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 ホテルまでの道程を、湾岸道路沿いに歩いて戻り。すっかり身体に張り付いた塩気をシャワーで落とした。
 戻った頃には夕日が沈みかけており。
 部屋で帰りを待っていたらしいエリィに、ドライフードを出した。
 酷く不満げな顔をしていたので缶詰も開けてやり、それを皿に盛ってやった。
 水は多めに、ボウルに入れて出しておき。
 テラスで沈みいく夕日をにこにこと眺めていたサンジを呼んで、車でディナーを食べに出かけた。
 
 海沿いにあったギリシャ料理店。
 ホワイト・ビーチの上に出されていたテーブルに着いて、ドルマダキア・ヤランジや炭火で串焼きにしたシーフード、
 プシタ・パイダキア等を注文し。
 サンジはすっかりと寛いで、裸足でゴハンを食べていた。
 
 夕暮れのビーチで、ふわふわと柔らかな風情で焼き立てのスブラキを食べる姿は、誰が見ても可愛らしかったのだろう。
 こっそりとウェイタに、デザートを奢られていた。
 ひょい、と見上げ、きょとんと目を瞬く仕種は、にっこりと笑うウェイタがテーブルを離れたときに思わずガッツポーズを
 決めるくらいだった。
 ふんわりと笑って述べられた礼は、さあどれくらい、ウェイタの耳に残るんだろうな。
 
 ブルーベリィのコンポートが入ったヨーグルトは、サンジの口にあったらしい。
 一口食べて、きらりと視線を煌かせていた。
 いるか、と訊かれ、かわりにガラクトブリコを差し出した。牛乳のプディングのような甘い食べ物。
 きゅう、と口許で笑ったサンジとプレートを取替え。
 コーヒーを飲みながら、ディナーを終了した。
 
 「このまままっすぐ帰るか?」
 車に引き返して、エンジンをかけている間にサンジに訊いた。
 サンジがす、と見上げてきて。
 「行きたいところでもある?でもさ、」
 「ん?」
 「エリィ、待ちくたびれてるかもよ、」
 そう言って、にっこりと笑っていた。
 手にはウェイタに頼んで包ませた魚の蒸し焼き。
 
 「じゃあ帰るか、」
 笑って車を発進させた。
 そういやこの旅行に出るまで。エリィは一人で留守番なんてほとんどしてこなかったしな。
 こう連日放っておかれることも無かった。
 真夜中のドライヴは、長くても4時間ほどであったし。
 日中の買い物も、そんなものだったよな。
 
 一度外で泊まって帰ったとき。エリィは酷く甘えて泣き付いてきた。
 不服と不満とやるせなさと嬉しさをぐちゃまぜにしたように、1時間ほど、みあみあにうにうとグチを零していたっけな。
 それで最後には、サンジに抱き込まれて眠っていた。
 甘ったれの一人息子。
 まぁしょうがないといえばしょうがないのかもな。
 独りで放って置かれるサイクルでは生活してこなかったわけだし。
 なにしろ。
 寂しがりやのサンジの息子でもあるわけで。
 
 ホテルに戻れば案の定。
 エリィがうにうにと文句を言ってきていた。
 フロアに出しておいた鼠のオモチャは、すっかり丸裸にされて、まるで鼠の干物のように毛皮が広がっていた。
 サンジが“ティビー”の惨状を見て、「あーあ、」と笑いを含んだ声で言い。
 ひょい、と不満タラタラな様子のチビを手渡してきた。
 
 「エリィ、また買わないともうないぞ、あの鼠」
 肩に両前足を預けさせながら背中を撫でていれば。
 エリィが口をむにむにと動かしていた。
 ……言い訳か?
 
 「あーあ、もおうぜったい、買わないぞー」
 サンジがエリィのディナーを用意しながら、そんなことを言っていた。
 からかい口調。
 けれど手の中のプレートには、白身魚の解し身が乗せられていた。
 
 「に!」
 エリィが抗議の声を上げながら、ディナーを貰いに行った。
 「ごめんなさい?」
 「――――にぁ、」
 随分と情けない声をあげ。鼻先に出されたサンジの手に、ごめんなさい、と詫びの一舐めをし。
 サンジの笑い声が部屋に響いた。
 
 それからエリィは晩御飯を貰って。
 漸く部屋で寛ぐことにした。
 
 
 
 
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