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 マスターベッドルームに、サブベッドルーム。
 どちらも天蓋つきのベッドが真紅の深いカーペットの中に居座っていた。
 マホガニーレッドのウッドは、どうみても年代モノだが、よく磨かれているのは反射の仕方で解る。
 それをみてサンジが明るく笑っていた。
 
 「エリィが登ったら笑えないな」
 ゴールドの房を見上げて言えば。
 「ポストでコドモの頃、アタマ打ったんだ、」
 そう言ってベッドポストを指さしていた。
 「いい思い出だな、ベイビィ?」
 
 笑ってぐるりと室内を見回す。
 エンクレイヴされた壁のデザインと、周りに置かれた家具がどこかミュージアムにでもいるような気分にさせてくれる。
 テーブルの上にはアンティークランプ。
 マントルピースの上には、盛られた薔薇。そして大きな鏡。
 「……すげェな、」
 こういうものを作り上げる職人がいたということ、それだけでもスゴい。
 
 サンジがにこおと笑った。
 窓を指さして言う。
 「窓ガラス、あれ。古いままだネ、光が歪んで入ってくる」
 「気泡も入ってンだろうな。よく保ったもんだ」
 「ここまでクラシックだと気持ち良いね」
 にこやかに言うサンジを促して、バスルーム。
 タイルに、白いバスタブ、しかも猫足ではなくまっすぐな足が生え、取っ手は金。
 パウダールームは、洗面台の上に特大の鏡があった。
 
 「ゾォロ?朝からバブルバスでシャンパン飲もう」
 けらけらサンジが笑っていた。
 「ジャグージィなら考えたな」
 に、と笑って促して出る。
 トイレは…ああ、やっぱり、ゴージャス使用ってか。
 棚も確認。
 
 リヴィングに戻ってから、次いで奥のダイニングへ。
 「キッチンがあるな」
 「あ、じゃあこの前の約束、」
 すい、と指さす。巨大な“プロ”用のシステムキッチン。
 道具も一通り揃えられて…あああ、あった。棚にきれいに並べられてやがる。
 「遂行する?」
 くい、と見上げてきたサンジを見詰める。
 「オマエがトムヤンクン作るってやつ?」
 ん?と首を傾けたサンジと一緒にビバレッジの入った冷蔵庫を覗く。
 ああ、材料は買って来い、ってことか。
 
 「そう、あとピッツァ、」
 「あーあ」
 そうだな、と笑った。
 「シカゴ・スタイル」
 ガスオーヴンの中を覗く。
 「上手く焼けそうだしな、これなら」
 「あ。しんよーしてないなぁ?」
 「はン?なにを?」
 「おれの腕ー」
 機嫌の良さそうなサンジを促して、なんと書斎へ。
 ひらひら、とサンジが手を揺らしていた。
 
 「あ、ショック」
 「はン?」
 サンジの声がシリアスになった。
 「いまさら疑うわけないだろうが」
 くしゃ、と金色を掻き混ぜれば、
 「おまえのこと、この部屋と取り合い?おれ」
 そう言って、ブリティッシュスタイルでウッドの梯子までかかっている書架を指差していた。
 
 「あんまりオレの好みの本が置いてそうにないと思うんだけどな」
 す、とタイトルを示す。
 「しかもどちらかというと、オマエの好みっぽそう」
 “アート・オヴ・アントワン・ブロゥ”…写真集だな、舞台芸術関連の。
 にぃ、とサンジが笑った。
 「じゃ、寂しがってもらえるかもね…?」
 「ふゥん?寂しがりやが一人でここで頑張って本に没頭してるのか?」
 「無理、かなぁ」
 
 柔らかな笑みをサンジが浮かべた。
 「まあ、けど。引きこもりたくはなるか?」
 に、と笑って、サンジを促してリヴィングに戻る。
 古めかしいベルの音がして―――
 「支配人と会いたいか、オマエ?」
 「うん?どちらでも。」
 にこ、と笑ったサンジに、一先ずツアーも終えたことだし、と前置きしてから。
 「エリィを出す前に、荷物のアンパックを頼んでいいか?」
 その間に支配人と会っちまうから。
 
 「うん、わかった」
 とん、と伸び上がってきたサンジが唇にキスをしていった。
 くしゃ、と髪を撫でてやり、それからエントランスへと向かう。
 ドアを開ければ、先ほどのコンシェルジェ…じゃなくてマネージャか。
 それと、にこやかな支配人がいた。
 「ようこそホテル・ヴァーミリオンへおいでくださいました、ウェルキンス様」
 
 エントラス…とはいえかなり広いけどな。
 そこで支配人の挨拶を受け。
 その間にボーイがフルーツの盛られたガラスの鉢を持って入ってきていた。
 曰く、ホテルからのサーヴィス。
 礼を述べて程なくしてから連中は帰っていき。ドアをロックしてからぐるりと一周見回す。
 たしかにすげェよ、シャンクス。
 他人に薦めるのはちっと難がありそうだけどな。
 
 リヴィングに戻れば、着替えを終えたサンジがエリィをバスケットから出しているところだった。
 寝惚け眼のチビは、はた、と気付き。
 それから一人でのツアーに出かけて行っていた。
 オイ、オマエ。寝癖ついてるぞ、チビ。
 
 キスはいらない、とでも言わんばかりの表情でサンジを見上げてから、とてとてとエリィが探索に出かけていった。
 それを見守るサンジを見遣る。
 「着替えたのか、」
 服装が違っているのに笑う。
 そんなに靴下は嫌だったか?
 「うん、おまえのも出しておいた、あのさ?」
 ここ、コットンはダメだねえ、シルクかせめてリネンだな、と。
 生地をするりと頬に滑らせてきていた。
 「気分、」
 
 「意外とデニムでもいけそうな気もするけどな」
 「そ?あぁ、おまえならね」
 ふわりとサンジが笑って、トンとその額に口付けた。
 「外出着より部屋着の方が高そうなイメージだな」
 「んん?」
 きらきらとした笑顔が見上げてきた。
 「この内装に似合う服で出て行ったら、季節外れのマーディグラじゃねぇ?」
 「たしかに、」
 
 きゅ、と唇を吊り上げていたサンジのそれをぺろりと舐めて。
 「すっかりお目覚めだな、仔猫チャン?」
 に、と笑いかけてみた。
 ふわ、と甘みを表情が帯びていき、くしゃくしゃと髪を撫でる。
 「さすがにコレには驚いたか?」
 片手ですい、と空間を示す。
 「うん、」
 にこお、とサンジが笑った。
 「いまのとこ、イチバン」
 
 「ふぅン?」
 ああ、そうだ、と思い出す。
 「ここ、レストランのフードを部屋までケイタリングしてくれるらしい。さっきマネージャに説明された。今日は一先ず、ここのを
 試してみるか?」
 
 
 
 
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