タクシーから降りて、ホテルに戻る前と同じ場所に戻ってきた。
「あそこでいっか?」
「Fine with me,」
指差さす先は同じビーチフロントのバーで、名前は―――ああいうところにしては珍しく控えめな文字で書かれてる店名、
"La Playa Blanca"、拡がる光景そのままの名前、ホワイトサンド・ビーチ。
文句ないよ、とさらっと返されて、サングラスを見上げてみた。
「ん?」
「なかか、外かは入って決めよう」
どうした?と目線で言われてそう答えてから、道路をビーチに向かって渡った。

ビーチリゾートに似合うつくり、奥の方がオープンになっている。そのままオープンスペースが浜辺に繋がっていく。
ゆったりと横を歩いているゾロは、といえば。
そろそろ空はモーブに変わっていくのに相変わらずのサングラス着用。
少しだけバリ辺りの建物にありそうな広い石段を3段上がって、バーの広く開けられたエントランスに入ったら。
―――んん?まだ時間が早いのか、カウンタのお客がリクエストしたのか、スポーツチャンネルならまだわかるのに、
小振りな液晶テレビが何を映してたって、C-SPAN.うわあ、誰だよ、こんなところで政治チャンネル?

もうこれは、ビーチフロントの席に確定だ、と思っていたなら。
入口の女の子のスタッフが笑顔と一緒に、どこでもお好きなところへ?と言ってくれたのと同じタイミングでゼッタイ訊き
間違えの無い声が聞えてきちまった。
「――――わ、」
画面、確認すれば。――――――でた。
議会の外、グリーンの前で囲まれてるよ記者に。
わ……。紛れも無い、あれは、ウン―――。
「ゾ、アリステア、」
うう、と小声でウメイテカラ、少し離れたモニタを指差した。
「ああ、アレが?」
「Meet mine,」
うん、あれ。
そう返した。

カリフォル二ア州選出、ってことは一目で相変わらず認識されそうな。軽く日焼けをして、絵に描いたような端整振りは健在、
みたいだ。
「元気そうではいるみたいだ、張り切ってるよあの人、あの顔は」
テレビ用の顔、ってことは差し引いても。
「あんまり似てないな、ああけど」
「おれ、ハハオヤ似」
「なにかやらかそうとしている時の表情は同じだな」
流れるような口調で、記者たちに向かって「チャーミングな」笑みをヒトツ零してみせた顔をちらっと最後に視界に収めて、
ビーチフロントのテーブルに着いた。
テーブルに着いたゾロは、そんなことを言ってくっく、と小さく笑ってて。
「そーかなぁ?」
「ああ、」
「んー、まぁ、オヤコだしね」
テーブルに肘を着いて頬を支えた。

「あっちでなくてよかったのか?」
「うわ、なんで?」
「久しぶりに拝顔したんだろ?」
「ホームシックになって泣いて帰るぞー」
くすくす笑った。
すう、と。ゆっくりとゾロが笑みを浮かべて。
頬杖を外して、真面目にサングラスをだから少し近くで見詰めた。また、オプションだの何だの、あれは考えてる顔だから。
「おれはね?"いま、ここに"いる自分がイチバンしあわせなの、知ってるから」
微かな笑みがゾロから少し洩れ聞えて、掌が髪を滑っていった、さら、と。
オーケイ、グラサンはしてるんだね。

「じゃ、再会を祝してまずは何のもっか」
にこ、と笑いかけた。
「甘すぎない酒を選んでいいぞ、」
波音が声に混ざりこんでくる。
「あ、アリステア、あのさ?」
ひょい、とまたテーブルに肘を着いた。
「ん?」
「おまえが選んで?」
「オーライ、」
ジブンでオーダーするよりその方が面白そうだし、と笑みを刻んでみたなら、了承された。

チューブトップを着たバーメイドがフードメニュを持って来てくれて。
「当店はお料理も実は自慢なんです」
にこ、と笑顔つき。
「お勧めは、あそこのボードに書いてありますから。お決まりになったら呼んでくださいね」
日焼けしたブロンドを高くシニョンにして、ペンでそれを纏めてるのはご愛嬌?
アルコールは任せてるからボードの字を追いかけていたなら、スターターの他にも、下に書いてあるのはどうみても
グリルメニュウだった。BBQでもしてるのかな、浜辺で。
ますますビーチリゾートだね。
あ、オイスターも美味しそう。

