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 金色がドアからするりと抜けていくのを見送った。
 ヒップハングのデストロイドジーンズは適度に色落ちしており、膝と腿とヒップポケットの下が白っぽいふわふわとした
 ファーのようになっていた。カットされて解された後。
 7分袖のブルーのストライプシャツでも隠せない位置にあるあの穴を、後でどうやって弄ってやろうか?
 ぱたぱたとレザーサンダルを鳴らしながら、サンジが遠のいていく。
 あの茶色い、少し太めの皮ベルトで締めさせてもなァ…?
 
 サンジの分のサングラスと鍵を持って、部屋を出た。
 エレヴェータで捕まえてやろうか、と考えて。
 苛めすぎると泣くからなあ、と自分を戒める。
 ホールでボーイに挨拶し。
 幸い一人だけで他に乗り込む人間の無かった箱でグランドフロアまで下りた。
 
 ドアがスライドして開く先から、華やいだ雰囲気が伝わってくる―――“ベイビィ・イフェクト”。
 ロビーの少し端っこのところで、座らずに立って待っているみたいだ。
 近寄り、サンジにサングラスを手渡す。
 どこか表情を失くして“キレイな存在”だったサンジが、華やかに笑顔を綻ばせていた。
 どよめく周囲は、放置するしかないだろう。
 
 「外はもう眩しいぞ、」
 「ん」
 にこ、としてサングラスをかけたサンジに見惚れずに、車を出しに鍵を預かっていったベルボーイは偉い。
 「あ、これはおれの好きなヤツ」
 「はン?ああ…そのサングラスか」
 「ウン」
 スクエアのグラス越しに見上げてきたサンジの髪を整えてやる。
 とん、と“秘書らしく”少しテンプルを引き上げていたのに口端を引き上げ。それから見慣れたレンジローヴァがロータリに
 回されたのを見遣る。
 “秘書”と“ディレクタ”?
 なんてイメージプレイだ。今時テレビドラマの中でも見かけないようなカップリングだぞ?
 
 くくっと笑いながら、サンジの肩を押してホテルのエントランスを出る。
 ドアを開けてくれたベルボーイが、良い一日をウェルキンス様、と声をかけてきたのに手を振った。
 どういうわけだか、サンジと連れ立って歩くと名前を覚えられて仕方が無い―――それが連中の仕事なんだしな。
 
 車を回しておいてくれたボーイが、サンジの為に助手席を開ければ。
 「今日も暑くなるそうですね、」
 そういってサンジがにこ、と笑っていた。
 お?赤くなりやがった。ま、仕方ないか。
 する、と紙幣を一枚ポケットから抜き、差し出す。
 「帰ってきたらよろしくな、」
 にぃ、と口端を引き上げて、運転席に回る。
 サンジと同じ年くらいのベルボーイが、こくこく、と頷いていた。
 エレガンスはどこだ、坊や?
 
 窓を全開にして、車を走り出させる。
 朝一でマップを頭に叩き込んでおいたから、ナビは必要無い。
 ビーチリゾートではあっても、7月では道は10時前でも混まない。
 「名前の通りだ、ほんとうに、フロント・ビーチ・ロード、」
 海が目の前だね、と喜んでいるサンジに、ステレオをつけてやる。
 ラジオ。かかった曲は、Surf in USA―――オイ、ビーチ・ボーイズかよ。
 「うーわ、」
 サンジが思わずステレオを見詰めていた。
 「昨日のハワイアンといい、“ビーチ・リゾート”的デフォルト・イメージは覆されないらしいなぁ?」
 「お年より、多いのかなあ?」
 フェリーの中の光景を思い出す。
 「……水族館に年寄りばかり集っているとは思いたくないな、」
 行き先を考えて、苦笑する。
 サンジがけらけらと機嫌良さそうに笑い。
 そのまままっすぐ、Gulf World Marine Parkへと車を向けた。
 
 9時からオープンの水族館は、季節的に駐車場が満員ということはなかった。
 警備員の案内に従って、車をスペースに停める。
 「Ready to have fun?」
 遊ぶ用意はいいか?とサンジに訊けば。
 「I used to be called a "Party Monster"」
 パーティモンスタって言われてたんだゾ?とにかっと笑っていた。
 「オーライ、じゃあ行こうか」
 とん、と口付けきたサンジの髪を撫でてから、車を降りる。
 サンジもすい、と降りていって。ドアをロックして、状態を確かめておく。
 周囲5台と向かい3台の車のナンバを一応記憶に留めておきながら、既に人が吸い込まれていっているエントランスに向かう。
 
 「ずいぶん、大きいね」
 $19.51プラス税x2でオトナ合計$40を支払い、軽やかな口調と足取りでいるサンジを促して建物の中に入る。
 「そうなのか?こんなもんじゃないのか?」
 「もっと小さいかと思ったよ、ほらフロリダって水族館やたらあるし?」
 うきうきとした子供連れの多い中、オトコ二人で訪れるのは随分と浮いているらしい。
 まあそれも今更の自覚だけどな。
 にこ、と笑ってサンジがサングラスを取っていた。
 「失くすなよ?」
 笑って頭をとす、と撫でてやる。
 「ポケット付き、」
 とす、と胸ポケットに仕舞っていた。
 オーライ、と笑って肩を竦める。
 「で、どっから征服するんだ?」
 
 
 
 
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