Day 21-22 Los Angels to Sonoma


根っこの部分では酷く照れ屋なサンジを、さらに甘く蕩けさせ。羞恥も忘れるくらいにたっぷりと焦れさせてから、そのままリヴィングのソファで愛し合った。たっぷり泣かせて、充分に歌わせて。
結局、風呂に入ってベッドに入ったのは、午前6時頃のこと。とっくに空は透明がかったスカイブルゥに変わっていて、うっすらとだけ、白い星が開け放したままの窓から見えていた。

アルコールが抜け切った気だるさと、散々はしゃいだ後の疲れと、愛し合った後の疲れに随分と眠たそうだったサンジは、それでも窓の外を見上げ。キレイだ、と呟いていた。
それから、うつらうつらとしながら、僅かに開いた瞼の間の蒼をこちらに移し。囁くようなトーンで。
緑もキレ…、と言いかけて、そのまま眠りに落ちていった。
くったりと預けられた身体を抱き寄せて、リネンに身体を預ければ。足元、間にエリィが滑り込んできて。軽く上掛けを揉んでから、あっさりと丸まってまた眠りに戻っていった。
だんだんと明るくなる天井の青を瞼の裏に感じながら、眠りに意識を手放し。

次に気付けば、10時頃だった。
まだまだ深い眠りの中にいるサンジを抱えたまま、暫くまどろみつつその日一日のスケジュールに意識を向けてみた。
今日もまたシティ・オブ・エンジェルは晴天に見舞われ。
サンジが眠ったままでもできるレクリエーションを思いつく。1時間後にサンジを起こすとして―――遅いランチをクルーザの上ででも食べるか? 洋上でのピクニック。それも悪くないアイデアかもしれない。
バスケットを、ホテルの連中に頼んで―――どうせ“テディの放蕩孫”なんだしな。ある意味“優雅”で“贅沢”で“怠惰”な時間を過ごすのもいいだろう。一度キャンセルしたプランだから、それを決行する、といえば手配にてまどることもないだろうしな。
電話を取ろうと片手を伸ばせば、足元で一緒に朝寝に付き合っていてくれたエリィが、ひょい、と首を擡げた。
ああ、オマエのことも忘れてないよ、エリィ・ボーイ。―――ついでだ、オマエも洋上ピクニックに付き合うといい。

胸元、腕を伸ばして夢現にくうっと抱きついてきたサンジの背中を片手で撫で下ろしながら、受話器を取り上げた。数秒待って、馴染んだ声のコンシェルジェが応えた―――リクエストを伝える。
どこか微笑ましそうな声で、コンシェルジェがオーケィを出した。あのクラスのクルーザはレンタルする人間は限られているらしく、今日はまだ予約が入ってないらしい。
シェフのスペシャル・ランチをエリィの分までちゃんと用意する、と言い切ったコンシェルジェに礼を述べて。一度電話を切ってから、思い立ってまたコールをかけ直す。

3コールで、アロ、と応えた声に小さく笑った。
「―――よぉ、カメラマン。そっちも朝まで遊んだのか?ヒデェ声してるぞ。そろそろ仕事の話をしよう。オマエ、何時ならいいって?向かう場所を言ってくれ、明日以降なら相談に応じる」
一瞬の沈黙の後、朗らかな笑い声が響いてきた。
『コールを貰えるとは光栄だな。アンタら、今どこにいる?』
「まだ天使の街で戯れているさ」
『へえ?―――偶然だな。オレも居る』
電話の向こう、まだ若い男の声が飛び込んできた―――リカァールド!朝メシー!食いに行くぞ!―――酷く陽気で、それなのに妙にセクシィな、よく通る声だ。
あ、昼か。そう自己訂正して、けらけらとまた別の男と笑いあう声が続く。

「パーティ中だったか、クァスラ?」
『あー、まぁ。けど―――いつでもいい。アンタたちが平気なら』
にっこり、と屈託無く笑うネイティヴ・アメリカンのカメラマンの顔が解るような声だ。
『ああ、そうだ―――アンタ、フォーマルもリクエスト?』
「あー、一応な」
くくっと笑う声が響いてきた。
『オトコのフォーマル・ポートレート撮りは初めてだ。楽しませて貰うよ』
「―――オイオイ、それでダイジョウブなのか?」
からかうように告げれば、リカルド・クァスラはまた低く笑った。
『ひとつ、いいロケーションを知ってる。なあ、ノースまで上ってこれるか?』
「どこでもいいと言っただろう?」
『オーケイ、それじゃあ―――』

腕の中でサンジが、ぱか、と目を見開いた。
唇に人差し指を押し当て、シィ、と合図する。ぎゅう、と抱きついてきたサンジが、ゾロ、と甘く蕩けた声で名前を呼んできた。さら、と少し寝乱れた髪に指を通す。
『―――おおい、かけなおそうか?』
苦笑するように言ってくるカメラマンの声を聞きながら、ふ、と幸せそうに微笑んだサンジの頬に指を滑らせる。
「いや、いい」
『紙に書く用意は?』
「そのまま言ってくれればいい」
ゾロ、と。小さくサンジに言われ、リカルドにホールドをかける。誰?と小さな掠れた声で問われ、に、と口端を引き上げた。

「マッキンリィの恋敵、なんだってなオマエ、リカルド・クァスラ」
サンジに応えるついでにリカルドをからかってみる。
ぱっとサンジの表情が明るくなるのと同時に、電話向こうから大爆笑が響いた。
『ジーザァズ!なに、アンタ!あのヒトにもナンパされたのか!?』
「おや、やっぱりオレはナンパされてたのかヨ」
『うーわあ、ひっでえナ』
ゲラゲラと陽気に笑うリカルドの声に合わせるように。サンジも柔らかく笑いながら言ってきた。
「もてるねぇ、ダァリン」
『うーわあ、なら尚更頑張らないとな、オレ』
ひゃあひゃあと笑いながら、リカルドが言う。
『オーケイ、こうしよう。そうだな、10日後くらいでいいか?セッティング整えておくから、アンタたち、安全運転で向かってきてくれ。場所は―――』
ぺったりと胸の上に上半身を預けてきたサンジの背中を掌で辿りながら、新人カメラマンが告げてくる住所と電話番号を頭に記憶した。
「―――了解した。それじゃ、10日後にな」
『楽しみにしている。受けてくれてアリガトウ。それじゃ』
ぱち、とサンジが瞬くのを見詰めながら。ゆっくりと受話器を電話に戻した。

「話したかったのに、」
そう言ってきたサンジの頬を小さく撫でる。
「キャニオンのお礼とかさ?」
「No way baby, 」
する、と。手に懐いてきたサンジに笑って告げる。
「なんでさ?」
上目遣いに見詰められ、頬から項に掌を移動させた。
「You're voice is too good for anyone else to hear but me」
オレ以外が聞くには、オマエの声は素敵すぎるだろーが。
に、と笑いながら告げれば。サンジが身体を乗り上げながら口付けてきた。柔らかく啄ばんで、寝起きの挨拶を交す。

「おはよう、サンジ」
ふわ、と蒼が目前で揺れた。
「良い夢みる暇もないうちに、また朝がきたよ?」
なぁ?そうサンジが言葉を続ける。
「朝起きるたびにおまえがわらってくれるからほんと幸せだって」
泣いていたのはすっかり過去の話なのか。酷く幸せそうなサンジの頤を軽く指先で擽る。
「朝だけじゃないさ」
とん、と啄ばむ。
「シエスタってのも、味わうといい」
それから、今日の予定とこれからの予定を告げる。
「起きたなら丁度いい。そろそろ支度しはじめないとな……?」




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