Day Eight: Starting Point Panama Beach City

エリィを起こし、朝ごはんを食べさせ。
その片づけを終えてから、荷物のほとんどを仕舞い。
朝食を一人前頼んでから、サンジに声をかけてみた。
“全部食って”とリクエストされたからには、それに応えないようなオトコではないつもりで。寧ろ起きられれば奇跡ってヤツだな、
と内心小さく笑った。

案の定サンジはくう、とリネンに包まり。
朝食を終えてばたばたと部屋の中を駆けずり回っていたチビが、どーん、とサンジの上に乗っかってみていた。
腕を伸ばし、ぱたぱたとリネンを叩いていたサンジは、
「―――んっ、ぅ」
そう呻いて、顔を顰めていた。
けれど、目を開ける気配ナシ。

さらさらと顔にかかっていた髪を掻き上げてやってから、エリィにアウト、と命令した。
ぴ、と耳を後ろに僅かにそらしてはいたものの、チビはとん、とベッドから降りていき。
まだ無事だったティビーをゴー&フェッチをしてブレクファストが届く時間まで遊んでやった。

朝ごはんが終り、再度サンジを起こしてみる。
眉根を寄せたまま眠っていたので、眉間をぺろりと舐めてみた。
エリィと間違えやがるか?
ほわ、と柔らかい表情にはなったが…おい、目を開けなさい。
「ベイビィ、そろそろ出発だぞ、」
リネンをきゅう、と握っていた。
ま、しょうがないか。

睫がふるりと震えるのを間近で見ながら、身体を引き起こして肩に凭れ掛けさせる。
ローブを脱がして、Tシャツを着せ。その上からシャツを一枚。
またベッドに戻してデニムを履かせかければ、サンジが目を開けていた。
とろ、とどこかまだ夢の中。
靴下も履かせて、靴の紐を結わいてやる。

「顔くらい洗うのか?」
「くつ?―――や、」
「選択の余地ナシ。荷物はパックしちまいました」
起きないオマエが悪い、と笑いながら唇を啄ばんで。
さきにベッドルームに運んでおいた水の入ったグラスを差し出す。
「寝るにしても一応飲んでおけ」
「ん、―――きる、も…」
「ならそれをちゃんと飲め」
グラスを手の中に置いてやる。
「零すなよ?」

ブルゥがふにゃんと見上げて来て。
「はよぅ、」
そう言いながらふらふらと手を伸ばしてきた。
零す確立8割くらいか?
グラスのソコを支えておいてやる。
「ぞろ。」
「ん?」
ふわふわの笑みを浮かべたサンジに、ハヤク飲んじまえ、と笑って促す。
「喉が辛いだろ?」

く、と一口だけ飲んだサンジに、もっと飲みなさい、と告げる。
寝起きの1杯だから、ちゃんと飲めるはずだ。
ブルゥが合わされたまま、コップ半分くらいまで飲んでいく。
「もういいのか?」
首を横に振り。ヒトツ息を吐いてから一気に最後まで飲んでいく。
「いいコだな、」
髪に口付けをしてから、とんとんと背中を叩いてやり。
それからグラスをサイドテーブルに置いた。

きゅう、と一瞬抱きついてきたサンジの髪をさらさらと撫でてから、ウォッシュルームから持ってきておいたヘアブラシで髪を
梳いてやる。
チビのブラッシングに次いで、本日2度目の作業。
自分を入れれば3度目か?
ああ、そろそろ髪を切りたいかもな。
近々どこかで飛び込もう。

サンジがきゅう、とシャツを握ってきていた。
エリィと同じ仕種。
喉が鳴らないだけ人ってことか?
「んん、」
「オマエも髪伸びたな。どっかで一緒に切るか?」
せっかくだしな。
「―――や、」
「伸ばすのか?」
「きめてない、」

最後に軽く手で整えてやり、ブラッシングは終了。
「ふン?」
ぷに、と頬を突付いてみる。
やっぱりどこかまだふわふわしてるな、オマエ。
「なぁん?」
とろん、と眠りにまだ半分浸かったままの声だった、案の定。
見あげてくるブルゥに、軽く唇を合わせてから、またベッドに寝かせてやる。
「もう少し寝てなさい、」
「おきる、や」
「寝てろって」

