んだよねアレは。ゾロも半分苦笑浮かべてるし。
 「イカレバカクチュリエだからなあ、アレは。怖いもの知らずなんだ、」
 アンドリュウも負けずと苦笑が浮かんでた。
 「ふむ、」
 あ、カールだ。
 グラスを3つ追加で頼んで。それからシャンパンをマリカとシルヴィアが来たら開けてくれるように頼んだら。
 すこし、身体を折って、
 「いつのまに?」
 そんなことを笑い声混じりに言ってきた。
 
 「んん、おれが知りたいよ?コイビトとしっとりしてやれーって思ってたのにさ?」
 軽い口調で答えれば。
 「あぁ、ベイビィ。試練とはそんなモンかもしれません」
 ハッハ!と軽くわらって。カールがまたすう、と奥に消えていってた。
 「計算外だよ」
 ぶー、とわざと後ろ姿に言ったなら。親指が立ってた、カールの左手。
 誰かが近づく気配がして。お散歩みたいだったから、きっとこれはデザイナ氏だな。
 振り向いて。ああ、やっぱりそうだ。まっくろの目が、光を乗せてて。情熱家なんだろうけど、たまに暴走しそうだね、芸術家気質だよ、せんせ? とても素直な雰囲気のおとな……??
 「こんばんは、」
 笑みを乗せた。
 
 
 
 
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