US17に乗って、ハイウェイを直走る。
夢現に着替えさせたサンジは、うとうとと眠ったままだ。
差し込んでくる午後の日差しに、きらきらと金色が煌いていた。
幸せそうな寝顔、目の下に隈があるのは―――まあ、仕方ないよな。
ホテルをチェックアウトする間際、ベルボーイに荷物を、ベルキャプテンにエリィを運んでもらった。
サンジは車椅子ではなく、抱きかかえていった。
首元に顔を埋めさせて。
『お加減が優れないのですか?』
心配そうにベルキャプテンが訊いてきたから、先日海ではしゃぎ疲れたのだろう、と伝えておいた。
“病気”と言っておくと、こういう時に便利だ。
『一日も早く元気になられることを、スタッフ一同お祈り申し上げております』と送り出された。
渡されるのが好意ばかりで。その一瞬だけ、心が痛む。
けれどまあ、サンジが快適に。オレが楽に過ごせることのほうが重要であって。
小さな嘘は、すぐに忘れてしまえる。
どうせ二度と、会うことのない連中だ。
助手席に座らせ、シートベルトを締めさせ。
それから、運ばせた荷物を積みなおし、エリィをバスケットから出してやった。
『エリィ、サンジの面倒をみてくれ。オマエに任せた』
サンジをバックシートのドアから指差し、エリィに告げれば。
ふむ、とチビは鼻息を漏らし。
ゆっくりと眠ったままのサンジの膝の上に身体を落ち着けに行っていた。
NYCのアパートにいる頃から。
朝、サンジが起きられない時間帯にアパートを後にするときには、エリィにそう言ってきていた。
おかしなことに、エリィはちゃんとそう言われれば、妙に誇らしげにサンジの側に蹲りに行っていた。
エリィにとっても、オレにとっても。最重要事項はサンジであり―――チビの場合はゴハンが先か?
チビは、オレがいない間にサンジの側にいることが、誇らしい仕事のようになっているようだ。
帰ってみれば、ふむ、とやはり荒い鼻息を漏らし。
どうだ、やったぞ!とアピールしてくるのも、毎度のことだった。
サンジはエリィにオレが甘いと言っているが、それは当然の褒美だとオレは思っている。
最も、エリィはサンジがただ好きなだけかもしれないけどな。
US17からSC9に乗り換え、ノース・キャロライナからサウス・キャロライナに入る頃には。
サンジもエリィもくぅくぅと軽い寝息を立てて眠り込んでいた。
昨夜は―――少し無理をさせすぎたかもな。
ミラーをはめ込んだロゥテーブルの上で3度ほど上り詰めさせた後。
ベッドルームに移動して、5度ほど手の中に零させたっけな。
さらりとした僅かな精液交じりの体液をサンジが零し、意識を失った頃には。
時刻は結局……ああ、それでも午前2時前で。
サンジを風呂に入れてから、ラヴ・メイキングに使用しなかったほうのベッドに寝かせ。
リヴィングに戻って、乾いた精液と、零れたアイスクリームの片づけにかかった。
サンジを抱いて眠ったのは3時過ぎで、エリィに朝ごはんを食べさせるために起きたのは8時。
パッキングを終え、朝食をとり終わったのは9時で、それからしばらくエリィと一緒にサンジと眠って過ごした。
ランチアワーに一度サンジを起こし、けれど恋人は寝惚けたまま、リネンにしがみ付いており。
起きたエリィと一緒に軽いランチを済ませ。サンジの身支度を整えてから、チェックアウトしたのが1時。
現在、ハイウェイ17をクルージングスピードで走行しているわけなんだが……どこかまだ色気を含んだままのサンジは、
起きる気配を見せない。
何度かエリィが起き。
サンジの膝の上で体勢を変えてから、また律儀に添い寝に戻っていた。
ラジオから流れてくる曲に、適当に口ずさむ。
声が届いたのか、サンジはふわりと柔らかく微笑み。
エリィはなにか言いたげに、むーぅ、と寝言を言っていた。
思わず笑った―――なんだよ、エリィ。
サウス・キャロライナを半分以上渡ったところで、一度パーキングエリアで車を停めた。
いくらなんでも、サンジの腹になにか入れてやらないとな。
アイスクリームは、結局オレがほとんど食ったわけだし―――ああ、しばらくはヴァニラの匂いにすら顔を顰めそうだ。
ショコラのソース…勘弁してくれよ?
