軽く会話を交わしながら。
車はタッカートンを抜け。
クラマークリーク・ラヴランドの上を通り抜けてから、アトランティックシティには通じないルートを選ぶ。
カーディフを通り過ぎ。
マーモーラを抜け。
半島の先端を目指して、大西洋側の沿岸近くを走る。
途中でサンジがラジオを着け。
ゆっくりと日が動き景色が流れていく中、シナトラがかかっていた。
"Come Fly With Me"、実際には飛びはしないけどな。
すう、と真っ青で真っ直ぐな蒼が見詰めてきて。
一つ笑みを浮かべて、覚えこんである歌詞を音にする。
Come fly away, let's fly, let's fly away。
飛びたくなるくらいに、きれいな青が空には広がっていた。
ケープ・メイ間近で、フリーウェイを降り。
州道に乗り換える。
時間を確認して、ナビを頼りに細かい道路に入り。
フェリー乗り場からは20分ほど離れた、ケープメイ・ポイント州立公園のパーキングに車を停めた。
「フェリーに乗れないとシャレにならないから、30分ここで休憩な?」
眼を煌かせたサンジが、
「寄り道?」
そう訊いてくる。
「そう。足も伸ばしたいだろう?」
すい、と身体を伸ばし、サンジがエンジンが切れたのを確認してから、きゅ、と一瞬抱きついてきた。
「向かっている対岸は、デラウェアだぜ。ちなみにここ、緯度としてはホワイトハウスのある辺りと大体同じだ」
すぐに離れたサンジの髪をくしゃりと撫でてから。
寝っぱなしだったエリィを抱き上げる。
むむう、と文句を言っていたチビの口がむにゅむにゅと動き。
「なんだよオマエ、不満そうだな。またお留守番していいコで寝てるか?」
笑って鼻先から覗き込む。
眠たげに半眼だった瞼がぱかりと開き。
金色の猫目とばっちり視線が合った。
「なに、オマエ行きたいのか?」
サンジが横から楽しそうに見ているのを感じて、ふさ、と尻尾を揺らしたエリィの顔をサンジに向けた。
「同行許可をお願いしな?」
エリィの耳に囁く。
サンジがすい、と顔を近づけ。エリィがサンジにハナをくっ付けていた。
キスの換わり。
「じゃあバスケットに入れ」
膝の上に下ろしてやると。
するする、とサンジに喉下を擽ってもらってから。
エリィはとっととバスケットに自分から入っていった。
「いいコだな、エリィ」
後ろ手でバスケットの蓋を閉め。
それからサンジに向き直る。
「ン?」
降りようとしていたサンジに、いつの間にか外していたサングラスを手渡す。
「まだ少し眩しいぞ」
「ありがとう」
にこお、と笑ってするりとサンジが降りていく。
車高のある車だけに、その様子が猫みたいで少し笑える。
たた、と走って運転席側に来たサンジに。
「エリィ、出してやらないのか?」
そうジェスチャで訊けば。
にこおと笑ったサンジにドアを開けられた。
「おまえが先」
そう言って笑いかけてくる。
「サンクス」
サンジの髪をさらりと一回撫でて、車から降りる。
そこそこに人出のある場所だけに、行動には注意、だ。
「どういたしまして、」
サンジがまた助手席側に戻ってエリィのバスケットを取り出したのを確認してから、ドアをロック。
サンジの手からバスケットを引き受けて、真っ白い灯台を指で指し示す。
「あぁ、あれがそう?」
「そう。結構古いらしい。天辺のビームが出る下のところが赤いのが、なんとなくファンキーだな」
「コドモが描く灯台の絵、そのまんまだね」
ゆっくりと公園の緑を過ぎりながら、背の高い灯台に近づく。
「シンプルでいいな」
サンジに答える。
「上まで行ける時間あるかな」
「どうかな。まあ、ピサの塔よりかは低いだろ」
笑って、軽口。
「トレーニングマニアがよく言う」
けらけらと笑い。それから思い出したように、
「あ、でも階段だよなぁ、うわ」
そんなことを言っていた。
「十中八九?中で訊いてみようか」
「何段あるか、賭ける?」
「んー…何を賭ける?」
笑ってサンジを見下ろす。
「ヒミツを一つばらす、ていうのは?」
にこにこ、と笑ったサンジに笑う。
「オーケイ、ディール」
「218段!」
「なんだその区切りの悪い数字は」
応えに、苦笑する。
ぴし、と人差し指を立てていたサンジに、そうだな、と塔を見上げる。
目視で大体の高さを測っていたならば。にこにこと笑ったサンジが、
「おれの年に200足しただけ」
そう言っていた。
「ナルホド」
笑って頷く。
結局高さを170フィートとし。
段数を200くらいだろう、としたアバウトな目測はピンポイントで数字を言い当てたサンジには適わず。
サンジが天辺で息を整えている間に、なんのヒミツを打ち明けようか、考えた。
さて。どうするかな。
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