ウツボを軽くからかってからやってきたペンギン・アイランドは。
アフリカン・ブラックフッティッド・ペンギン(ケープペンギン)が見物、らしい。
大きな浮島に皇帝ペンギンやら王様ペンギンやら岩飛ペンギンやらマカロニペンギンやら、見た目にはブラックフッティッドと
さほど違いのなさそうなフンボルトペンギンやらが。
わらわらわらわら、群れを成していやがった。
ぎゃあぎゃあ、と。見た目以上に鳥らしく。どこか獰猛そうだ。
サンジがひゃは!と笑っていた。
「獰猛!」
「…喜ぶことだったか?」
「嫌いじゃないヨ…?」
だぱん、と連中が水中で泳ぐ姿が見えるようになっている水槽から視線を上げれば、サンジがにぃ、っと笑っていた。
「連中と目を合わせるなよ。アクリル越しに蹴り入れてきやがるぜ?」
デビリッシュ・ベイビィはご満悦、ってか?
「あの足掻きっぷりは見事、」
ペンギンが一羽――― 一羽でいいのか?―――が水中に潜ろうと脚をバタバタさせているのを見て笑っていた。
するん、とそいつはサイドから転がり落ち、あっという間に水中の中を格段のスピードの差で泳ぎ出す。
「ここのペンギンはみんなオーヴァウェイトだな」
すい、とでっぷりと腹の突き出た固体を指さす。
「イワシがきっと美味しいんだよ」
あん、と口を開けたサンジを隣の親子連れの父親がぽかんと見ていた。
「生魚食うか?」
に、と笑って髪を撫でてやる。
「スキダヨ?」
父親が慌てて視線を逸らせていた。
ふン。
「後でイルカと一緒に食わせてもらえ」
にやりと笑って更にサンジの髪をくしゃくしゃと掻き混ぜてやった。
「餌付けされてもいいんだ?」
「毎日イワシでいいのか?」
きゅう、と目を細め。ブルゥを輝かせていたサンジに、にぃ、と笑う。
「ワインはつかないぞ、多分」
「むう、アバロニ貰えてもそれは困る」
前方、柵から内を覗き込んでいたカップル連れの男が、恋人に引き摺られていっていた。
ご愁傷様、まだまだ経験値が足りないな。
「鮑なんか食わせる水族館なんか無ェだろ、」
笑ってサンジの背中を押す。
「上手くトリックが出来たらアリかもしれないぞー?」
すう、とコケティッシュにサンジが笑い。
「たまにローストが食いたくなったらどうするんだ?太陽の下、コンクリの上で石焼きか?」
にぃ、と口端を引き上げる。
「そう、ぴーぴー言って頼むんだ」
くくっと笑ったサンジの脇をトンと肘で突付く。
「Pleaaaaase?」
オネガアァイ…?と無意識に甘みと色気を増した声でサンジが言い。
一瞬にして回りの半径1・5メートル内にいた6歳児から60過の老人までこちらに意識を集中させたのが解る。
相変わらず自覚ナシなサンジは、けろりとしたままで。
「アツイのも欲しいよぉ、ってね?」
けれどまだ声を甘く蕩けさせたまま囁くように言っていた。
無自覚に“誘って”いるサンジの額を、とつ、と指で突付く。
「猫舌が何を言う」
「―――ん?そう…?」
「そう。この間も入れたての珈琲飲んで火傷してただろうが」
ぺろ、と僅かに舌を覗かせたサンジに苦笑する。
コラコラ、そこら辺りにしとけよ?じゃないと―――
「うわ、なに逆上せてンのよバカじゃないのアンタ信じられないッ」
ほーら居た、鼻血オトコ。
かわいそうにな?それが元でフラレルなよ?
サンジは構わずに、
「あれは、カップが熱くなってたんだよ、」
そう舌をひらめかせて言っていた。
足早にこの場を立ち去る客が数名。
マジマジと見詰めてくる無遠慮なのが7人。
「…そろそろ時間か?」
すい、と時計を見る振り。
ああ、少し早いが、まだこの場所に留まるよりはいいだろう。
「あ、」
にこお、とサンジが笑っていた。
「デェトの時間だね」
「ああ、楽しんで来い。初めての経験じゃないんだろ?」
サンジを促しながら、ペンギンのエリアをゆっくりと抜ける。
「飼われたコたちは―――あぁ、ハワイでなら。あとはみんな野生の彼ら」
クルーザの後、付いてくるだろ?そんな連中とならね、何度か。
そういってにこにこと笑うサンジの発言に。
明らかに6名ほどがほっとしているのが解った。
「溺れるなよ?」
笑って軽口を叩く。
「水には溺れません」
ふ、と微笑んだサンジに見蕩れた、対向から来ていたガキが。
前を歩いていた父親の背中にべったりとアイスクリィムをぶつけたのが見えた。
いくつかの罵倒用語が聞こえ―――――。
「あー…まあ。無事に帰って来い」
「来ないの、おまえ?」
苦笑して、首を傾けたサンジの髪を撫でる。
「悉く修羅場になりそうでな。遠慮しておくよ」
野生味の抜けない連中とは、どうにも相性が悪い。
「プールのとこにはいンの?」
きらきらとブルゥを煌かせながら言ったサンジに頷く。
「一応見ているさ」
に、と笑う。
「そういう“約束”だろ?」
next
back
|