シャンパン・パクトールをスタートに、アースクェイク、ディアブロ、フィノ・マティーニと飲み継ぎ。
軽くオイスターやクラムやBBQチキンなどを摘みつつ、ドリンクのオーダは好き勝手に流れ始めた。

「レモンドロップ、」
ほろ酔いになったサンジが、ウェイトレスにオーダしていた。
オレに向かっては、しょーぶ!と笑っていた。
「甘いからオレは却下な」
「えええ?じゃあシュガーはしなくていいから」
そうウェイトレスに告げてから、そういやいつだか飲めない客に奢られた酒があったな、と思い出した。
「ウォッカ・アイスバーグならフェアだろ?」
ああ、けどレモンは美味いかもな、シーフードが揃っていることだし。
「んー、いいよぉ?」
ふわ、と微笑んだサンジに、肩を竦めた。

「両方、レモンドロップの1個は砂糖抜きで」
ウェイトレスが、大丈夫ですか?という視線で見遣ってきた。
「潰れたらちゃんと拾って帰るからお構いなく、」
「おれがね?責任もって連れてかえらら?」
「だそうだ、」
あれ、と首を傾けたサンジを指さして笑う。
「うん」
「料理も海老とロブスターを追加してくれると嬉しい」
にこお、と笑ったサンジが可愛かったのだろう、くすっと笑ったウェイトレスがオーダを伝えに戻っていった。
サンジは微かに手許が覚束無い様子のまま、オイスターにレモンを絞って食べていた。
ミルク色の柔らかな肉が口に消えていくのを見守る。

す、と見遣った先、見事な夕焼け。
サングラスを外して、海を見た。
旅に出て何回目の夕日だろうか、一緒に一日が終わるのを見届けるのは。
ごくんと飲み込んだサンジが、つられて視線を海に遣っていた。
「壮大なスケールだよな、」
笑いかけてから、オイスターを摘んだ。
「境目の色が溶け合ってて見えないくらいだ、」
じぃっと海を見詰めていたブルゥが、合わせられた。

「あ、」
レモンを差し出されたから、殻ごとオイスターを差し出した。
「サンクス、」
「どういたしまして、」
軽く殻でトーストの代わりに掲げてから、ふにゃんと笑ったサンジから目線を外して柔らかな身を口の中に滑り落とさせた。
「日本酒も美味いよな、」
飲み込んでから言って見上げれば、夕日に照らされたサンジが頬をほんのりと染めていた。

「そうだ、」
ぽけ、とした口調でサンジが言った。
「て、あらってくる、」
「転ぶなよ、」
「だぁいじょうぶだよぉ?」
すい、と立ち上がってはいたが、ふんわりと笑った風情は残ったまま。
「青痣作ったら突付いて苛めてやる、」
にっこりと笑って手を振った。
サンジは店内のバスルームではなく、ビーチの方に下りていっていた。
ああ、ビーチの客の為の水道を利用するのか。
少し離れていったサンジの背中に声をかける。
「水被るなよ、」

「しな――――い、かも?」
ひゃは、と笑ってサンジが答えた。
「濡れたら歩きだぞ、帰り」
随分と増えた客が何人か笑いながらこちらの会話に耳を立てているのを感じる。
「そしたら、泳ぐもん」
「阿呆、どこまで帰るつもりだよ、」
ふにゃあ、と笑ったサンジに苦笑する。
ウェイトレスがくすくすと笑いながらテーブルをクリアし、オーダしたフードを持ってきてくれた。
ドリンクはもう少しかかるらしい。

ボタンを覚束無い手付きで外し、肘までシャツの袖をまくって盛大に手を洗っていた。
猫のクセに水好きだよな、本当に。
サンジより少し年下らしい水着のオンナノコに、「あ、ちょっと先に借りてます、」と言っているのが見えた。
ふにゃりとゴキゲンな様子に、オンナノコも至ってにこやかに、どうぞ、と返していた。

「ああ、やば。忘れた」
くるん、とサンジが顔を上げた。
なんだよ、と目線で返す―――見えてるのかは疑問だが。
「カノジョにタオル借りてもいいかなぁ?」
オンナノコが、使う?と言いながらタオルを差し出していた。
肩を竦めた、ベツにノーと言うこともないだろ?そんな意味を込めて。
「ありがとう、」
ふんわりとサンジが笑い、どういたしまして、とオンナノコも笑っていた。タオルは結局借りたらしい。

にこにこと帰ってきたサンジが、砂、きもちいいよ?と言っていた。
「なら帰りは歩いてかえるか。そんなに距離はないしな、」
「ほら、手も」
サンジがテーブルに着くのと同時に、レモンドロップとウォッカアイスバーグの2種類、計4つのグラスが置かれた。
ぺと、とサンジが一瞬頬に指先を当ててきて。冷たかったそれは直ぐに火照っているようだった。
「ああ、少し冷えたか?」
笑ってショットグラスを揺らした。
先に飲むならレモン・ドロップだろ?
にこ、と笑ったサンジが、うん、と頷き。親指と人差し指をぺろりと舐めていた。
砂糖の皿に指先を付けてから、
「おまえはワンテンポ待ってくれないと駄目だよ?」
ふわりと笑っていた。
「Sure,」
いいぞ、と返す。

ぺろりとサンジが砂糖のついた指を引き上げ舐めてからショットグラスを呷って空にし、それからレモンを一齧りしていた。
きゅう、と目を閉じ、甘さと酸味とアルコールが喉を焼くのを一緒くたに味わっているらしい。
隣のテーブル3つから拍手が飛んできていた。
苦笑する、見てるなよ、暇人どもめ。
ぱ、とブルゥが覗き。
「リピート?」
目線を合わせてきたサンジがにっこりと笑った。ウェイトレスに合図する。
「すっぱい、でも美味しいー」

「アイスバーグに手を出す前に何か食えよ、」
苦笑してから、レモンを手に取った。
「オレの番な?」
「んん」
きゅ、とレモンを口の中へダイレクトに絞りいれてから、ショットグラスを呷って一気にウォッカを流し込んだ。
コン、とショットグラスをテーブルに置けば、サンジがきらきらと目を煌かせていた。
「わお、」
きゅう、と目元を細めたサンジに笑う。

「アリステア、そこにある赤いのだれ、」
「"セバスティアン"」
ほろ酔いで訊いてきたサンジに答えて、両方のハサミを上に上げさせた。
「ヘイ、バスティアン」
「"オレを食っちまうのかよ?"」
にこお、と笑ったサンジに軽く軽口を叩いてからプレートごと差し出す。
「なんなら頭から食え、」
軽い冗談。

「ええっと、映画の人魚、誰だっけ。ロブスターを丸ごと齧った……あああ、マディソン。ムカシの映画だけど、観たことある?」
「"If you wanna know if he loves me so, it's in his kiss"?」
映画で歌われていた曲を一説歌った。
適度に雑な仕種で爪をベシ、とナイフと手で開いていたサンジが、ぱっと顔を上げていた。
にこお、と"天使の笑顔"を満面に浮かべ、
「パーフェクト…!」
そう言ってから、フィンガーボウルで手を洗い。次のショットを空にしていっていた。
ヨッパライ、確定だな?




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