Day Three: Long Beach, North Carolina

夢をみていて。
なんだか、とても懐かしい声の相手と話してた気がする。まっさおな空の下に、広がる乾いた地面があって、その真ん中に
ドアのくり貫かれた家の壁だけが残った廃墟があって。
その前には赤い小さい花、ほんの少し点だけでみえるほど小さく。

そのひとと、そんなシャシンを覗き込んでいた気がする。
夢だから、シャシンの光景はとても大きく広がっていて。
風景そのままのようにも思えてた。

ゆっくりと、目が覚めていくと。
どんどん、―――とても確かに聞えていて。誰と話していたのかもわかってたのに。
声は薄く引き延ばされて、景色に紛れこんで。
その写し取った風景だけがイメージにいつまでも残ってた。

ふい、と。
意識が縺れる。
指の先に、何かがあたって。
柔らかななかに埋もれた細い金属。
つるりと抜けていった。
爪の先に細いチェーンが―――あぁ、これ……

ふわりとした熱を引き寄せる。
腕に抱きこんで、頬にふわふわとしたファーがあたる。
硬い骨のまわりに、しっかりとした毛皮の厚み。
――――かた、かなァ……そのまま。顔を埋めて。
なにか言ってるみたいな、ちいさな声は。
見ていた風景にまた混ざりこんでいって。
また、ファーを抱き込んだ。
ふにゃふにゃで、あったかいね―――

くぅ、と。身体を伸ばしてみる。―――容、まだあるね……
ざあ、と。
遠く聞える気がするのは、波音、なのかな。水の中で聞く、血の流れる音にも似て―――
『まぁだ起きないって?強情なマミィだな、』
小さな笑みを乗せた声、してる。―――――テレビ…?
抱きしめたファーの下で、するりと滑らかになにかが動いて。
『ほら、もう一回チャレンジしろ?』
つる、と。
腕が空になった。
「―――――――…、」

なにかの名前?呼んでた。
ざら、と。
頬を擦られて。
――――なに、これ。
擦られるみたいな、頬。

「んん、」
腕に顔、埋めた。
薄い、生地がきもちいぃ。
くち、と。髪?引っ張られて。リネンに潜り込んで。
はあ、と。息を長く零した、――――おれ?
『にあ、』
ぼんやり、白の布地越しに光があるなかで、音が届いた。
――――んん…?

ぱ、と。
光が一瞬で強くなって。リネンが無くなってた。
「………?」
眩しい中、どうにか目を開けてて。
光が後ろに、そのまんなかに――――
ゾ、ろ……?

頬に、すう、と軽く掠める感触。
ふわ、と。ちっとも邪魔にならない身体の陰が落ちてくる。
「バターになっちまったのか?」
笑ってる声がした。
瞬きして。
声の方に、腕を伸ばした。―――――あ、おれのだ、うで。…まだあったんだ。
さらさらと指が髪を梳いてくる感触が気持ちよくて。
翠、浮かんだ笑みがそのまま留まってた。
――――ゾォロ。

笑みの容を、指先で少しだけ追いかけて。
「―――バタ…?」
肘まで、布地が降りてきた感覚がくすぐったかった。
「オハヨウ、起きれそうか?」
「―――…ます、」
全然、コトバ。足りないや。
喉が、巧く音だせない。
柔らかに、あまい声に。微笑む。――――だめみたいだよー?おれ。
おはようございます、も。碌に言えないよ……?

手を貸そうか?って言われて。
頷いた。
貸してほしい。
すい、って腕を引き上げられて。背中、回された腕に嬉しくなって。
抱き起こされたままに、胸に身体預けて。
「――――ふ、」
きゅ、と唇を食まれて、また意識がぽん、と上向いて。
視界の中に、にこ、と微笑んだ―――

「―――ゾロ、」
首元に額で触れる。
「……りがと、」
「どういたしまして、」
「ありがと、たくさん。―――愛してくれて」
声、零れてって。
背中、指で辿れば。
見上げたグリーンアイズに、笑みが過ぎっていった。
うれしくなるよ?
微笑んだままでいたなら、柔らかなキスを落とされて。
「愛されてくれてアリガトウ、」
耳に。
低くわらうみたいな声が聞えて。
――――しあわせ、って、いま。おれ、全身で言ってるかもしれない。

「ぞぉろ、」
く、と肩口に額をあずけて。
「Yes, my dear?」
「着替えてくる、」
でもね、いまおれ。アタマぼうっとしてるから。
「…選んで、」
「As you wish,]
「さきに、行っていい…?」
「シャワー?モチロン」
「んん、」

肩、コットンの上からキスして。
ゆっくりと、ベッドと、優しい腕から抜け出した。
ローブを着て寝てたことなんて、やっぱりよく覚えてない。

バスルームにそのまま行って、ベッドルームよりは直に明るい日差しが差してきてて。
「――――まぶし…、」
半分脱げ落ちてたローブを腕から抜きながら、鏡の前を通ったとき。
どくん、と。心臓が跳ね上がって。
「―――わ、」
鏡、見なくても。頬が赤くなったのがわかった。

蕩けたあまったれた声で、強請ったのは――――覚えてる。
牙を肌に埋めてほしくて、痕を残してほしくて……
――――うあ。
首元、とか。
胸元だとか、腰骨の辺りだとか。身体の横とか……

ますます頬が熱くなったのがわかる。
下、ぜったい。向けない。
散らされた痕は。どうしても身体の跳ね上がる場所ばかりだ、ってわかるから。
脚の奥とか。膝裏とか。きっと―――?

「わあ、」
シャワーブースに飛び込んで。
水、の方を多めに。
肌を濡らし始めたシャワーの下で、どうやって顔冷やそう??

す、とあげた腕が目にはいってきて。
肩の線、ギリギリに。赤い痕が散ってて。
「――――ひゃ、」
ますます、顔が火照った。
なんてこと頼んでるんだよ、おれ……!

ふわふわと、甘いままに残ってる感覚に。
身体が重たくなってるんだけど、それさえどうでもいいくらいな。
だから、ゾロが入ってくる気配には全然気付かなくて。
急に、シャワーブースに腕が伸びてきて。
「こら、風邪引くだろ」
「ぞ、…?」
驚いている間に。肌にあたる水が温度を上げてた。

「―――だ、って…さ??」
「冷えてるぞ、」
濡れるのを全然構わない素振りで、額を合わせられた。ごつ、って。
「ゾォロ、」
「Yes, my dear?」
「―――照れるよ、」
あああああ、顔。
赤い、ゼッタイ。




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