ディナーのケイタリングを頼めば。
トップフロアだからなのか、それともこのホテルの気質がそうなのか。
ダイニングのセットアップから始まり。
「キッチンもお借りします」との一言で。
運び込まれた下拵え済みの料理は、ボーイと一緒にやってきたシェフがそこで最終工程に入るらしい。
ケイタリングとは、料理のケイタリングではなく。
シェフのケイタリング、を意味していたということか。
最初にカートと一緒にボーイ1名とシェフがやってきた時。
チビは猫というよりは兎のようなすばしっこさで、しかも横っ飛びで隣の部屋にダッシュしていた。
サンジが抱き上げようと一応は試みたらしいが、すぐに離していた。
そういえば、チビがオレとサンジ以外のニンゲンとここまで長く居るのは初めての体験だしな―――ショップで売られていた時以来、か。
きらきらと煌く目で見詰めてくるチビを横目で認めながら。
完璧にセットされたテーブルに座って、料理を運んでくるボーイがサーヴしてくれるに任せながら、ガンボやクレイフィッシュ、牡蠣やジャンバラヤなど典型的なメニューでディナーを済ませた。
タウンに出ればチープにも成り得るメニュウではあったが、素材から盛り付けまで徹底的に選び抜かれたもののようで。
文句なしに見栄えの良い、美味い料理だった。
サンジも同感だったらしく、ボーイににっこりと笑って美味しい、と言っていた。
「残すものがなにもなくてデザァトが入らないくらいだ、」
そう言って、顔を出していたシェフをも喜ばせていた。
「それではかの有名なバナナフォスターはお召し上がりにはなれませんか?」
年配のシェフが残念そうに言う。
「う、いただきます…!」
にっこおお、とサンジが笑顔を浮かべ。
シェフとボーイがつられて満開の笑顔になる。
「バナナフォスターっていうのはなんだ?」
訊けば。
「バナナをバターでソテーして、ブラウンシュガーとシナモンで味付けしたものです。ラムでフランベしてから、アイスクリームを添えます」
「…パス」
「一口?あげるよ」
「想像するだに悪魔の甘さみたいだからイラナイ」
ふわりと目を揺らしたサンジに、オマエは遠慮せずに食え、と笑いかける。
「そう?じゃ、イタダキマス」
きゅ、と笑みを浮かべてサンジがシェフに頷いていた。
「旦那様は珈琲だけになさいますか?ベィネもお支度できますが」
「説明を頼む」
「一口で言えばフルーツの入ったドーナッツですね」
「ふゥん?」
「さほど甘くはないですよ?」
「なら貰おうか」
「畏まりました」
にこにこと話しを聞いていたサンジに、珈琲はどうなさいますか、とボーイがまた尋ねていた。
「カフェオレにもできますが」
「コーヒーで。甘いの覚悟ですし」
にっこりと笑ったサンジに、ボーイもにこやかにオーダを取っていた。
かくしてバナナフォスターとベィネ、そして珈琲でディナーは幕を閉じ。
後片付けをてきぱきとこなしていったボーイとシェフに礼を述べ、チップを渡してから引き下がっていくのを見送った。
静けさが戻った部屋で、サンジがとん、と腕に触れてきた。
「クレイフィッシュ、剥いてくれてありがと、」
ふわりと微笑むサンジに、どういたしまして、と告げて額に口付けた。
「ソースで指タイヘンだったろ?」
にっこりと笑ったサンジに肩を竦める。
「そこはボーイが充分にケアしてくれたからな」
最初はオレがサンジの為に殻を剥いているのに驚いていたようだったが、教育が行き届いているのか、何も言わずにウォーターボゥルとナフキンを手渡してくれていた。
きゅう、と背中に腕を回してきたサンジの髪を撫でて。
しばらく腹を休ませたら、散歩に行こう、と誘う。
「エリィも落ち着いてきたら、連れてってやるのか?」
「どうおもう?」
すい、とサンジがチビを見遣っていた。
目がまだ興奮にきらきらと煌いていた。
「落ち着かせた方がいいと思うんだけどなあ、」
「ドメインに他人がいるのには慣れてないからな、コイツ」
「うん、」
出先では落ち着いているのは、そこは外だと理解しているからなのだろう。
ホテルの部屋は、エリィの縄張り。
最後に蒸した鯰をシェフが用意していってくれたが、食べるのかね?
すう、とブルゥが見詰めてきて、やんわりと微笑んだ。
「ん?」
ナンダヨ、見下ろす。
「“籠入りむすこ”」
に、っと笑っていた。
「まあ…そうかもな、」
こつ、と額を合わせて笑った。
きゅう、とサンジが背中を抱き締めてきて、そのまま腰に腕を回して抱き締めた。
「他の猫が世界に居たことなんぞ、忘れてるかもしれないな」
くくっと笑う。
「散歩だと、見かけないよね」
「どういうわけだか、まだ犬も見かけてないよな」
預けられた体重を引き受けて、金の上に頤を預ける。
「あ、いただろ?」
海辺、遊んだじゃないか、と柔らかい声で言うサンジに笑う。
「エリィがいなかっただろ?」
「んん、」
甘えた声のサンジに笑う。
「チビが自分のことをなんだと思っているのか、訊きたいところではあるな」
「リトル・ステファノだったりして」
くくっと小さい笑いを零したサンジのアタマをぐりぐり、と頤で撫でる。
「なってもらったら困るな。生のティビーを捕まえ出すかもしれん」
きゅう、と腕を強めてきたサンジに告げる。
「じゃあ。夜の散歩は留守番だ」
「チビ、留守番ばかりだな?」
くくっと笑って腕を緩める。
見上げてきたサンジを見詰める。
「いつもはおれも一緒だけどね、たまにはおれもオマエと二人っきりってしたいし?」
煌くブルゥに笑いかけてから、トンと柔らかく口付けた。
「夜中に拗ねて鳴き出さなけりゃいいか」
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