トールグラスに少し、残した。
陽射しを浴びすぎたみたいだ、頭もすこしぼうっとしてるし。
肩から背中の真ん中あたりまで、なんとなく肌が火照ってる。これで薄くでも色がつかなきゃただの徒労だし、散々むかしっから
言われてたことの恩恵を少しばかり思ったけど。
グラスの内側でアイスキューブが転がって立てる涼しい音が気分が良かったから、少し残っていたオレンジジュースも、
キューブヒトツごと口に含んだ。
ひんやり冷たいけど、すぐに内側の熱と同化していく。
このままここにいたら、また眠り込みそうだ、麻のリネンはそうじゃなくても好きなのに。
水音がし始めた方を眺めて。
立ち上がった。
―――んん?立ち眩み?……そんなに太陽から離れてたっけ―――
ベッドルームを抜けて。
バスルームまで。
ドロワーから、タオルを幾つか取り出しているゾロの背中に額をくっつけた。
「ぞろー、」
カモミールの匂いがふわ、と立ち上った。バスタブの中にでも、オイル垂らしたのかな。
水の溜まっていく音も耳に気持ちいい。
額から流れ込む体温も、アタリマエに気持ち良い。
するするとそのまま何度かシャツの生地の感触を味わった。
「少しはすっきりしたか?」
優しい声が届く。
「んん、ありがとう、」
腕を、ゾロの胸前あたりまで回したままでくっついていたら。
「平気そうなら入るぞ」
「入るぞ、ってことは、一緒…?」
さら、と腕を撫でられて笑い声が混ざる。
「オマエそんなんで一人で入って生還できるのか?」
何だかひどく楽しそうに、それでも同じだけ優しく返されたから。指先でボタンを弾いた。
シャツの胸元、2つ分くらい外していく。
くっつけたままの背中ごし、ゾロのわらっているのが伝わる。
んん?させてくれてるわけだな―――?
生地を引き出して、全部ボタンを外し。
ぺた、と掌を胸元に直に押し当てた。
「温度、上がってる?」
「オマエの体温か?ああ、」
「ちがーうよ、」
声が完全に呆けてるよなあ、おれ。
「自分で確かめろよ」
笑い声、そして。
身体の向きをあっさりと変えて、直に目を覗き込まれた。
とん、と肩口に唇で触れる。
「んー?」
そのまま首元に唇で触れようとしたら。
ヒップハングのボトムス、そのボタンを弾いていった手が、腰のラインに潜り込んできて少しだけ唇が肌から浮き上がった。
それでも唇で触れたなら、長い指先が中心のラインを辿ってきて。
「ン、」
零れそうになる息を、肌を薄く食んで殺した。
「オマエの方が熱いな、」
声が柔らかに笑っていて。
触れた肌の線を、胸下まで唇で添わせた。
手から、逃げたかったっていうのも、少しあるけど。
身体を落として、キレイに出来上がり過ぎだと思うくらいの脇腹のラインを少しだけ味わっていたら。
「入らないのか?」
ますます、笑みに彩られた声が聞えた。
「はいろ…?」
見上げて。
そのまま。
ふわ、と。
グリーンが笑みを乗せていくのを見詰めながらボトムスのボタンを指先で弾いて。
ジッパーを歯で軽く挟んで引き下ろしてから、身体を起こした。
「んー、修行不足って?ちぇー」
まるっきり、無かったことめいてあっさりボトムズを落とされた、ゾロに。
入れ、と促がすより先にバスタブに入れさせられて。
「ちぇ、」
オイルが柔らかくした水の表面を掌で凪いだ。
胸元まで辛うじて水面が上がってくるだけの深さに、身体を半分だけ伸ばした。
「なか入っちゃえば温度一緒かな、」
ぐいぐい、と。
腕を引っ張る。
「なぁんで縁で座ってンだってば」
文句を言えば。
「向かい合わせと背中抱かれるのとどっちがイイ?」
「うーん?カオ見せて欲しいかも。目でオトスっての練習スル、ボディトークじゃ駄目みたいだから」
ぶく、と。
頤下まで水に沈んで答えた。
だーってさ?オマエさ。
まるっきり平気な顔してンだもんなぁ。でもこれも、完敗っぽい予感が既にスル。
ああああ、やっぱり。
「ローション塗らないで皮捲れ始めたらタイヘンだろ、オマエ」
声が笑ってる。
それを、じろりと見上げた。
「おれ、皮なんか捲れないし」
「どうだか。日焼け、辛いんじゃないのか?」
そこまで焼けられないんだし、と返せば。そう言われた。
「塗っちまえば平気、」
ぶく、とまた少し沈んだ。
「ぞーろー、おれ溺れ死ぬかも、ハヤク」
そうしたなら。
イキナリ、伸びてきた腕に引き上げられて、それも腕の下だ、手を差し入れられて。
向き合って膝の上に座らせられた。
「―――わ、」
温めの水が、バスタブのなかで揺れていた。
片手を、バスタブの縁に軽く預けて。
「頭、すっきりしたか?」
笑みで視界がほとんど埋められる。
「練習できる程度にはね……?」
ぱしゃ、と。
水の雫をわざとゾロの頬あたりに向けて飛ばした。
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