膝の上にサンジを乗せたまま、スポンジは取らずに緩くソープを泡立てた。
「オマエは一体オレに何をしたいんだ?」
笑いながらサンジの片手を取り、泡でゆっくりとマッサージしていく。
火照った肌に負担にならないよう、できるだけそうっと。

ふわふわと甘い眼差しのまま、ヘヴンリィ・ブルゥが見詰めてくる。
今度は反対側の腕を取って、そっちも洗っていく。
「ちょっとは、」
「うん?」
甘ったるい声に構わず、首筋から肩にかけて、手を滑らせていく。
肩に触れた瞬間、僅かに竦んでいた。
苦笑する。
そのまま鎖骨の辺りを辿って、ソープをまた泡立てる。
「そのグリーン、すこしくらいは、」
柔らかい泡を上半身全体に塗り広げていく。
サンジが小さな吐息を零した。
リラックスしている筋肉の感触が掌に伝わる。
「ハンノウしてほしいよ、まだまだだなぁ、おれ」
またソープを泡立てて、半分水に浸かった腰の辺りやセックスの周りをマッサージする。
ほわんと言葉にされていたことに、笑って見上げれば。
サンジが瞼を僅かに伏せていた。

長い金に縁取られたブルゥに、にぃ、と笑う。
「もっとオマエに狂えって?」
視線を感じたらしく、ゆっくりと瞼が引きあがっていった。
またソープを泡立てて、今度は背中にそうっと手を回す。
筋肉の流れに沿って掌を動かし。
「そんなこと、思ってもいやしないんだろうに、」
吐息混じりに告げ、見あげてくるブルゥに肩を竦めた。

擽ったかったのか、強張った背中を宥めるように撫でてから、腰のラインに手を下ろす。
「これ以上オマエに狂ったら、酷いことになりそうだしな。オレはオマエにそんなことはしたくない」
くすぐったそうに身体を揺らしたサンジの動きに、水面が何度も揺れる。
サンジが首を傾けていた。
尻の丸みを手で辿って膝裏まで撫で上げる。
きゅ、とサンジの目がくすぐったいのか細められていた。
膝がぴく、と跳ね。また水面が揺れる。
またソープを泡立てて、ゆっくりとサンジの脚のラインを辿る。

「酷い?」
「そう、“酷い”。オスの肉食獣なもので」
甘くなった声に笑いながら、にっこりと笑みを返してみる。
「“がお”?」
かぷ、と喉を食まれてまた笑った。
「その通りだよ、ベイビィ。何事も行き過ぎは良くないのは知っているだろう?」
片足ずつ、爪先まで泡立った手で辿る。
ちら、と首を食んだままサンジが視線を跳ね上げてきていた。
「アイジョウは?」
小さな指の間まで指を滑らせていく。
肌に押し当てられた唇に声がくぐもり、くすぐったさに語尾が跳ねたサンジに、
「難しいことを訊くな、オマエ」
と返す。
「アイジョウは?ゾロ―――?」
サンジの脚がすい、と引かれ。手の中の泡をぬるま湯の中で落とした。
くう、と見あげてくるサンジと視線を合わせる。
「相手を幸せに、自分も幸せになるだけならいくらでも」
すい、と頬を指で辿る。

「よかった、」
「自分を見失うようなものや、相手を不幸にさせるようなら、それは行き過ぎってヤツだ」
ふわんと目を伏せて微笑んだサンジの髪をそうっと掻き上げて。
首の後ろに手を回し。そっと上半身を引き寄せる。
一瞬煌く蒼が見えていた。
「おれのゾロは逆説の塊、狂っても愛してくれる、って言ったかと思えば、」
行き過ぎはご法度、だって。とくすくす笑いながら言うサンジの湿った髪に口付ける。
「狂ってもオマエを愛してるさ。ただ、オマエを傷つけることはしたくないだけだ」
「ゾロ?」
ふわ、とサンジが綺麗に微笑んでいた。
「んー?」
「おまえはおれを傷つけなんかしないよ?だってさ、」
腕を緩め、目を見詰めれば。
「おまえが齎してくれるものならそれが何であっても、傷だなんておれは認めない」
自慢げに、天使がにこぉっと笑った。
目を細め、微笑みを返す。
「あんなにオマエを泣かせるのにか?」

