オゴルヨ、とわらって。
エリィを一度抱きなおして顔を覗き込んだ。
コトバと一緒に腕を伸ばして、引き渡してもらって。
エリィ程度の重さはゾロにとっては何てことないんだろうけど、ずーっと片腕が塞がってるのはなんとなく不便だし?
それに、外を歩いていると猫のほかほかに温かな体温は、けっこう熱いと思う。
「おまえ、熱くない?」
「特には、」
「にぁ」
うわは。
同時に返事されちゃったヨ。
ぶ、とゾロが。毛を掃ってたのに吹き出していた。
あまりにぴったりなタイミングだったから。
おれは、ゾロに話し掛けたつもりだったのに、エリィがぱかりと目を開けて返事を寄越してくれた。
「すごいタイミングでお目覚めだねオマエも、エリィ。」
オハヨウ、と目の間にキスを落として。
バールが近付いてきた。
ガラス窓と広く開けられた入口から光が洩れていて。街灯で明るいなか、ほかりと浮かんで見える。
通りに面してテーブルも出されていて、居心地は良さそうだった。
中の方に人は多いのかな、外のテーブルには仲の良さそうな4−5人のグループ客が何組が座っているだけだった。
「外の方がいいか、」
訊かれて。
「んん、エリィもいるし?」
オーダー面倒じゃなければ外がいいかな、と答えた。
一番手前の列のテーブルには、一人で雑誌を読んでる人がいて。その後ろに、少し離れてどのテーブルからも丁度良い席の
空き具合のテーブルがあった。
「あそことか?」
ひら、と片手で指して。
「それとも、一番奥の壁際がイイ?」
笑って、見上げた。そうだな、と頷いていたゾロを。
「みう」
また、エリィが返事を寄越してきて。
「いや、手前の方がいいとチビも言っていることだしな」
ますます、笑みを深くしてゾロが言った。
「オーケイ、」
扉の内側から煩すぎずに音が流れてきていた。
ん、これは先にオーダー言いに行くスタイルだな。バーメイドは一人しかいないみたいだし。
「なにがいい?」
そうゾロが言いながら当たり前のようにイスを引いてくれて。
エリィを抱いていてもそれくらいは出来るんだけど―――
ありがとう、と見上げた。
笑みでふわりと返されて。
エリィに、鼓動がまた少しだけ跳ね上がったのがバレソウだ。
長い尻尾がひらん、と揺れてた。
「ペルノがいいかな、ビターとクラッシュアイスで」
お願いできるんだ?と。イスに座りながらコトバにする。
「エリィは?」
真顔で返されて、わらっちまった。
「X.Y.Z.でも?いかが」
ジブンの名前に反応して見上げてきた金色目を覗き込んで話し掛ければ。
「飲むのか?」
ゾロが笑いながら言うのが聞えた。
そして、すい、と少しだけ身体をエリィに向かって折って。
「代わりにミルクはどうだ?」
「みぁ」
交渉は成立したらしい。
「よろしくお願いイタシマス」
「畏まりました」
手を、ひら、と閃かせてゾロは開いた扉の中へ進んでいって。
膝の上でエリィが座るポジションを決めかねてるみたいだったから、もう一度抱き上げて、左腕に背中を寄りかからせるように
して座りなおさせた。
見上げてくる、くるくると喉が鳴り始めて。ん、オーケイ?
ほんの少し、背中のリーシュの止め具を緩めてやった。
左手にそのまま巻くようにしたリーシュのなかをスパングルが転がっていくのをエリィが目で追っていて。
「んん?おれの手齧ったら耳齧るぞぅ…、」
ほんの少し後ろに引かれた耳を、指先で撫でた。
温かくなってる、ほんとにさっきまでオマエ本気で寝てたんだネ。
まぁ、確かに。あの「助教授」の腕のなかは気持ち良いもんな……?
水辺を吹いてくる風がエリィの長いヒゲを揺らして。
少し離れたテーブルにいた女の人がこっちを見ているのに気が付いた。
あぁ、エリィが珍しいのかな?
犬はカフェでも見かけるけど、そういえば猫はあんまり抱かれて出歩かないしな。
『お嫌でなければ良いのですが、』そんなニュアンスの笑みを少し浮かべて返した。
遠くからなら、このグレイタビィの「チビ」はサイズが大きいから不思議な生き物にでも思われるのか、通りの反対側の
歩行者まで、なぜかエリィに気付いたみたいで。
「――――んん…?」
くるくると喉を鳴らして機嫌の良いままのエリィを見下ろす。
「エリィ・ベイビイ、おまえサウスで大人気だよ」
――――あれ?後ろからも目線が来てるか…?
バックポケットからライターとシガレットケースを出しながら少し視線を投げた先にも、猫好きなグループがいるらしかった。
ふぅん?
「―――あ、」
そのまま視線を流せば、ちょうど中からゾロがでてくるのが見えた。
右手に、ペルノのグラスとあれはシングルモルトだ、と色から予測してみる。左手にはエリィ用のミルクの入った浅いスープ
ディッシュ。
「オカエリ、」
「タダイマ、」
テーブルの横に立った姿に笑いかける。
「アリガト、―――あのさ?」
かたり、とテーブルにエリィのディッシュが置かれて。おれの前にはオールドファッショングラス、そしてモルト、の順番で。
ん?と目で先を促がされた。
「うん、エリィ。……珍しいのかな?」
訊いてみた。
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