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 Day Five: Savannha
 
 「――――――――あれ……?」
 鳥の声がした、と思っていたら。急に聴こえてきた鐘の音に驚いて。ぱし、とスクリーンが切り替わったみたいにテラスの
 低いソファの方に座ってた。
 手には、なんだか水の入ったグラスまで持ってて。
 「んんん……?」
 たしか、さっきまで半分眠ったままで。ベッドで何か言ってた気がするんだけど。眠いとか朝なのか、とかそんなことを。
 窓越し、部屋の中を覗いて。
 バスの方から水音がすこし聞こえてきた。
 
 あー…きっと。
 ゾロがバスに行ってる間に、おれ。
 寝惚けてこっちに出てきてたんだ、多分。
 まだ、随分と朝が早いのかな、陽射しはまぶし過ぎることは無くて、3階のこの部屋からは空はすこしだけ近い。
 快晴、だ。
 
 せっかくだから、手の中のグラスを持ち上げてまだ冷えていた水を一口。
 昨夜バールから帰ってきたのは、割合と遅めの時間で。
 腕に抱き込まれて眠った。エリィはなんだか妙に真面目な顔をして枕もとからゾロを見上げていて。
 いつまでも、目が僅かな光を反射して緑に光っていた。
 『エリィ、それ、怖いから』
 もう寝なさい、と。そんなことを、半分眠りながら言ったような気もする。
 その返事は、聞かなかったと思うな。胸の辺りに額を押し付けてすぐに目を閉じてしまったから。
 ゾロが、少しだけ落とした声でエリィに何か言っていたような気もする。
 
 「そういえば……なんて言ってたんだろ、あのおやこは」
 水音の方をすこしだけ振り返った。
 エリィも、ゾロのシャワーに付き合ってるのかな。リビングにはいないみたいだ。
 「んー、おれってば仲間はずれー?」
 くすくすと勝手に笑みがこぼれていった。
 
 陽射しが気持ち良い。このテラスは日陰になっていて、青に突き刺さるみたいな聖堂の尖塔がよくみえる。
 あれは―――ゴシックスタイルだな。きっと、面白いステンドグラスがあるんだろう。
 「たのしみ、」
 独り言を呟けば。
 片手に氷の入ったグラスを持ったゾロが、デニムだけを穿いてバスから出てきていた。
 ここにいるよ、とテラスから手を軽く振る。
 起きたよ、って方が正解なのかな。
 
 「ゾォロ、おはよう」
 「オハヨウ」
 ソファから見上げる。
 間近に立って、それから頬にキスが落ちてきた。また、妙にうれしくて笑みが零れていった。
 「なぁ?」
 「んー?」
 訊いてみる。
 「おれ、また寝惚けてた……?」
 覚えてないよ、ここに来たこと、と。
 
 「可愛かったよ、」
 す、と。伸ばされた指先が、そうっと頬を押していって。
 なんだか気恥ずかしかった。だってさ―――?
 前から多少は寝起き悪かったけど、確かに。ここまで酷いとは自覚してなかった。
 「あのさ、ゾロ…?」
 指先をやんわりと掴まえて。
 なに、と目で問い返してきたゾロをまた見上げる。
 陽射しを取り込んで、照らされて。深い翠がどこか透明さを上げていて。
 ひとつ、息を吐いた。
 「安心しすぎるんだよ、おまえの所為」
 あまったれた口調に、我ながらちょっとびっくりした。
 
 「それのどこが悪いんだ?」
 ふわ、と柔らかな光が翠を過ぎっていって。
 それが笑みにゆっくりと変わっていくのを見つめていた。
 どうしようもなく、幸せなんだと。また思った。
 
 「なにを言ったかも覚えてない、多分全部本当なんだろうけど」
 指先に。そうっと唇で触れた。
 ソープの香りが少しだけまだ残っている。
 「オマエは覚えてなくて構わないさ、」
 声に、また眼差しを上向ければ。柔らかい笑みにぶつかった。
 「気になる、」
 手の甲にもかるく唇で触れて。
 そのまま腕を引くようにした。
 このソファ、大きいし。
 
 軽く片膝を乗り上げるようにしたゾロが。
 「気にしなくていい、オレが知っている」
 そう言いながら、喉奥で笑いを抑えて。煌くようなグリーンアイズが合わせられる。
 「ゾロ……?」
 膝、デニム越しにそうっと触れて。
 「Would you please give me a BIIIIG hug?」
 なぁ、ぎゅうううってしてほしいんだけど?とリクエストする。
 
 
 
 
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