ころ、と寝返りをうって、半分身体を起こしていた。
「一人は、やです」
とろとろとした口調。
きっと強情なコドモだったんだろうなあ、オマエ。
くくっと笑って身体を抱き上げてやる。
「ソファでうとうとしてろよ」
一生懸命起きようとした努力は買ってやるから。

そのままサンジをリヴィングのソファに座らせ。
ちんまりと足元に座りにきたエリィが自慢げにサンジを見上げていた。
「んなあ」
なにか報告しているらしい。
「おはよう、ダーリン」
声が酷く甘かった。
今日のランチはパーキングエリアに寄るのは危険だな。
まあ5時間半もあればあっちに着けるわけだし。
一度高速下りてどっか寄ればいいか。

予定を立てながら、最終パッキングを済ませた。
まだサンジが寝ている内に清算は済ませてあったので、真っ直ぐに車に乗ってそのまま行っちまえる。
ベルボーイを電話で呼びよせた。

エリィを抱きかかえていたサンジの横にバスケットを置けば。
「エリィ、きょうもドライブ。」
そんな説明をしていた。
はいりなさい、と柔らかな声で語りかけられ、Good Boy Eleiはするりとバスケットの中に収まっていた。
荷物の最終チェックをして、ドアの前にスーツケースを運んでおく。

「Okay, we're ready to leave」
行く用意は整ったぞ。
「Fine with me」
はぁい、と良い子の返事が返ってきたので、ご褒美に軽いキスをした。
ソファから起き上がろうとはしていたが…ああ、あんまり真っ直ぐには立ててないなオマエ。

「ふらふら?」
「そう、だから座っとけ」
ドアベルが鳴り、とん、とサンジをソファに座らせてからドアを開けに行く。
くすくすと笑っているサンジの声が聴こえたのか、ドアを開けた瞬間、ベルボーイがにこおと笑った。
「よくお休みになられたようですね」
「ああ、おかげさまで」
荷物を頼む、と。スーツケース2個を頼んだ。
背後にいたベルボーイにはエリィのバスケットとヴァニティを。
「先に車に積んでおいてくれ」
「解りました、ミスタ・ウェルキンス」

ベルボーイたちがエレベータの方に向かって歩き出したのを確認してから、リヴィングに戻る。
「じゃあ行くぞ」
ひょい、とサンジを抱き上げ、とんと唇にキスをしておく。
「―――わ?」
「静かにしとけな?」
見開かれた青に、いいコにしてろよ、と笑いかけて、エレベータホールに向かう。
エリィとヴァニティを持ったボーイが待っていてくれたので、そのまま早足で乗り込んだ。
あるけるよ、と言っていたサンジの声は聴こえなかったことにする。

「どうかなさったんですか、オトウトさん?」
「足首を痛めたらしくてな。抱えた方が早いので」
「ああ、それはお大事に」
にこりとボーイが笑っている間に、箱はグランドフロアに到着。
ますます目が大きくなっているサンジに、なんだよ?と片眉を引き上げてみせ。
そのまま早朝の、あまり客のいないホールを横切っていく。

にこやかなコンシェルジェ連やボーイに見送られて車に向かう。
サンジを座らせてシートベルトをさせてから、荷物の位置を確かめ、エリィをバスケットから出してやる。
「びっくりして、目が覚めた…」
「また直ぐに眠くなる」
ぼおっとしている口調のサンジに笑ってから、エリィがのそりとその膝の上に乗りに行ったのを確認して。
ベルボーイたちにチップを多めに渡してから、胸のところにかけておいたサングラスをかけて、運転席に乗り込んだ。

車を走り出させれば、
「おまえきのうはサブで一人で寝たの?えらいねえ」
などとサンジが言っていて。
チビは、な!!と不服そうに声を上げていた。
そうだよな、オマエサンジに潰されてたもんな、カワイソウニ。

今日も真っ青なフロリダの空が開いているのに満足しながら、車をハイウェイに向かわせる。
本日の目的地、ニュー・オーリーンズ、ルイジアナ。
前に“クエナイオトナ”に薦められたホテルの場所を思い出したから、朝一で予約を入れておいた。
さみしかった?えらいよ、でもベイビィ、などとエリィに向かって寝惚けた発言を連発しているサンジは、夕方到着する頃には
少しはしゃっきりしていやがるかね?




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