さらっとソープの泡を落として、バスから出て行ったなら。ふわりとアロマが漂ってた。
―――コーヒー?
ふぅん……?ゾロも、少しはアルコォルに酔ったのかなぁ?
バーメイドの子がわらって言った言葉の切れ端、おれが生きててビックリで、ゾロが素面でまたビックリ、だっけ?
あれ?少し違うか…?

リヴィングを覗けば。
ふわ、とまた一層。コーヒーのアロマが強くなって。
3人掛けのソファ、その真ん中寄りに座って。
ウッドキャビネットの扉が開けられて、光が窓に映ってた。
リフレクション、見慣れたブロードキャスター。
低くされた音が流れていた。そうだよね、MTVとか眺めてたらかえって驚くヨ。

カップは、ヒトツだ。
する、と。その隣に座った。
「オカエリ、」
ふわ、と齎された笑みが少し優しいソレに変わっていた。
「うん、」
じい、と見詰めてから。同じように微笑んだ。
「頭すっきりしたか?」
左側のサイド、カップをもつ手の邪魔にならないように身体を少し預けた。
「ほぼ、いつもどおりのはず、なんだけど」
「ふン?」
リネンの感触がキモチイイ。
「まだ酔っ払いにみえる?」

「さっきよりはマシか」
に、と笑うゾロに。
「かーわいかったろ、」
軽口で返して。
オマエも飲むか、とコーヒーメーカを指すゾロに首を横に振った。
「酔っ払いだったな、」
「嫌われなくてよかったー」
くす、っと笑いが零されてから、ゾロの指が髪を梳いていった。
「乾いてないぞ」
叱る口調に眼を上げれば、笑みを過ぎらせたグリーンとぶつかった。
「怒られても、恐くないヨ?」
にっこり、と笑みを刻んでみせてから、とん、と肩に額を預けた。

「オマエを怒ったことなどあったっけな?」
くく、っと笑い混じりで告げてくる声が柔らかで。
「風邪引くぞ、」
「ひきません、」
く、と。ゾロに両腕を回した。
「引いたらどうする?」
グリーンが、面白がっているみたいに煌めいて。
「言うこときくよ?おまえの」
キカナイデ風邪ひいたんならね、とわらった。
「へぇ、」
「うん」

「ちなみに、朝にはフロリダを出発するつもりだということは言ってあるよな?」
「午後にチェックアウトなのに?」
肩に腕をかけてから、ゾロのグリーンを見上げた。
「あまり長く居たくない。フォトジェニック・ベイビィが撮られちまったからな、」
「いつ?」
気付かなかったよ、おれ?
「アシカのダーリンと浮気中に」
「スキッパーのファン、たくさんいるんだってさ」
「オマエのファンになったやつも急ごしらえでいるだろ、」
「いないいない、」
わらって、まわした腕に少し身体を添わせた。
「フレドリック?」
「特殊な趣味なんだよ、初恋のヒト似だってさ?おれ」

ゾロが腕を伸ばして、カップを横に置いていた。
「まあ言い訳はなんとでも?」
「いいわけ?なんの?」
喉奥で笑って。
「デートに誘う」
さら、と。背中を掌で撫でられて。少し水気を含んだ生地越し。
「そんなもん?」
首に両腕を回して。ゆっくりとゾロを抱きしめてみた。
幸福な気分を、ちゃんと分けたかったからさ?あの時の水の中の。
「そう、"そんなもん"」
穏やかな、笑みを含んだ声がほんとうに気持ちよく響いてきて。
「おれ、イルカセラピーいらない、おまえの方がいい」
頬に少し額を寄せるようにした。

「イルカよりオレの方がいいっていうオマエがいるなら、世の中にアシカのプリンスよりオマエの方がイイってヤツもいるに
決まってるだろ?」
髪をさらさらと撫でられて、ふわり、と地面に戻りかけてたのにまた半歩浮く気がする。
「他人はしらないよ、おれはゾロがいい」
きゅう、と抱きしめて。
掌に髪を滑らせていくリズムと、その質感がひどく気持ちよくて。
言葉に出さずに、口付けた。
ほんとうに、だれより。すきだよ、と。




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