ふわり、と柔らかな笑みを浮かべたまま見上げてきたサンジを見下ろす。
「んー?」
「メイド付いてる?」
さらりと頬を撫でてから、腰に両腕を回す。
「いや、」
からかい口調なサンジに笑う。
いったい蕩けたオマエの頭の中にはどんなイメージが詰まってンだろうな。

「付いていたほうがよかったのか?」
見上げたままでサンジが首を横に振っていた。
はさはさと金が柔らかく揺れる。
きゅ、と腕が回されて、柔らかく唇を啄ばむ。
まだとろりと柔らかな風情のサンジは、蕩けたまま完全に戻ってはいないように甘い。
レストエリアでも。何度もさっさと連れ帰っちまおうかと思うくらいにどこか艶を残したまま、ふわふわと微笑んでいた。
本人は“寝惚けている”と認識しているらしいが―――
自覚が薄いのは“サンジ”共通なのかね。

サンジが吐息混じりに、ゾォロ、と柔らかな声で呼んだ。
くったりと抱きついてきて、どうやらふわふわとまだゴキゲンなままのようだ。
「腹のすき具合は?」
目尻に口付けを落としながら訊く。
「んん…?」
「いま7時過ぎだろ?どうせならリッチにケータリングしよう」
擽ったそうなサンジのこめかみにも唇を押し当てる。
「そと、いかないんだ…?」
蒼が細められていくのを間近に見詰める。
「もう、目、覚めたよ?」
「メシくったら、夜の散歩に出るっていうのは?」
ぺろりとサンジの耳朶を舐める。
「、ん」
「久しぶりにエリィも一緒に晩飯、食わないとな?」
ぴくん、とサンジが肩を揺らしていた。
「どう思う?」

はさん、とゆっくりサンジが瞬き。それから小さく頷いた。
首元に顔を埋めそうなサンジを抱き上げる。
「先にシャワー浴びろよ。すっきりするぞ?」
「着替えるの面倒、」
「どの道あとから着替えるだろう?」
甘える声に低く笑う。
「それに、エリィをバスケットから出してやらないとな」
部屋の見回りもまだだしな。

くう、と首に一瞬抱きついてきたサンジの髪を撫ぜてから、ソファにサンジを下ろす。
蒼が見上げてくるのに笑った。
「面倒ならシャワー、一緒に入るか?」
リヴィングに運び込んだままだった荷物に近寄り、エリィのバスケットを開けてやる。
ひょこ、と頭が覗き、それからゆっくりとチビが飛び出してきた。
すい、とサンジに視線を戻せば、頬を赤く染めていた。
どこか気恥ずかしそうな風情に微笑む。
「そこでもう少しぼんやりしてろよ」
すい、と部屋を指差して回る。
「オレはツアーしてくるから」
「ん、」
サンジがソファに半分埋もれながら、頷いていた。
「あとで、アンパックするから、」
と声が届いて、笑う。
「気にするな、やっとくさ」

歩いてエントランスからチェックを始める。
ラファイェット・スクエアにあるコンドミニアムは、歴史的建築物として指定を受けているものばかりだ。
205イースト・チャールトンにある建物の3階を、ロングビーチで泊まったホテルのコンシェルジェに予約してもらった。

エントランスを入って直ぐにリヴィング。
左右にベッドルームがあって。
リヴィングを突き当たった先に、バスルームとキッチン。
その奥に、マスターベッドルーム。
さらにその奥に、ヴェランダがある。
広々としたスペーシング。
リッチな“兄弟”よりは、結婚式直前の花嫁や花婿の家族に似合いそうな場所。
内装も、建物と同じような年代のアンティークで纏めてあり、どことなく現実感からは浮いている。

一通りチェックを終わらせ、戻れば。
サンジがスーツケースの中から荷物を引き出していた。
どうやら着替えらしい。
途中から合流してきたエリィに、水のボウルを用意してやる。
「ディナーはもう少し待ってろよ、」
文句を言いたげに見上げてきたチビの頭を撫でる。

