一瞬、目が覚めた。それも酷くハッキリ、誰だって抱き上げられてロビーの真ん中を突っ切ればそうなると思うし、
そんなことに慣れるニンゲンがいるとも思えない。
それに、何だってみんな納得するんだろう……?おれ、そんなにぼうっとして見えるのかな。
膝の上に座ったエリィは、何だか背中から尻尾にかけて毛が束になってて。
これは―――なんだよう?オマエまでキゲン悪いの?
よく一人で寝られたね、と褒めてやれば、何だかますます怒ったみたいな口ぶりだし。
走り出したクルマの窓から空が高く澄んでいるのが見えて眩しい。
寂しかったんだ?と声を掛けてみても、くうくう文句を言っていて。背中をやんわりと撫で下ろしてみた。
拡がる海のブルウ、その色と光の反射が眩しくて目を閉じかけた。
―――やば、眠いかも。
くるくる、とエリィの文句も段々トーンダウンして喉を鳴らす振動と混ざり合って届いてきて。
このままだと眠る、と思って。ゾロに何か話し掛けたんだけど。
カレッジステーションでもオルタナティブでもなんでもいいよ、音、とか何とか。
エリィが、ざら、とヒトの手を舐めてきて。手を引こうとしたけど。
落とされたヴォリュームで静かなピアノの音が聴こえて来て、――――寝ちゃうってば、こんなんじゃ。
目を開けて、空と海と明るすぎる道路のラインでも見れば―――
そう思っても、一瞬だけさえた意識はとろとろとやわらかくなっていくばかりで。
そういえば、おれ。次はどこへ行くのかも訊いてなかったのに。
する、とエリィが膝の上で向きを変えて身体を長く伸ばしたのがわかったけど、あとは、全然ダメで。
なぜか、
「なんじ、」と。
ゾロにそんなことを言う始末、聞えた。
柔らかなトーンの声が聞えるけど。
それは気持ちの良い音、ってだけ。
す、と全部。遠のいて、ただ柔らかい空気だけが届いた。
ガラス越しの陽射しが随分と明るいなあ、とそんなことを思って。エリィ、暑くないかな―――
「――――な…?」
「ランチ、何が食いたい?」
「――――んん?」
言葉の最後が、出てこなかった。手で、目元を少し遮った。
なに?
きゅう、と目を一度きつく閉じていたなら、ゾロの声が単語を沢山読み上げていってた。
「んんん?」
どうにか目を開けて。クルマが停まっていることはわかった。
パーキングエリア?ここ?
国籍不明な場所。
踏み切りみたいなバーと、パーキングチケットが出てきそうな機械と―――
「イラッシャイマセ!!」
がさがさと割れた音がスピーカから。
エリィが、ぴくっと尻尾を跳ね上げて。――――あぁ、あれ?
サザン・アクセント?わかんなかった、一瞬。
ヨウコソ!!と店名が続いて。
ワンテンポ遅れて、ドライブスルーらしい、と頭が追いついた。
「ぞろ…?」
ドライブばっかりで疲れないのか、と訊いた。
「平気。それより何がいい?」
すい、と伸びた腕がエリィの頭を撫でて。オマエは後でな、と聞えた。
メキシカン・ファスト・フード…?エリィにはスパイスがきつすぎるねえ。
ゾロがさっさと告げていくオーダーを聞いて、また遅れて思いついた。
「コーラ」
アタマ、炭酸ですっきりさせようか?
あとは?
あとはー……
「なにか食え」
「アボカドのディップ、」
あれしか欲しくない、
「一口、」
以上、オーダーおわり、とどうにか言って。
「まあ夜にちゃんと食えばいいか、」
またシートに身体を伸ばした。
んん?
なんでリクライニングになってるんだ?
「なおし…」
あぁ、エリィ。邪魔だからちょっと退いてほし…
ボタン、手が足りないじゃないか、リーチが。
すい、とまたクルマが少し動いて。
「うあ、」
エリィが伸ばした腕にのっしり、って具合に身体を半分乗せてきて。
「おも、」
諦めてそのままでいた。
する、と窓の外の景色が変わっていったのかな?空しか見えないけど。
「たーすけてー…」
呟いても。
く、っと小さく笑う声がしただけだ。
たぶん、またハイウェイに戻ったんじゃないかな。
坂道を上がったことくらい、惚けててもわかるぞ。
「おいしそーな匂いがしてますね」
バックシートから何だか妙に魅力的な匂いが届いて、エリィはヒゲ?動かした?顔にあたるよ、尖った毛先が。
「腹減ってるだろオマエ?」
「ううん、」
身体の向きをエリィごと変えて。
くっく、と何だかキゲンの良さそうな笑い声のもとを見上げた。
―――はは、気分いいし。
またすぐにクルマは停まって。
「公園?」
寝言じみたことを口にする。
「マサカ」
「なんで、ピクニックランチ、」
しようよ、と半分寝惚けたままな声、ワレながら。
す、と目を閉じれば。
笑ったゾロの顔を最後に見たんだけど。後は動きと気配で、わかる。エリィのランチを支度してやっているんだ。する、と
温かな塊が膝から降りていった。バックシートでエリィはランチ、だね。
「んん、ランチ?」
ふ、と。閉じたままの視界が少し翳って。
シートの位置が戻りかけて。く、と感覚が引き上げられた。一瞬で。
軽く、齧るみたいなキスを唇に落とされた。
「ぞぉろ、」
くすくすと笑みが零れていった、開かれた視界にはグリーンがあって。
「起きたか?」
「んん、」
「ランチ食うぞ」
「おれのコーラどこー」
「ほら」
クラッシュアイスがカップの内側でかしゃりと音を立てて。
手渡されて。それから、小さなディップの容器。カップスタンドの位置を指差してるゾロの顔を見つめた。
「おまえは、なにたべるの?」
ディップは受け取らずにおいたら。
「ナッチョス?」
いるか、って口調だったけど。
「オレはちゃんとタコスを食うぞ」
「片手で出来るね、じゃ」
にこにこと見詰める。
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