そして天上から続くガラス窓からフロリダのコーストラインが一望できるカフェに着いて。
セルフサーヴィスじゃなくてちゃんとウェイトレス付きだったけど。
どうだろう、コーヒーは。不味いコーヒーマニアのお眼がねに叶うか?

「少し何か食べようかな、エネルギィ使ったー」
窓際の席に案内されて、海のイラストが描かれたメニュウを開いた。
大きな我らがプリンセスは、イスを1つちゃんと使用。
「ついでだからランチも済ませちまうか?」
「んー、」
「不味かったら笑えるけどな、」
ゾロに目線をあわせた。
「なあ?」
期待はしないでおこうな、と言っていたゾロに訊いてみる。
「水族館で、魚介類メニューが豊富ってなんだかこう、微妙な気分にならない?」
「新鮮ピチピチが期待できるかもしれないぞ?」
でも、決めた。フィッシュ・アンド・チップス!と答えに笑って告げた。

オーダには、トウゼンの如くコーヒーが含まれていて。注文をとりにきたウェイトレスが、プリンセスがきちんと座らされて
いるのをみて笑いながらまた戻っていっていた。
「お水は三つね?」
ってセリフ付き。

最初に持って来てもらうように頼んだアイスティーを飲みながら、またゾロに目線を投げれば。
妙に真面目な顔でアイスカフェラテを飲んでいて、グラス付き。
「アリステアー」
「んー?」
当たって砕けろ?フン。
「眼、見せて欲しいよ?」

く、と低い笑い声と一緒に口許にも笑みが浮かべられて。
「確かにメシ食ってる時は失礼だよな?」
グリーンが現れて、グラスはプリンセスのまん丸目を覆っていった。
「わ、」
キレのいいラインのサングラスをしたイルカ?

そのまま、形の良い手がプリンセスを少し揺らして。
「“まぁ、いきなり真っ暗!どうなってるの、助けてちょうだい!!おかあさま!”」
低い、甘い声、とてもじゃないけどイルカのプリンセスの声帯からは出てこないぞ、それ?
きゅ、と目元で微笑む。
「せめて、“おにーさま”じゃないか」
同じように潜めた声で返す。
「“まあ!お父様はいらっしゃらないの?”」
く、く、と。迫真の演技でプリンセスが上体を揺らして。
「アリーステァ、」
くく、と溜まらずに笑い声を殺しきれなくなった。
「オレに父親になれとか言うなよ?」
「一児のチチも2児のチチも一緒じゃないかと思われますが?」
オーダしたプレートを食べ始めたゾロに返した。

ヴィネガに揚げたてのホワイトフィッシュの切り身を付けて、一口。
「母親をどちらも知らないんだがな?」
「―――あっち!」
「ああ、ほら。気をつけろ、」
「…ちょっと焼けたかも」
アイスティーのグラスに直に唇を当てた。
苦笑したゾロが差し出してくれたペーパータオルを受け取りながら。
「焼けた鮑どころの話じゃないな、」
「それは、欲しい、アリステァ、な?」
ケチャップが染みるぞ、とどこか楽しげに言うゾロに、少しばかり冗談めいた甘え口調でオネガイしてみた。
「もう、治ったし、ほら」
ぱく、と二口目を頬張って。
でもそのまえに、たっぷりヴィネガに浸けたけど。

そうしたなら、すい、と差し出された。ケチャップ付き。
フォークを引き取ろうとしたなら
グリーンが笑みを過ぎらせていった。
「貰っちゃうヨ?」
「Go right ahead」
ドウゾ、とまたどこか甘い声。
ぱく、と一口で「貰った」。―――あぁ、意外と美味しいね。
「アリガトウ、」
「どういたしまして」

「で、姫のおかあさまは行方不明なんだって?」
なんだか一瞬、周りが騒然となったけど、―――まぁいいや。窓の外になにかが飛んだりしたのかもね。
「“そのことはもうかまいませんわ。フォスタファミリができましたし、”」
「おそろしい兄がおりますので気をつけてくださいね」
エリィソン、ともうします、と。
バカな話をしながら、ランチを終えて。
「ゴチソウ様でした」
アイスティーも飲みきった。

「でも、驚いた、おまえの方がアクタになれるね?」
ゾロにわらって、プリンセスの額をつついた。
「なりたくはないけどな、」
「観られるの、嫌いだもんね」
くう、とまた笑みが口許に刻まれた。
演技、それも必要な手段だったかもしれないことは、何となく感じたけれども。
冗談の範囲で留めておいた。

下からわざと見上げるようにした。
「勿体ないねェ……!才能あるのに」
「日々発揮させていただいておりますとも、」
く、とわらって。ゾロの手首をみて思い出した。
「ん、あと時計。ごめんネ、預かってもらいっぱなしだった。どうも手首が落ち着かないと思ってたんだ、」
笑みと一緒に促がされて、手を伸ばした。

わ。
渡してもらうだけでよかったのに、ポケットから出したそれをそのまま腕に嵌めてくれているゾロを思わず見遣った。
「アリステアー?」
「ん?」
「さっきからばっしばっし目線が当たっておれ顔半分痛いンだけど」
しゃら、と。聞き慣れた音を立ててすべる時計を半分見下ろして言えば、テーブルに支払額を置きながら、プリンセスからすい、
と取り上げたグラスを掛けなおしていたゾロが。
「サングラスをどうぞ、プリンス?」
そんなセリフを寄越してから、プリンセスをまた片腕に抱き上げていた。
「そういう問題なのかな、これ?」
大いにギモンだぞ。

そのままテーブルを立って長い歩幅でそれでもプリンスを連れた曲者は歩いていって。
振り向き様に、にぃ、と。
完全に「悪いオトナ」の笑みまでご丁寧に乗せてくれた。
ランチタイムのカフェで、お客さんは大喜びだ?
チェックを取りにきたウェトレスも、「ほらほら急がないと」
そんなことを言っておれの目の前で手をひらひらさせてたし。
「あぁ、こんどは置いていかれますねイルカ姫に」
笑みで返して席を立った。

遅れてカフェを出れば、アトリウムみたいに広いスペースでしっかり際立ったシルエットの二人連れがいて。
「“はやくはやく〜〜”」
イルカ姫がまた肩の上から空中を泳いで。
軽く振り向いたサングラスの「曲者」が、ゆっくりと笑みを口許に乗せていた。

サングラスをアタマの方へ押し上げて、追いついた。
「あのさ、」
プリンセスを抱えたサイドのほうから見上げる。
「なんだよ?」
笑みと一緒に返される。
「アシカと間接キスする?」
ちゅ、と。キスの音だけを渡した。
「―――遠慮いたします、」
「ああああ、ひっでー」
にやり、と笑みを戻されて心臓を抑えて見せた。
「“だって生臭いんですもの”」
真顔、そしてプリンセスが「優雅に」身体を揺らした。

「アナタの愛でアシカも王子に変わるのに、」
な?と微笑んでゾロを見上げれば。
「間接、なんだろ?」
「愛の使者を掴まえて何を仰いますやら」
く、と笑ったゾロを見上げた。
「そしてオマエは3児のチチだ?」
「ジョウダンだろ?未婚だぜ?」
「ハードライフ」
にや、と笑みを浮かべたゾロに同じように返した。
人生は厳しい、と。

そして、
「ウソだよ、」
笑みに乗せて言った。
光に充ちてて幸せ、と。




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