あれは色味がナ…白いヴァニラアイスがサンジの肌の上を落ちていく様は、官能的でよかったけどな。
「エリィ、バスケットへGo」
声をかければ、車を停めた気配におきていたらしいエリィが、むく、と起き上がって、伸びをしていた。
頭を撫でてやり、小さなフリッジから水を出してやる。
ボウルに入れれば、まだどこか眠たげにそれを呑み。
もう一度欠伸をしてから、バスケットの中に眠りに行った。
蓋を閉じる―――いいコだったな。
Fine job done, my boy。
父親の口癖、いつの間にかエリィにかけるようになっていた。
上出来だ、ってな。
「Wake up, sleeping beauty」
パーキングでサンジの頬を撫でる。
太陽は傾き始め、そろそろ眩しくはないはずだ。
くう、と眉根を寄せていたサンジの顔が、妙に色っぽくて。
一人でパーキングには下ろせないな、と。毎度の感慨が湧く。
「Rise, darling. Guess the time, it's past four already」
起きろよ、何時だと思う?もう4時過ぎてるぜ、と。
言葉をかければ、サンジの唇が動いていた。
なにかを言いかけている。
「サウス・キャロライナを寝て通り過ぎるつもりか?」
「―――――――――――rning,」
オハヨウのぅ、だけ言って寄越された。
「…oro,」
名を呼ばれるが―――ろ、だけかよ。
笑って唇を啄ばむ。
パーキング、混み合う前の時間帯。
とさ、と腕が背中に落ちてきた。
頬と目尻にもキスをしてやり。
軽く下唇を噛む。
「―――――――――ぅ、ん、」
「Baby, better get up, gonna have to eat somethin'」
起きて何か腹にいれろ、と身体を離しながら告げる。
「―――――――――ぞ、ぉろ」
ゆっくりと瞼が開き。甘い色味を乗せたままのヘヴンリィ・ブルゥが覗く。
ふわ、と笑みが零され、艶めいた表情が蕩けていた。
「よく眠ったみたいだな、サンジ」
髪を梳いてやり、笑いかける。
「――――寝てた?ずっと…?」
ほやんとした口調のサンジに笑いかける。
「いま何所だと思う?」
「わすれちゃったよ、」
ふわりと微笑んだサンジが、きらきらと煌いて見えた。
「サウス・キャロライナも半分、夢の向こうだ」
笑って頬を突付き、指でフロント・ウィンドゥを指差す。
「いまはとりあえず、ハイウェイのレストエリアだな」
「んん、」
甘えた声に笑う。
「おきられるか?」
「お腹空いた」
ほわ、と微笑んだサンジに頷く。
「オーライ、ベイビ。腹を充たしに行こう」
キャップを被らせてやり、赤い痕が見えないように羽織らせていたシャツのボタンはトップまで嵌めさせる。
「なぁんで、キャップ、」
くすくすと笑うサンジに、保険みたいなものだ、と告げる。
「ガキ臭いよー、おれが被ると」
「I think not, darlin'」
マサカ、と答えてから、鍵をアンロックした。
「エリィ、留守番頼むな」
車を降りつつ言い。
「Really think so?」
ほんとうー?と言って来たサンジが降りたのを確かめ、車のドアをロックする。
「Yes, and you'd better believe me when said」
どこか気だるげに、語尾を甘く蕩けさせたままのサンジに、信じたほうがいいぞ、と笑う。
「先に鏡見てきたほうがいいぞ、オマエ」
道路、左右を見渡してパーキングの状態を覚えこんでから、首を傾げていたサンジを促して、レストエリアの建物に入る。
す、と視線が集まるのを感じる。
最初はただの偶然、けれど見れば視線をはずせなくなっている……。
サンジの足を止めさせない様に、さっさと奥へと向かわせる。
先に顔を洗わせないとな?
鏡を見せて、納得してもらわないとな…まあ、これだけ喰っちまったオレが悪いのかもしれないが。
こればっかりはな……。
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