「I'm already given aplenty, baby」
いつでもオマエには沢山のものをもらっているよ、と。
エリィの背中に手を置いてその温もりを感じながら返す。
すう、と少しサンジが首を傾けていた。
「でもおれがそうしたいんだけど」
ふんわりと笑顔とお供に告げられた。
苦笑する。

「欲しいものは総て手の中にあるぞ?」
手を伸ばし、サンジの髪を梳き上げる。
「欲がないなぁ、」
くぅっと微笑んだサンジに肩を竦める。
「"You can only take a handful of treasures, but must be ready to throw them out in order to reach for the only one"」
“人は片手一杯分の宝石しか持てない、けれどそれすらも放り出す覚悟がなければいけない。大切なたった一つを得る
ためには”。
父の口癖だ。

「初めて聞いたよ」
「そうか?オレはちっさいころから、繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し……」
柔らかな口調のサンジに笑いかける。
「ま、正論だとは思うけどな」
エリィを抱きなおしながら、言葉を言い足した。
「オマエから貰うのならば、大切にしたいのが本音だろ?大切にするからには、きちんとしたいしな」

エリィがみぅ、と小さく鳴いていた。
どうやら眠りかかっていたらしい。
「んー…それって、」
返事はNoってこと…?と。ブルゥアイズが見詰めながら言ってきた。
「オレが欲しいものはもうすでに手に入っているってコトだな」
ジュエラのウィンドウに目線をやる。
「それがどういうことか具体的に言うとだな、」
すい、と小さなネックレスを指さす。
「あれならオマエに似合いそうだ、とか。こっちの指輪のデザインがもう少しマシならオマエにいいのに、とか。そういう風にしか
頭が回らない、ってことだ」
笑いかける。

「わかった、モダンデザインなら嫌がるかな、って思ったんだけど」
ふン?何か思いついたらしいな?
「オマエが選んでくれたものなら、タカラモノだよ、ベイビィ」
に、と笑う。
「ピアスはもう前に贈っちゃったし、他にもなにか肌に触れてるものをあげたかったけど、」
じい、とサンジが見詰めてきて、そうっとその頬に触れた。
それで先を促す。
「決めた、これからは本だ!」
そうサンジが威張って言った。
「それもうんと古いやつ。これでどう?」
「嬉しいな、」
心の底から、そう思う。

湧き上がる笑みをそのまま表情に乗せ。
「サザビーズとか遊びにいってもいいかな。クリスティーズでもいいや。匿名にしとくから、」
オークション、そう言ってにこおと笑ったサンジに苦笑する。
「変装もするよ?オンラインはツマラナイからさ」
「そこまで古い本もなあ、読めないかもしれないぞ?」
「考古学者が何を仰る」
「本の考古学を専攻してたわけじゃないと思うがな」
くすくすと笑うサンジを促して、リヴァ・ストリートを進む。

かつかつ、とサンジの足音が響く。
向かいから、誰かがこちらに寄って来る足音。
下を向いて歩いていた女性が、二人連れなのに気付き、わずかにびくっとしていた。
―――ああ、悪いな。足音が聴こえなかったか。
すい、と振り向きがてらに横を通り過ぎ。
腕に抱えているのが“猫”だと知ってまた驚いていた。
うちのチビは猫にしてはデカイしなあ?

「サンジ、」
アート・ギャラリの前で足を止める。
かつこつ、と女性の足は立ち止まることなく遠のいていく。
す、とブルゥアイズが見上げて来た。
「ビッグ・アップルに戻ったら、部屋を越そうか?」
「―――なんで?」
きょとんとした様子が幼くて。
口付けたい衝動に駆られる―――せめて額に一つ。
「グランドが入る部屋に住みたくなった」
そして今より少し、温かい場所に。

「グランドを入れた部屋に―――オマエが選んだ絵を飾りたい」
ぱあ、と笑みを満面に浮かべたサンジに笑いかける。
「うれしいな、―――――あ、でも」
きら、とブルゥが煌いていた。
「“でも”?」
「おまえに、くっついてる口実が無くなっちゃうね、温かいと」
きゅ、と口許を引き上げて笑ったサンジに肩を竦める。
「口実なんかいらないだろ?」

「エリィが文句言うの聞いたことなかったっけ?おまえ」
甘い笑みを乗せたサンジに、肩に担いだエリィを見下ろす。
「いいんだよ、寒いんだから、っておれいっつも言ってたんだけど、」
「へえ、オマエそんなに甘ったれだったのか、エリィ」
すうくうと寝息を立てて寝ているエリィの背中を撫でれば。
むにむにと口を動かしていた。
…言い訳、とか?

「文句を言うなら、チビも一緒にくっ付いてりゃいいさ」
どうせそのうち、飽きて適当に遊びだすんだしな。
ウィンドウを見ながら、キュービズムはさすがに避けたいな、と次のギャラリへ足を向ける。
ちらりと懐かしそうな顔をしていたサンジに、美術史専攻だと前に言っていたことを思い出した。
「明日はミュージアムにも行こうか」
「うん」
ふわりと甘い笑みをサンジが零していた。
「テラフェア美術館とかいうのがあっただろ」
サンジがこくりと頷いていた。
笑って金色を掻き混ぜる。

ふわりと幸せそうな笑顔になっているサンジと横に並んで歩きながら。
古い建物がそのままリユースされている川沿いの道を歩いた。
ショッピング・ストリートを歩ききり。
そのまままた川沿いからダウンタウンへと戻る道に入る。
「明日は朝から大変だな?」
「ん?なぜ?」
「教会に寄って、マーケットを冷やかして。美術館に寄って、ツイデだから昼の公園にも行こう」
くい、と見上げていたサンジに、見えてきたバールを指さす。
「呑みすぎないで起きれる自信があるなら、1杯引っ掛けていきたいと思ってる」
に、と笑いかける。
「What do you say?」
“どうだ?”
「Drinks on me,」
“オゴルヨ”。




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