「夜の散歩には行かない?」
残念、と付け足した。
だけど、うん。実際、ナイトクラブに行く気分でも無いし、と思っていたなら。
「トロピカルガーデンと、ローズガーデンがあるらしいぜ、裏側に」
そうゾロが小さく笑った。
「ヴェルサイユよりゃ小さいだろうけどな、」
「内装がこれなら、ガーデンも期待度大」
笑みで返してから。
ソファに身体を落とした。
赤を基調にしたグラデーションが華美になり過ぎない室内を、ゾロがマスタールームの方へ歩いていっていた。
いってらっしゃい、オツカレサマでした。
モダンなスタイルでも、おまえなら全然この部屋でもダイジョウブかもしれないね。
微妙に「いる」世界のフェイズが違っているような。そういう間合いでしっくりと馴染んでいる背中を見送った。
シャトーをホテルに改装したりすると。泊り客は喜ぶか、引くかのどちらかで。
そりゃぁ、ヒトがイチバンの新参者だったならね、空間の。居心地は両極端になるのはアタリマエだよなぁ、と。
思考を遊ばせていたなら、足元に探検を終えたエリィが身体を擦り付けてきて。
抱き上げた。
「エリィベイビィ、このお部屋は満足ですか」
返事は、キゲン良く振られた尻尾。
「そう、じゃあ今日も一人で寝なさい」
からかえば、「にう」と。一言文句が帰ってきた。
リビングから続いて、鉄枠の嵌まったテラスが伸びていた。ガーデンに面しているのかな、窓の外はもう暗かった。
後からテラスも観に行ってみよう、気持ち良さそうだし。
目線をまた戻せば、ちょうどゾロがマスターベッドルームから戻ってきていて。
とんとん、とソファの横を掌で軽く叩いた。
「こっち、」
「チビに何か飲ませたのか?オマエも飲むだろ?」
「エリィには水、おれにはー…」
ミネラルウォータ、それをエリィのディッシュに注いでからこっちへくるつもりなのかな?
キッチンに立ち寄るみたいだ。
「いらないよ、」
抱き上げていたエリィをフロアに下ろしてやった。
ほら、いっておいで?
「水なら飲むか?寝起きだろ?」
とと、っと。小走りでエリィが走っていって。
笑い声混じりな声がそんなことを言ってきた。
「もう、起きてます。おまえの服だってちゃんと選んだろ?」
絹のクッション、それを引寄せてエリィの代わりに抱えた。
「ちゃんと水分補給したのか?」
「うん」
ボトルごと、水をもってキッチンから戻ってくるゾロを見詰めて。
「こっちこっち、」
とんとん、と片手でまたソファの背中を叩いた。
だってさ?あのシャツは。触ってると気持ちがいいんだ、とろ、とした肌触り。
すい、と横に座ってきたゾロに、クッションを抱えたままで凭れかかった。
頬がちょうど肩辺り。くっついた。
「ニュース?」
リモコンを指差した。
手の届くところに置いておいたソレ。
返事を聞く前に着けて。
ハイ、と手渡す。チャンネル、CNNにはあわせておいたからな?
くしゃりと髪を掌に乱されていって。く、とまた額を肩口に押し当てた。
おれたちの年と、エリィの年を足しても。
電化製品以外じゃ、あの花瓶よりも若造だねえ。
「ケータリング、クレオールがいいよ」
「オーライ、なにかあるだろ」
「シャンパン飲んでもいいですか」
「クレオールにシャンパン?まあいいか」
する、と。シルクの感触を肌で味わう。
「そのあと、赤ワイン」
くくっと。低く笑う声が響いてきて気分が良かった。
「アルコールは好きなんだな、ベイビィ?」
「アルコールも、好きなんだよ」
シルクの上を、髪が滑ってく音がした。
ちゃんとメシは食えよ?と。やんわりと釘を刺すようなゾロの口調に、ちいさく笑った。
素足、ソファの縁に掛けて。もう少しだけ、身体を近づけた。
冷やされた空気がくっついているのに丁度いいくらいな室温。
「マミィ、この部屋には付いてないと思ったのに?」
「バァカ」
とん、と肩に懐けば。
コツ、とアタマに軽く拳があたって。
くすくす笑った。
「きょうはね、」
口調がとろ、としてきてるのがジブンでもわかった。
「身体が、あまったるいままだから、あんまりモノ食べられない」
「ダメ。朝食抜き、昼間は緑のソースだけ。晩くらいきっちり食べないと夏バテするぞ」
「じゃ、ガンボとー、コーンミールと、サラダ」
どう?と額をシルクに押し当てて言ってみた。
「メインになるものがないじゃないか?」
「It's Creole Master, NO?」
ダンナ様、クレオールです、違います?そんなことをふざけて言ったなら、返答がそれで。
「メイン、じゃあおまえが選んで、」
クッションから片手を離して。両腕をゾロにまわした。
「クレイフィッシュ?」
「やーだー」
「おや、好き嫌いの多いコだね?」
に、と煌めいたグリーンアイズを見上げる。
「食べるの、手間がかかる、や」
あぁ、でもさ?
「でも、おまえが全部剥いてくれるなら、いいよ?」
「お手を煩わせたことなどございましたか、サンジ様?」
「ゾロ…?」
「なに?」
からかうみたいな光、すうっと過ぎったグリーンに見惚れかけた。
「ピアニストは、手。大事にしないとね…?」
ちゅ、と指先を取って口付けて。
ダイスキだよ、とキスで言葉も閉じ込めた。
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