サンジがふわん、とした風情で、振り向いてきた。
近寄って、側に屈む。
「さっきついでにバスを溜めてきたから。10分もすれば入れるぜ?」
そう言えば、サンジはふんわり笑顔で、
「こんど、」
と甘い声で言ってきた。
「“こんど”?」
「んん、部屋でだらだらーって着れるモノ、買おっかなぁ」
「例えば?」
「NYCの家じゃあんまり着られないから、たらっとした何か」
「着ればいい、誰に気兼ねすることもないんだぞ」
ふにゃんと笑ったサンジの髪を梳く。

「ああ、いいものがあれば、買って。旅行している間でも、向こう戻ってからも着ればいいさ」
笑って立ち上がる。
電話の近くに―――ビンゴ。
近隣のケータリング・サーヴィスをしている店の番号表。
「サンジ、」
呼びかける。
「オマエ、何が食いたい?」

「クリーンな味の物ならなんでも」
「ダーティなテイストの物ってなんだよ、」
笑ってサンジの答えに肩を竦める。
「エイジアンならオッケイ?」
「ウン」
「オーケイ、じゃあ先にオーダしちまうな。どのみち1時間くらいかかるだろ。適当でいいか?」
アンパックした分をベッドルームの方に運び込んでいたサンジが、うーん、と返事を寄越していた。
少し遠い声、距離があるな。

「あぁ、ゾロ、ゾロゾロ!!」
呼ばれて、持ち上げていたフックを戻して、ベッドルームを覗く。
「Yes?」
「ヴェランダで食べよう?」
にっこお、と微笑んでいた。
「Why not?」
それもいいな、と答え、リヴィングに戻る。

勘で選んだ店に、何を置いているかを訊く。
タイ、ヴェトナミーズ、カンボジアン、インドネシアン、あの辺りの国の食べ物なら粗方そろえているらしい。
「おれ、ライスペーパー使ったのなら何でも食べるよー」
サンジの声が聴こえてきて笑った。
オーダをしている途中で、サンジがベッドルームから戻ってき、するりと背中に懐いてきた。

サンジが呑むのなら、ワインだろうな、と思いつつ。
たまにはいいか、とサン・ミゲールの小さいボトルも2本頼んだ。
フィリピンのビール。
やはり1時間ほどかかると告げられ、了承した。
金額を確認して、クレジットで支払う旨を伝え、肩に顎を乗せてぺったりと引っ付いてきたサンジの髪を撫でながら電話を切った。

「風呂はいるか、」
「んー、」
きゅう、と腕が回されて笑った。
「タイム・リミットは1時間な」
「夏はいいね?」
柔らかな声が言ってきた。
「すぐ体温伝わってくるよ、」
くっついたまま、随分とキゲンがいいのは続行中。
「冬もいいだろ、」
笑ってサンジのウェストに腕を回した。
「冷えてたのが暖まっていくのが解るしな」

ふわ、と微笑んでいたサンジを抱え上げ、ゆっくりと立ち上がる。
「けどまあ、さすがサウスだな。もう20度近くありそうだ。7月だってのにな」
「ゾォロ、あのさ」
くくっと笑い、
「エリィが居ないだろ…?バスに先回りしてるんだよ、きっと」
そう言ってきた。
「…エリィも風呂に入れちまうか?」
「もう入ってるかもよ」
「湯船にフォレスト・キャットかよ」
くっと笑ったサンジを抱えて、バスルームに入る。

「ノルウェイには温泉ありそうだし?」
す、と見遣れば。
「ああ、ほら…!」
サンジが声を上げた方向に、エリィが居た。
バスタブの縁に座り、妙に誇らしげにゆらゆらと尻尾を水面の上で揺らしていた。
「オマエも入るのか、エリィ?」
笑って訊けば、小さく鳴いて、とん、と床に降りていた。
ご免被る、ってか?
けれど独りでリヴィングで寛ぐ気はないらしい。
「溺れさせたりなんかはしないぞ、」
笑ってサンジをフロアに下ろす。
一人息子は心配性、らしい。

ちんまりと、フロアに座っていたチビからサンジに目線を戻せば。
うん?という顔で見上げてきた。
「―――訂正、水には、だな」
くく、と笑い、サンジの唇を啄ばむ。
それから赤く頬を染めたサンジのシャツに手をかけた。
「でき…、」
照れたサンジに笑いかける。
「It's okay baby, I'll do it for you」
任せてろ、って。




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