「ん、」
だってさ?とサンジがふんわりと笑って続ける。
「おまえ、意地悪かったもん、もとから」
に、とサンジが笑って言い終えて、くっくと笑う。
「悪いオトコだしな?」
「おればーっかり、」
くい、と髪を引っ張られ、片眉を引き上げる。
ふにゃ、とサンジが表情を和らげ。ちぇー、とわざと鼻に皺を寄せていた。
ふに、とその鼻を僅かに押し上げてやる。
「む」
顔をサンジが少し後ろに引いていた。
笑って手を離し、代わりに口付ける。
「あんな大っぴらなアウトドアでオマエに口付けるようなオレでも、まだ足りませんかサンジさん?」
「まぁだまだ、だな。ロロノアクン」

にか、と笑ったサンジの唇を軽く啄ばんでから、膝の上から下ろした。
ばしゃ、と水を跳ね散らかして、サンジがきゅうと腕を回してくる。
「ダイスキだよ」
「じゃあ今度はエンパイア・ステート・ビルの天辺ででも?」
腰に腕を回して抱きとめる。
「ホントだなぁ?」
くっくと笑ったサンジに肩を竦める。
「まぁたまには?」

ひゃは、とサンジが嬉しそうに笑って。
そのまま立ち上がって、今度はスポンジを取って自分を洗う。
身体の隅々まで洗ってから、スポンジを湯に落とし。
腕を伸ばして、してやろうかー?と訊いてきたサンジに首を振る。
「オマエ、頭は?」
「自分でスル」
「オーライ、」
シャワーヘッドを手渡してやり、シャンプーのボトルもごと、とサイドに置いた。

少し逆上せてきたのか、ふわふわな手付きでサンジが自分の頭を洗っていた。
泡を洗い落とした時点で逆上せたらしい、バスタブの淵に頤を乗せ、盛大に溜息を吐いていた。
バスの湯を引き抜いて、軽く温いシャワーで泡を落としてやる。
先にハンドタオルで髪を拭いてやってから、バスタブの中で立たせて、タオルで包んだ。
はた、とサンジが目を閉じていた。
「ぐらぐらする、」
「縁に座ってられるか?」
サンジが首を横に振っていて。
髪を洗うのは後回しにすることにする。
「ベッドいく、へいき」
そう言ったサンジに、待ってろ、と告げ。
泡をさっさと洗い落としてからタオルを腰に巻いた。

バスタブから出て、サンジを抱き上げる。
「わ、」
「ふらふらしている、オマエ。危なっかしい」
蒼が覗いて、片眉を引き上げる。
「エリィが来たら避けれないかも」
キッチンで冷蔵庫を開け、ゲータレイドを見つけてそのボトルを引き出した。
ふにゃ、と笑ったサンジを抱えてベッドルームへ。
リネンの上に座らせてから、横に寝かしつける。
「はあ、」

ペットボトルの蓋を開け。
伸びていたサンジに先ほどオレンジジュースを入れて渡したグラスに、蛍光オレンジのスポーツドリンクを注いで渡す。
「ほら、飲め」
「うー」
「頭がガンガン痛み出すぞ?」
「消し方知ってるヨ、」
小さい声に苦笑する。
「キスで酸欠なんかになったら、もっと偏頭痛が起こるぜ?」
「おみとおし?ゾロ…?」
「まあな。オレの大切な恋人のことだしな?」

ふわふわに蕩けた笑みを浮かばせているサンジの唇にグラスの縁を近づけてやる。
「ほら、ぐっと飲め。そしたらローション塗ってやるから」
「んー、」
こく、と喉が動き。サンジがおとなしく液体を嚥下していくのを見守る。
グラス半分ほど飲んだところで、深い息を吐いたサンジからグラスを遠ざける。
「ありがと、」
「じゃあちょっと待ってろよ。眠っちまっててもいいぞ」
薄くなって消えかかっていた痕も、薄いピンクに色づいていた。
「んん、」
ふわふわに柔らかい笑みを浮かべたサンジの髪を撫でてから、荷物の入ったままのラゲッジの方に向かう。
エリィがティビーを咥えてベッドルームに入れ替わりに向かうのを見詰める。

マミィにオマエを褒めてやれる元気があればいいけどな、と思っていれば。
「ひゃ、くぐった…!」
案外元気そうなサンジの声が聴こえてきて笑った。
キッチンで自分用にミネラルウォータをペットボトル1本分飲み干してから、ラゲッジの中に入れて置いたローションを取り出した。
くすぐったがりのサンジには、“酷い”仕打ちになっちまうかな?




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