公園から歩いて帰りがてら、大きなデリカテッセンの店を見つけた。
店構えから判断するに、ヨーロピアンとアジアンをミックスしたようだった。
店内は高級感のあるウッドの棚とよく磨かれたガラスケースで仕切られており。
調理場と見られる場所ではパンも焼いているのか、壁に沿った木の棚にはいくつもの焼き立てのブレッドまで置いてあった。
店員はアジアンにヨーロピアン。
そのままな組み合わせで少し笑った。

熱くなるサヴァナらしく、店内はひんやりとクーラーが利いていて。
日向で焼きすぎたのか、サンジはぼうっとしていながらも冷たい空気にどこかほっとしている様に見えた。
「食べたいもののリクエストは?」
サンジに訊いてみれば、ふわんとヘヴンリィ・ブルゥが見上げてきた。
「冷たいもの、」
「野菜多めだよな、オマエはいつも、」
「うん、」

笑ってにこにこと見詰めてくる店員にサングラス越しに目を合わせた。
素直に頷いている様子のサンジが“カワイイ”のだろう、更に店員が嬉しそうな顔をしていた。
ぽけ、としているサンジはそのままに、適当に見た目で美味そうなものをオーダしていく。
野菜とフォアグラのテリーヌだとか。冷たい春雨のサラダ。
トーフのソイソースドレッシングや、生春巻きもあったので買った。
すい、と見上げた先に、サンジがデリカテッセンでいつも頼むメニュウがあった。
ベイビィコーンとシュリンプの、オイスターソース炒め。白い塊が入っている、多分あれはクワイだろう。
それと、デビル・チキンというメニュウがあったから、オーダしてみた。

「こちら辛いですよ?」
笑いながら店員が言う。
「どれくらい?」
「辛いものを食べなれていないと、つらいかもしれませんね」
真っ赤に染め上がったソースのかかったチキンだった。
するんと側にやってきたサンジが、
「火を吹くのはドラゴンだよね?」
チキンを指さしながらそう言ってきた。
「それ以外は思い浮かばないな。オマエもチャレンジするか?」
柔らかい口調のサンジに笑いながら訊けば、
「一口分くらいは試す」
どこか気の抜けた返答が帰ってきた。しかも小さな溜息吐き。

笑いながら、ローストハムのスライスも120gほど購入して。
あとは焼きたてのバゲットを1本。
こちらも農場から取り寄せているという直送のバターを1ケースつけてもらった。
「おいしそう、」
どこか気だるい口調でサンジが言う。
「デザートにチーズケーキとか食いたいか?ゼリーとかもあるぞ?」
横に首を振っているサンジに笑う。
「オマエ、その調子だとアルコールは摂らないほうがいい」
サングラスをショップに入るなり外していたサンジが、すい、と見上げてきた。
ふぅん?オマエがデザート?

「じゃあ、そこのワインゼリーを2種類、赤のと白のとを一緒に」
に、と笑ってオーダを終わらせた。
エリー用に蒸したチキンをソース無しで包んでもらって。
キャッシュで払ってデリカテッセンを後にした。
ブラウン・バッグから飛び出たバゲットが、妙にオカシイ。

「持とうか?」
「じゃあこっち、な」
見上げてきたサンジに、ゼリーとテリーヌの入った小さなバッグを手渡した。
「ほら、もうすぐ部屋だ。大丈夫か?」
「んん、」
ぽーっとした口調のサンジの肩を軽く引き寄せて、それからそのままゆっくりと歩いて帰った。

借りている部屋のドアを開ければ、恨みがましそうにエリィが寄って来た。
独りで放置されたことが気に入らなかったらしい。
「お土産あるぞ」
そうエリィに言えば。ぴくん、と尻尾が揺れていた。
早々は懐柔されないか?

ドアにチェーンをかけて部屋をぐるっと見渡した後、サンジの手からデリカテッセンで購入した荷物を引き取れば。
「ただいま、」
そうぼうっと言いながら、Tシャツを脱いでいた。
する、と指先で触れれば、肌が火照って赤くなっていた。

「サンジ、バス入れ」
腰をそうっと押してやる。
ん、と頷いたのを確認しながら、備え付けの冷蔵庫に仕舞うものを仕舞って。
サンジの足元にしきりに甘えているエリィに、購入してきたティビー1匹を出してやった。
視界からいなくなったサンジから買ってきた物に視線を落とし。
先にエリィのディナーを支度してやる。
新しい水と取り替えてから、一緒に出してやった。

「いいコだったな、エリィ」
軽く背中を撫でてやってから、かつかつと食べるチビを後にし。
ベッドルームまで来れば、サンジがリネンに横になっていた。
ああ、ほら。だから言っただろう?焼くのはやめておけ、って。

キッチンに戻って、グラスにオレンジジュースと氷を入れて戻る。
「冷たくて気持ちいい、」
気配に気付いたらしいサンジに、グラスを差し出す。
「起きて飲め。すっきりするぞ、少しは」
本当はスポーツドリンクみたいなほうがいいんだけどな。

ゆっくりとベッドに腰を下ろせば、背中をリネンにぺたりとくっ付けて目を閉じていたサンジが瞼を開いた。
ゆらりとブルゥが覗き、グラスを頬にくっ付ける。
「ひゃ、」
「バス、支度してきてやるから、それを飲んじまいな」
笑ったサンジに、ほら、とグラスを揺らす。
グラスを差し出していない方の手首をきゅう、とサンジが握り。それから起き上がっていた。
どこか気だるそうな動作。
「バスから出たらローション塗らないとな、」
「うん、」
背中に枕を置いてやり、ベッドから立ち上がる。

サンジがこくこくとジュースを飲み始めたのを確認してから、バスルームへと向かう。
窓の外、もう夕暮れが迫っていた。
長いようで短い一日が終わろうとしている。




next
back