くら、と。眩暈が一瞬起こって。思わず零れた声に、アラートサインが意識のどこかで点滅して。
背中、薄い、指先に滑らかな生地越しに爪を何十分の一秒か埋めて。
「ほ……んとに、ソウだよね、」
する、と離れた身体がまた隣に戻る間に言う。
まだ、頬が少し赤いままなシルヴィアに目線を合わせれば。
視界が少し高さを変えて、へ?と思った頃には。 ゾロの膝の上にいた。背中越し、体温が伝わってくる。
すい、とゾロが指先を動かしていたから、思い当たる。
だから、足を下ろす位置を少し変えたなら、やっぱり。
おれのダイスキなガールフレンドを放っておく、なんてことはするはずのない恋人は、シルヴィアを指で呼んでた。
片腕に、カノジョの肩を抱くようにして引き寄せて。同じサイドにおれも頭を預けて、またシルヴィアのキラキラしたプラチナにキスした。
悪い狼、は。怖い、の部分を極力削ぎ落として、あぁ……アレだ。チャーミングな「ステファノ」な表情を浮かべてる。アークエンジェル、と呼んだのに。もう既に、おまえ―――サタンだよそれじゃあさ?
相当、遊び崩れた連中の絵面に見えるんだろうな……カールがひら、と人差し指と中指をゆらして遠くから笑ってた。
アラヤダ。交ざろうかしら、ってマリカが笑いながら言えば。アンドリュウは苦笑してシャリュトリューズを呑んでいた。一瞬だけ覚醒したムッシュは、もう眠ってしまったみたいで。もしかしたら最後に挨拶できないかもしれないな、と思った。
シャリュトリューズか空になって、上機嫌なシルヴィアが「ここまでデカダンならいっそ?」とわらって真夜中過ぎにショコラをオーダーして。それに合うような重い赤でラストコール。
キスしてチョコレートを彼女に食べさせたら、コラ、と。ゾロからじゃなくてカールから頭の天辺をこつん、とやられた。
『他のゲストからカヴァーしきれなくなるダロ』だってさ。
あ、だからマリカもこのトライアングルに加わってなかったんだ……?残念。
ゲスト。レディからの熱っぽい視線には、たまに目線を投げていたけど、それ以外からは無視を決め込んでた。
んー、そりゃね?おまえが男性一般に興味ないのは知ってますけど。ソレって面白いよね、はたから見ればおれだって一応ね、オトコだし。
赤も空いて、別れ際。別れ際、マリカとシルヴィアは、ゾロにネームカードを渡してた。ハグとキスも。それから、おれには。
『連絡先、知ってるものね、ベイビィ?』
……ぅ。ハイ。
笑顔に何も言えなかった、全部置いてきちゃったよ、とは。だから、ウン、と応えて。ハグとキス。
ゾロが代わりに渡していたのは、ホテルのナンヴァと。あとは、あぁ……NYの私書箱のアドレスだ、局留め。
鋭い天性の目の持ち主は、ゾロの渡したソレを見て目を煌かせたけど何も言わなかった。信用のできる人間、とそれだけでわかる。
『アンドリュ、じゃあまた近いうちに?』
つぶれてうにゃうにゃ言ってるムッシュを引き摺るように抱えたカメラマンに言って。
『いつでも連絡くれ』
『ウン』
チャーミングでフレンドリィなウィンクを一つもらった。うーうー言ってるミクリヤセンセには、
『からかってごめんね?また、いつか』
とん、と頬にキスを一つ。
アンドリュウが、トキセンセの代わりに、くうと笑みを刻んでた。
そして、ドライヴァの手配をちゃんとタイミングを読んでしてくれたカールにも、またね、と頬に一つ。
返事は、エニイ・タイム(いつでも)、だった。
賑やかな別れ際、みんなタクシーで来てたみたいだ。
ゾロも、どこか大人の笑みを多分影ながらとても世話になったカールに向けてて。
カールも、ひょい、と片眉引き上げてわらってた。
ホテルのエントランスでも、タクシーに乗り込むまで賑やかで。
マリカとシルヴィアがまず華やかにいなくなって。次が、ムッシュをバックシートに押し込んだアンドリュウがクールに去っていって。
はー、と。タクシーのテールランプを見送って溜息が零れた。
くた、と少しだけゾロに寄りかかる。長い指が、前髪を掬い上げていってくれるのを堪能してたら、トン、と頭の後ろ側にキスが落ちてきた。
オツカレサマ……?
ううん、おまえこそさ。
すい、と顔を上げて翠を見上げるようにした。
「付き合ってくれて、ありがと」
バカ騒ぎになっちゃったけど……これは予定外なんだ。
「ああ、」
優しいトーンの声が返されて。
すこし目を閉じた。
タスカンのエンジン音が聞こえる。
オーケイ、じゃあおれたちもタクシー乗ろっか。海の側にまた帰ろう?
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