じゃあ、まずはオイスターとクラムでも?エビはBBQしてもらった方が面白そうだし。
「決った?」
「シャンパン・パクトールでスタートはどうだ?」
「異議無し、任せて正解。他のもオネガイシマス」
バーメイドを呼んだ。
スターターとシャンパン・パクトールを頼んで。他にもいくつか彼女から「お勧め」を聞いてから追加した。
「ブルーラグーンの気分じゃなくなったんだ?」
カノジョがテーブルから離れてからゾロに言えば。
「あれはビーチパーティ向きだろ?」
に、と笑みを乗せて返された。

「ふーん?パーティ用に5分くれれば充分ヒト連れてこられるよ?」
ほら、とまだビーチの残っているヒトたちの遠い影を指差した。
「他人はいらない、」
肩を竦めていたゾロが。
「パーティにしたければ、ジェラールを誘ってるさ」
さらりと付け足していて。
「なぁるほど」
頷いた。
「たしかに、今日は知らない人とたくさん話した一日かもしれない」
片眉を引き上げたゾロが、
「一日にしては多すぎるかもな」
そう言葉にしていて、返事をするより先に戻ってきたカノジョが、音をさせずにテーブルにグラスを置いて、笑みをヒトツ。
それからまた別のテーブルにオーダを取りに行っていた。

「じゃ、忙しい1日に、」
グラスの足を持ち上げれば。
「オマエの素敵な両親に、」
ゾロの手に上げられたグラスに軽く縁をあわせるジェスチャ、そして。
「ピアニストとシンガーにも、」
付け足してから一口飲んだ。
く、と笑ったゾロがグラスの半分近くを煽って、中に残されたシャンパンが気泡を上らせていた。
「飲み比べ?」
「何と?」
に、とわらって同じように半分空にした。
「あ、おれとに決ってるじゃないか、」
そうしたなら。
「ああ、オレとは競うな。酒が不味くなるぞ」
そんなことを言ってゆっくりと笑みを浮かべていた。
まあ、確かに。負けは確定してそうな気がしなくも、ない。
そもそもー、勝てることって無いんじゃないかな?まあ、いいか、別に?

「それより、味わって飲んだ方がいい」
「じゃ、そうするけど。次は―?なに?」
とん、と。空にしたグラスをテーブルに置いた。
そろそろ、カノジョがスターターをもってやってくる頃だ。
「もしオマエが酔っ払っても、ちゃんとつれて帰ってあげるよ?」
「今度はオマエが選ぶ番かな?」
笑って肩を竦めたゾロが。
「Dare You(やってみろ)、」
「You dare?(言ったな?)」
にぃ、と。ゾロの口許に浮かんだ笑みは―――無視しよう。
あれは、「悪い笑み」ってヤツだ。

「おれはー、ファウストじゃないから誘惑されないぞ」
「へえ?」
ゾロのハナサキに人差し指を閃かせていたなら。
低い笑い声が耳に気持ち良かった。
「そう、それに。さっき次の分のオーダもオマエにおれ頼んでるし」
何を選んでくれますか?と行儀よく頼んでみた。
「ふン?」
「うん」

「アースシェイクとノックアウト、どっちで勝負かけたい?」
次に来るのは、オイスターだしなぁ。
ウィスキーはあまり得意じゃないんだけど―――うううん、
ベルモットとジンは―――あんまりあわないよなぁ、他のオーダーとも。うー。
ミントの味と、オイスターを考えてみて即効で却下した。
「ブラックベルベットに落ち着くか?」
わざと優しい声だな?これは。シャンパンとワインの淡いカクテルの名前をだしたかと思えば。
「それらはラストオーダーにしようか」
歌うように付け足してた。

「アースシェイクでいいよ」
ううー。
なんか既に負けてる気がする、って。そもそも勝負でもなんでもないんだけどなぁ。
「本当に?」
にっこり、と笑みが投げられて。
「うん、ほんとうに」
とすん、と受け止めた。掌の真ん中、イメージとしては。
「だから安心してへべれけになっていいよ?アリステア」




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