リネンに、身体を伸ばした。
火照った指先まで、ぺたりとつけて。
ゾロがドアを抜けていく気配に神経をそれでもあわせていた。
―――まあた、完敗だよ。
懲りずにチャレンジするジブンも諦めが悪いのかなぁ。
練習ついでに長風呂しすぎて、のぼせる始末だ。あーあーあ…
は、と。
あっつい息をリネンに吸い込ませて。
目を閉じていたなら、ほんの少しの音が聞こえた。
エリィのリングとルビイがかすかに触れ合う音、首元から。
んんん―――?
来たのか?と思っていたら。
ほんの少しだけベッドが揺れて、エリィが飛び乗ってきた、とたんに。
足指、かり、と噛まれて。
甘噛みだけど、思わず。
ひゃあ、と。トボケタ声が出て行った。
くすぐったいって、オマエ―――!!
「エリィ、アウト…!」
なう、とかにあ、とか。うわ、くすぐった―――これ、ティビーだ?!
ぽて、と。
膝裏にファーの塊が落ちてきて、跳ね上がった。
「エリィ…ッ」
ざら、って。舌…?
こらオマエね!
起き上がって、ふくらはぎ辺りに乗っかってきていたエリィを掴まえた。
「勘弁しろ。オマエにまでからかわれる筋合いは無いぞおれ?」
まっすぐにおれの顔を金色が見詰めてきて。
ああでも。ティービーを捕まえた、って言いにきたんだろうなぁ、コレは。
するする、と目の間を撫でた。
「…よく捕まえたね、お留守番もいい子だったけど」
とん、とキスを落とす。
「おれな?くすぐったいのは苦手な―――」
す、と。
ゾロがドア口に立っていたのが目に入った。
「平気そうだな?」
笑み。
「あぁ、ウン。寝てるわけにもいかないよ、コレじゃあ」
軽く頭を振ってみて、眩暈の確認、―――わ。
まだ少しだけ、視界がぐらついた。
エリィの背中に額を埋めた。
「うー…」
「辛そうだな、」
「逆上せてるだけだから、すぐ直る、」
くるくる、とエリィが妙に楽し気に喉を鳴らしているのが大きく聞えて。
笑いながら戻ってきていたゾロがベッドサイドに座り込んだ。
「ん?」
―――わ、さら、と巻いていたタオルを取られて。
なう、と一声小さく鳴いて、エリィが腕の中から抜けていった。
「うつ伏せになれ、」
「―――ウン?」
ティビーを軽く脇に退かそうとしたなら、
「Take Tybee with you(ティビーは持っていけ)」
小さな命令に、エリィがおれの手から鼠を受け取ると、ヘッドボードの方で、両足にティビーをはさみこんで蹲っていた。
そんな様子を眺めながら、リネンに腹ばいになる。
冷たさがやっぱり肌に心地良くて、小さく息を吐いた。
乾いた肌が少し、ひりひりし始めていたけど。
ひやり、とした感触が肩口に降りてきて、身体が跳ね上がった。
「く、すぐった…っ」
「痛いよりはいいだろ、」
冷気よりもくすぐったさに身体が強張った。
ゾロの声は笑いを充分含ませてるけど。
「や、自分です―――」
る、とも言い切れない。
触れられるのとも違う感触に神経がぴりぴりハンノウし始めて。
「―――ひゃ、」
新しく冷気と一緒に肌に塗りこまれていくたびに、ひりついた火照りは収まっていっているんだろうけど、それどころじゃなくて、とにかく、くすぐったいんだってば……!
「う、ぁ、ひゃ、」
笑い声にも成り切れない、笑うにはくすぐったすぎる。
すう、と肌を滑る感触に、
「も、い、ぃって…ば、ぁ」
息も死に掛けだ。
「エリィ、どう思う?」
真面目腐った声が届いて。
わざとなに訊いてるンだよ。
「な、」
エリィ??
それって何だ??
「う、ぁっ、ちょ…ッ」
くすぐったいんだってば!!
