「―――――あれ…?」
ふ、とゾロを見詰めた。
「ありすてぁー…?」
あれ?グリーンがキラキラしてるのは―――気のせいかなぁ。
「なンだよ?」
柔らかな声が耳を擽っていった。
「キラキラしてるねぇ」
「はン?」
「ヴェルデ、」
緑、と言った。
「ライティングのせいじゃないのか?」
いつから、この翠。直に見詰めてたんだろ?
テーブルのライトも、潮風にちらちら揺れていて。
浮き上がって見えるホワイトサンドの向こう、波頭だけが白い波打ち際にも、おなじように―――

「それは、なん?」
すい、とゾロの手元に眼をやった。
色はウィスキーみたいだなあ。
から、と崩れた氷が美味しそうな音を立ててる。
「グレンユーリー・ロイヤル。レアモノだな」
「すき?」
「ああ、美味いよ」
「チャレンジした方がいい味?」
「シングルモルトが苦手なら止めておいたほうがいい」
「ううん、ヴァッカスへのぼーとくになっちゃうかぁ、」
「だな」

美味しいのなら、美味しいと思われるヒトのところへ行くべきだネ、みたいなことを言った、と思う。
はずなんだけど、ゾロの柔らかい、低い笑い声が聞えるのはナンデだ?
「じゃあ、おれは、」
すい、と波音に耳を傾けた。
「ん?珈琲にしとくか?」
「んーん、」
宥めるような声に首を横に振った。
「おまえが決めて、」
「酒でノックアウトされたいのか、それともホテルまで歩いて帰りたいかにもよるな」
潮風がまたオープンな場所だから吹き込んできた。
「ノックアウトはされないから、だぁいじょうぶ、」
ほら、ちゃんとしてるよ?と。
適当に浮かんだ歌詞、ゾロがたまに口ずさんでいるのと同じものをすこしだけ歌ってみた。
「な?」

「ウィスキーが苦手なら、ウィスキーベースのヤツをトライするか?ヘァ・オヴ・ザ・ドッグとか、」
「あまいのは、ちょっといいや」
「辛いほうが?」
「んー、」
また、笑みが零れていった。グリーンが、ライトを受けてきれいだし。
「あ、でも、」
「うん?」
「キス・ザ・ボーイ・グッドバイ、とか。選んだら泳いでくから、ホテルまで」
に、と。わらったつもりでもきっとふにゃけてるんだな、多分。

「じゃあ時間もいい頃合だし、ミッドナイトでも?」
くう、と。ゾロの口許に笑みが刻まれていった。
「ディア、マイ、ブラザ、何時間ここにいたんだろ?」
片手を差し上げてみた、バーメイドに。
「5時間程?」
「そんなに?」
「そんなに」
「6タス5は、12?」
あれ??

くく、とまた笑い声。それから、カラン、と。グラスが氷にあたり涼しい音がしていた。
「氷、だけ。ほしいかも」
「歩いて帰って向こうに着く頃にはいい時間だろ、」
「うん、」
すい、とやってきたカノジョに、
「ラストオーダ、ミッドナイトカクテルと、あと、」
帰るときに何か冷たいものテイクアウトしていきたいのでよろしくおねがいします、と頼んでみた。
「With Bubble?」
炭酸で?と訊くから、ウン、と答えておいた。

カノジョが、ゾロに眼をあわせて。
「奥でバーテンダがビックリしてました」
そう言ってわらっていた。
「ツレがまだ"生きている"ことに?それともオレに?」
「お二人に!あとは、私、マネージャから今日は日給をたくさんもらえそう」
笑っているゾロにナイショ話を打ち明けるみたいにして、おれにも眼をにこお、とあわせてきてた。
「なんで?」
「まだ木曜日なのにこのとおり満員御礼、アリガトウゴザイマシタ」
ひらひら、っと手を振って。カノジョがいなくなって。
「なんでお礼?」

ホワイトサンドの上にもそういえばテーブルが出てるけど。―――いつのまに?
クック、と。肩を揺らすようにしてわらっていたゾロがおれに眼をあわせてきて。
「さあ、なんでだろうな?」
にや、と。唇を引き上げてみせた。
「あーあ、おれが潰れるとでも思ってたのかなぁ、だからお客さんみんな帰らなかったとかー」
おまえに賭けてたのかもねえ?
水のグラスを飲み干して、とん、とテーブルに置いた。
―――おも、グラス。

「いきてますよう、だ」
小声で言ってみる。
「半分浮きかけだけどナ」
「それは、おまえのマジック、」
にこお、と。
勝手に笑みが零れてく。
「アルコールはブースタ?」
すい、と浮かんだ笑みが優しい。
空気がふわりと柔らかになる、回りの。
「そう、」
ただのキッカケ。

ミッドナイトが、テーブルにまた置かれて。
グラスの足が酷く華奢なのにまたわらった。ビーチフロントのバーにあるよりは、ホテルのラウンジにでもありそうなタイプ。
「これを飲んだら、帰る?」
「ああ。チビが泣いて待ってる頃だろ、」
「言い聞かせてある、賄賂もたんまり」
「睨まれるのはオレだよいつも、」
抑えた笑い声がまた気分をよくして。
「そーんなこと、ないよぉ?」
冷たい、冴えた甘味を味わった。
肩を竦めてたゾロに言ってみる。
「だってさ?」
「んー?」
「でるときにね、ティビーをフルカラーで1匹ずつね、」
ベッドの上に並べておいたんだ、だからきっといまごろ、テイビーパーティ。

「マジかよ、」
「マジだぜー」
くっく、とわらうゾロに同じ口調で返した。
カクテルを飲み干して、ゾロに眼をあわせた。
「鼠の干物を夜食にってか?」
「ネックレスを明日つくってあげにゃきゃにゃん」
怪しい語尾にジブンでわらった。
「ネックレスやめて腰蓑にしちまえ。フラ踊るかもしれないぜ、」
「にゃんですとぉ?それは怒るにゃん」
とん、と額を軽く小突かれて、けらけらわらった。

「おいしかった、ごちそうさ、ま」
語尾を直して、とん、と手をあわせた。
「よく食ったな、」
「ありーすてあ、おさんぽ行こう、つれてけー?」
うん、いただきました、と答えてから付け足した。
「このまま帰って寝たらすげェカロリィだしな。いいぜ?」
「他にも消費しようよう、寝るだけなんてアリエナイって」
すい、と指先でバーメイドを呼んでるゾロに言った。
「帰り着いてオマエがまだ生きてたらな、」
「9つイノチもってるもん」




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