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 「オレの指はスプーンじゃないぞ、」
 「”ちゃんとタコス食う”前に、一口分くらいサービスしてよう?」
 なぁー、いいじゃないかー、と。エリィ並みの我侭?
 「ちゃんとオマエが残り食うならな、その緑のクリーム」
 「クリームじゃありません、ディップ」
 ふにゃんふにゃんになってるね、きっとおれ。顔。
 プラスティックのフタを開けて見た。
 「トルティーヤよりきっと美味しいかも」
 くい、とゾロを見上げた。
 
 「噛んだらエリィ嗾けるぞ」
 「そんなこと、エリィはしません、」
 なあ?とバックシートに呼びかければ。にう、と食べるのに忙しい子が返事をくれた。
 ペーパーバックから取り出したウェットクロスでゾロがさっさと手を拭いていて。
 「いただきます?」
 すい、と。少しだけ身体を近づけた。
 にぃ、と。笑み、ゾロの口許に浮かんでいくのを見詰めていたなら、ディップが指で掬われていって、目の前。
 「美味しそう、」
 ぱく、と口に含んだ。
 舌先で絡めて、スパイスとアボカドと。長い、指の先まで。つるり、と全部。
 齧るなって言われたけど、誘惑だなぁ、美味そうなんだもん。く、と舌で押し上げてから唇で食んだ。そうっと。
 
 「ごちそうさまでした、」
 「ちゃんともっと食え」
 柔らかい、優しいグリーンを見上げて、少し微笑んだ。
 言い聞かせるみたいな口調に。
 「ナッチョスで?はぁい」
 ちゅ、と掌の真ん中、キスを落とした。
 いいコだな、って。言葉が落ちてきたけど、笑みと一緒に。
 「Could have been a naughty boy」
 悪いコにもなれたのにナァ、とわらって。ディップにチップスをダイブさせた。
 
 「ほおーら、折れちゃうだろ?」
 チップスの刺さった容器をひらひらと。
 笑って、良い音をさせながらタコスを食べてるゾロの前でさせてみた。
 でも、引き上げながら食べて。ギモンを訊いてみた。
 「ゾォロ?」
 コーラを一口。
 「ん?」
 「なんで、ドライブスルー?外、歩きたくない?」
 不器用だな、と。折れたチップスに少し笑ったのはこのさい無視だ。引き上げて、また一口齧った。
 「状況が許せないな」
 「うん?」
 状況?なんだろう。
 良い音は相変わらずゾロの口許からしてる。
 
 「―――転ばないよ……?」
 可能性、引き出してみれば。
 すい、とゾロが良い音の出所を差し出してくれたのを、一口齧らせてもらえば。
 「オレは結構心の狭い男なんだ、」
 そんなことを言って、口許を引き伸ばしていたけれど。
 「くれてるじゃん…?」
 ありがと、ごちそうさま、と。それを戻したなら。
 「バァカ、」
 ひどく軽い口調がそんなことを言ってきて。
 笑いながらグリーンがとても柔らかい色味を過ぎらせていった。
 「指もスプーンにさせてくれたしー」
 食事に戻ったゾロに言い募っても、ハイハイ、とでもいう風に肩を竦められそうな感じだ。黙っておこう。
 そんなに危なっかしくみえるかなぁ?おれ?
 
 クラッシュアイスの粒を直接口に入れて氷を食べていたなら、イキナリしゅっとバックシートから手が伸びてきて。
 頬の辺り、ネコパンチ??
 エリィ?
 「氷、これは。音が嫌い?」
 がりがり、とわざと言わせてバックシートに振り向いた。
 「なぁう」
 「んん?なにご機嫌斜めだねオマエ」
 そういう子は、と人差指をエリィの金色目の前でひらひらさせた。
 「きょうも一人で寝なさい、って言うぞ?」
 おいで、と。バックシートから腕を伸ばしてエリィを引き上げて。
 そうしたなら、ゾロが。ぶ、っと吹き出しながら、「ヒデェ」と言っていて。
 「なぁんで?」
 くったりと身体を預けてきたエリィを抱いて訊いてみた。
 
 「ヒデェよなあ、エリィボーイ、」
 「一人寝できるようになったんなら、ダイジョウブじゃないかー。なあ?」
 エリィの顔を覗き込んでみたら。
 何だかとても複雑そうな顔?んん?
 「かわいそうなチビ」
 くっく笑いながらゾロは食べ終えて。やっぱり不味いコーヒー道を選んでいた。
 「じゃあ、ダディに免じて今日はいっしょに寝ようか、エリイ、おまえ真ん中な?」
 抱きなおせば。
 「――――、あ。ゾロ?」
 「はン?」
 「溜め息ついたよ、エリィ」
 「ああ、だろうな」
 納得顔で、ひょい、とおれを見てきて。
 
 「なん?」
 「レストエリア行くか?」
 「―――寝ないように、顔洗ってきます」
 に、と笑いかけたなら。
 「ああ、まあ寝とけ。どうせハイウェイ流しとくだけだ」
 「ゴミも捨ててくるし?」
 ペーパーバックを指差した。
 「オレも行くけどな?」
 
 「うん?じゃ行こう?」
 「ついでだからエリィも行くか」
 あっさりとバックシートからスパングルのリーシュを取り出していて。
 「わかった、じゃ先に捨てにいっておくから」
 ゴミを纏めてからクルマを降りた。昼過ぎ、にしては随分と暑いんだな、もうこのあたりは。
 ダストボックスを目指していたなら、ヴェンダーの、おじいさん?かな?
 「きょうも暑くなるよ、お―――にいちゃん!」
 なんで、語尾が妙?まいっか。
 「そうみたいですねえ!」
 答えてから、空の袋を押し込んで。エリィを抱いてすぐに追いついてきてくれたゾロを振り返った。
 「目が悪いみたいだね」
 「そう来るか」
 
 にこ、と笑いかけてから顔を洗いに行こうとしたなら、笑いながらゾロがそんなことを言っていた。
 「そうもこうも、ウン」
 水の音に負けないように声を少し大きくして、リフレッシュしたなら。
 んんん?なんだよ、エリィまた溜め息?
 
 
 
 
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