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 もっと餓えて、と。
 懇願されて、口端に登ったのは苦笑にも似た笑み。
 オマエには餓えっ放しだ、と。頬を撫でながら答えた。
 ただ、身体を繋ぐだけでなく。
 交わす口付けや、微笑みや、共有している空間まで。
 
 オマエが在るだけで、そこにオレが在る意味が生まれるんだ、と。
 涙の雫に重く濡れた睫が瞬くのを見詰めながら、そうっと囁いた。
 オマエが在ることに、オレは餓えるのだ、と。
 オマエが在るからこそ、オレは生きているのだ、と。
 
 サンジが腕に、手指で縋るようにし。けれど、とろりとした笑みを浮かべていた。
 「本当はな、オマエを丸ごと全部、喰っちまいたいくらいだ」
 苦笑しながら告げる。
 「喰って、」
 甘えてくる声に、笑みを返し。
 「魂も、身体も。骨も髪も爪まで残さず。血の一滴も漏らさないように、丸呑みしちまいたいんだ」
 するする、と細い脚を掌で辿った。
 サンジが甘い息を零していた。
 
 「けどまあ、オレは人だからな。生憎そこまではできない」
 かぷ、と踝を食んだ。
 カールした爪先が、きく、と揺れていた。
 「ンッ」
 「オマエを全部喰っちまったら、“先”も無くなっちまうしな。だから小出しで喰わせてもらってる、」
 てろりと浮いた骨のカーヴを舌で辿る。
 サンジの脚がまた跳ね掛けていた。
 
 とろりと蜜が浮き上がっていくのを目の端で捕らえる。
 「オマエの声も、甘い蜜も、熱さえも。全部オレは喰わせてもらってる、」
 身体を浮かせ、く、とサンジを引き上げる。
 肩口を、手がきゅう、と握り締めてきた。
 とん、と口付け。
 にぃ、と笑いかける。
 「オマエが気持ちよく蕩けてるのを見てるだけってのも、結構好きなんだぞ」
 名前を唇が模っていくのを見る。
 
 「それだけじゃ満足できないのは、オマエもちゃんと知ってることだろうけど」
 きゅう、と眉根を寄せていたサンジの頬にも口付ける。
 「際限なく餓えている、しかも充たされながら、な」
 ほわ、と強張りを解いたサンジが、きゅう、と腕を回してきた。
 「餓えていてもちっとも苦にならないのは、オマエがいつでもオレを充たしてくれてるからなんだろう、」
 髪に口付ける。
 柔らかな金に鼻先を潜り込ませる。
 「オレは幸せで、オマエに愛されていて、オマエを愛していて―――充たされているよ」
 
 「――――ゾロ、」
 サンジが柔らかく幸せそうに笑みを浮かべるのを見詰める。
 声に響かせた感情、音にされないものまでも、しっかりと受け止める。
 サンジが困ったように、酷く艶っぽい顔で見上げてきた。
 潤んだブルゥは蕩けた光を滲ませ。
 目元は火照り、朱を乗せていた。
 
 「見詰めるだけじゃ足りないのは、オレも一緒だよ」
 だからそんな顔をするな、と口付けながら囁いた。
 サンジの熱い舌先が、唇を擽っていく。
 捕まえて、引き込んで。
 強く絡ませて、吸い上げた。
 
 甘い吐息が零れていく。
 甘ったるいヴァニラとチョコレートより、上品でしとやかなアロマ。
 何度もアングルを変え、深い口付けを味わう。
 緩やかに火照った身体を何度も合わされ。
 サンジの腕から、シャツの残りをそうっと引き下ろして。
 反射するミラーに気付く。
 ガラスのテーブルトップ…眩しい、か?
 
 「――――ん、」
 滑る布地にも、快楽を引き起こされたらしいサンジが、短く喘いでいた。
 官能的な表情。
 「サンジ、」
 口付けを解いて、呼びかける。
 「――――な、に…?」
 とろりと蕩けた声に、口端を引き上げる。
 蒼い双眸に映った自分、
 ―――ふン。恋する人間ってヤツだな。
 
 サンジの唇を啄ばんだ。
 「オレが愛しく思って止まない物、見てみるか?」
 フロアに膝を着いて、ロゥテーブルに座らせたままのサンジの顔を覗き込む。
 こくん、と首を傾けた様子が、幼いように思える。
 酷く艶めいた顔をしているのにな。
 
 流れる金を掻き上げてやり、もう一度柔らかく口付ける。
 全身を委ねられて、苦笑する。
 「オレがいつも見てるモノ、オマエも見えるかもな」
 くしゃりと髪を撫ぜてから、立ち上がる。
 「―――――ぉろ…?」
 見上げてきたサンジの軽い身体を引き上げ、くるりと180度回す。
 
 「下、見てみろよ、」
 背中越しに腕を回し、サンジの髪に口付ける。
 「――――――――ぁ」
 きくん、と肩が跳ねていた。
 テーブルの上に跪いたサンジの肩越しに、ミラーになっているテーブルトップを見下ろす。
 サンジの頬が赤く染まっていた。
 蒼と視線が一瞬絡まる。
 
 
 
 
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