背骨の辺りまで、掌が滑ってきて。背中がカーブする、勝手に。
ばたつく足なんかとっくに抑えられてるし。
「これじゃあクエナイナ、」
なんだか残念そうな声だ……?
「じゃあ塗るの、―――や、っめ、」
すーすーする肩口の感覚が奇妙だ。
「こんなに過敏になってるのに放置するって?冗談だろ、早く治せよ」
「治るも、なにも、これ―――」
胸をリネンからどうにか浮かせて。
「じぶんですれば、くすぐったくないンだってば」
ゾロの手に残ってるローションを掬い取ろうとしても。
すい、と退かせられて手が届かなくなる。
「んん」
ばたん、とリネンにカオを落とせば。
「気持ちよくはないか?」
耳元、声が潜り込んできて。ぴくん、と勝手に肩が跳ね上がる。
「っ…、」
息がくぐもって、声にならなかった。
肩甲骨の下、そこにも冷たい液体が滑って。
息を詰める。
乾いた熱にかすかに痛み始めていた肩口はもう普段と余り変わらないけど。
「ァ、」
かぷ、と。
耳を食まれて背中が揺らいだ。
肌がゾロの掌の温度を伝えてきて。
眩暈、それがゆっくりと形を取った。
「…ふ、ぁ、」
「背中、リネンに擦れると痛そうだぜ?」
緩く耳朶を食まれて、息が零れてく、なのに声が落とし込まれてまた小さく震えた。
知らずに撓みかけてた背中、そのカーブを背中の窪みに沿って滑らされた指先で知って。
「ん、っぅ」
リネンの上で緩く手を握った。
日焼けの後のケアだ、ってわかってるけど、これって、はんそく…
「ゾ、ォろ」
もう、いい。自分であとはするから、とどうにか切れ切れに訴える。
けど。
「ここのラインから下がすげえ白く見える」
喉で笑うような声に気を取られかけて、すぐにその線を指先で区切っていかれて、腰骨のあるより下気味なライン。
「ぁ、」
きく、と。
足先がリネンを掻いたのがわかった。
「焼くならやっぱりヌーディスト?」
のんびり言いながら笑うゾロの声が。
「プライヴェート・ビーチまで次焼くのは禁止な、」
そんなことを続けていて。
返事なんか返せない、その間も、指先は何度もその線を往復して。
吐息は耳元を擽ってくるままで。
「ん、ゥ」
息を飲み込むのに精一杯だ、もう。
指が、ヒップラインをそうっと滑っていって。
「ひぁ、」
勝手に声が零れていった。
「そ、ンなとこ、焼いてな―――、ぁ、」
「ココが焼けてたら、タイヘンだぜオマエ?」
肌がさざめいてる、
「焼かな、―――っも、」
笑いを含んだ声はに抗議したくても、神経が全部ひっくりかえって。
「んぁ、ンッ」
なんだかもうトンでもないかもしれない。
笑み、それだけが耳朶を擽っていたのに、軽く歯を立てられて嬌声めいた声が零れていった。
「―――っや、」
「まだ眩暈がしてるか?」
肌を撫で上げられられて、声にまでそうされるかと思う。からかうように肌を滑るのに熱を落とし込んでいく、深くに。
「―――ぉ、ろ」
……眩暈?
「頭痛、平気か?」
視界、揺らいじまってるよ。
「ぃ、たくな―――」
ふらふらと曖昧な声が音を乗せて。
「で、も…、」
短く息をつく。
吸い込むときに、吐息が揺れるのは―――
「“でも”?」
穏やか声に意識をあわせても、背中に指先が触れられてまた息が跳ね上がった、身体も。
「く、らくらす……」
声が途中から、ハナにかかった鳴き声混じりになった気がして、口許を押さえた。
「ンん、」
目を閉じる。
火照っていた肌なんかより、もう。
吐息の方が熱い気がする、
「ゾォ、ロ…」
瞳を閉ざしたままで呼びかける、消えそうなくらい震えてた。
「Yes my love?」
「Will you eat me, NO?」
タベテクレナイノ…?と。
乾いた唇の間から声が洩れていった。
「What made you think I weren't going to, baby?(そうしないわけがないだろ)」
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