アラバマ州モバイルで一度インターステートを降り。
ランチをメキシカンのテイクアウトで済ませ、またI-10に戻った。
サンジとエリィはまたうとうとと眠りに戻っていき、ミシシッピーに入った頃には熟睡していた。
車のステレオはラジオからCDに入れ替え。
流したのはF・ヘミングのベスト版。
ダイナミックなピアノの音に負けず、すやすやとサンジとエリィは眠り続け。
ミシシッピーからルイジアナに入り、マクリーン・シティからサウス・ポイントに渡る湾の上を通るのにサンジを起こした。
ぼうっと見上げてきたサンジに、窓の外を指し示す。
「海の上」
こく、と首を傾けていた。
一度、手がきゅう、と目元を覆っていき。
それからゆっくりと窓の方を見た。
不意にぱっと目を見開かせ、きらきらと目を輝かせた。
「どこ?ここ?」
それでもとろりとまだどこか寝惚けた声を出していた。
「ルイジアナ。もう30分ほどでニューオーリーンズに到着するぞ」
「―――もう…?」
「ああ」
じいっと見詰めてくるサンジに、なんだ、と訊く。
「寝てばっかり、ごめんね、さみしかった…?」
ふにゃん、と笑っていたサンジの頭をくしゃりと掻き混ぜた。
まだ寝惚けてンのか?
「別に寂しくはないさ」
きゅう、と目を細めたサンジに笑いかける。
「そう?」
「ああ」
ふわふわと笑ったサンジに言う。
「寝ててもそこにずっといるだろ?」
ふにゃりとサンジが微笑を浮かべ。きゅ、とステアリングを握っていた手に手を重ねてきた。
寝起きでまだ熱い掌に小さく笑う。
「オマエ、こっちに来た事あるか?」
「初めてだよ?生まれてから」
「ならいい。今度ステイする先、かなりのオススメらしい」
「どういう?」
ほにゃ、と応えてきたサンジの指を挟んで軽くきゅっと握ってから離させた。
「オレの知り合いの“クエナイオトナ”が推奨するくらいだ、フツウじゃないんだろ」
にやりと笑う。
すう、とサンジが目線を泳がせてから、にこお、と笑った。
そういや随分とベックマンに懐いてたもんな?
出逢った最初の頃を思い出す。
「だからもう寝るなよ」
ぷく、と片手でサンジの頬を突付く。
サンジがどこか照れたように笑った。
「もう充分、」
「夜眠れなくても文句は聞かないぞ?」
「ダイジョウブ、起こすもん」
すい、と覗くようにしていた。
「オレの睡眠時間は?」
わざと目を見開く。
「ダァリン、朝起きたらいつも起きていて、寝るときにはいつも後から」
「だからって寝てないわけじゃねェぞ」
すい、と首を傾けていたサンジに苦笑する。
「じゃあ、膝枕してあげよう」
にこおと笑ったサンジに苦笑する。
「大人しく抱っこされて寝てろ」
「プランテーションの真似事、団扇でも煽ってもあげるよ」
「慣れない事をすると筋肉痛になるぜ?」
くくっと笑った。
「そこまで鈍ってないようー」
わざと言っているサンジに、ニューオーリーンズに到着したことを告げる。
「ナイトクラブ行く?」
目をきらんとさせていたサンジの頭を軽く小突く。
「どっかの誰かさんが夜型になったら困るから行きません」
「だぁれ?夜型じゃないのって?」
くすくすと笑っていた。絵本を読むような口調。
「今は昼型だろ、エリィはどうだかしらないが」
「んんん、2回くらいは行こうー?」
「気分が乗ればな」
きゅ、と笑みを浮かべたサンジに肩を竦める。
まあ、ステイ先の部屋でどれくらい過ごしたいかにもよるよな。
「なぁなぁ?」
「ん?」
車は街並みを抜けて、郊外へ。
太陽が沈みかけているのを見ていたサンジが目線を投げかけてきていた。
「たのしみ、」
ふわんと笑ったサンジに、くす、と笑みを返す。
頭の中、クエナイオトナのどこか笑うようなトーンが蘇る。
『サウス行くならジャズの聖地に行きやがれ、ピアニスト』
『サウス?ニュー・オーリーンズか?』
『ああ。あの気だるい雰囲気はどうにもたまんねェよ』
にやりと笑う冴えたグリーンアイズ。
『で。泊まるなら赤の館へ行け』
『ハ?House of Red?』
『ヴァーミリオンっつー、コロニアル時代の馬鹿でかい屋敷をリノベートしてあるホテルだ。内装も外装と同じくらいに
時代錯誤で関心するぜ?』
『アンタを関心させられるくらいなんだから、そうとうすげェんだろうな』
『ああ。家具の揃え方なんか、参考になるぜ』
『そういやアンタ意外とアンティーク好きだもんな』
『ステンレスの机なんかで仕事ができるか』
弾除けにもならねェだろうが、と笑った赤い髪の悪魔は。
今日も飄々とビッグ・アップルに巣食う虫どもの統括に忙しいのかね。
黒い番犬と共に?
建物が消えていき。公園のような場所に出る。
脇を通っている1本の道を通り、木の植え込みの途切れた場所を曲がれば―――
「―――あ?あれ?」
ヨーロッパの“マンション”と呼ばれる館のように。
手入れされたグリーンの奥に、石造りの巨大な建物が見えてきた。
そこだけ、時代も空間も移動したように、圧倒的な雰囲気をかもし出している。
おりしも夕方、傾きかけた太陽が、オレンジの穏やかな光をその建物に投げかけていた。
神々しいというよりは―――
「まるで王族のサマーパレスだな」
ブルゥを煌かせて見入っているサンジに告げる。
「タイム・マシン、空間ごと」
にこお、とサンジが笑っていた。
時代錯誤どころのハナシじゃねェよ、シャンクス。
どこか溜息を吐きたいような気持ちで車を建物に向かって走らせる。
「落日が、似合いすぎ」
くすくす笑っているサンジを、片眉を引き上げてちらりと見遣った。
「内装も期待を裏切らないらしいぜ?」
「ほんとう?ますます楽しみだな」
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