オーダしたものは最後まできっちりと平らげ。
シャンクスが貴醸酒をかけたシャーベットとエスプレッソのデザートを。
リカルドが、ダブルチョコレートケーキとエスプレッソのダブルを2杯。
オレはキィライムのシャーベットとホット珈琲をオーダした。

男三人がデザートまできっちりとオーダするのを、ウェイトレスがキラキラと輝く目線で引き受け。
届けられたならば、コイビトがすい、と一口分差し出してきた。ぱくりと咥えれば、シャンクスが笑い。
リカルドが、シャンクスの"綺麗"な笑顔に、薄く笑っていた。
笑顔が何種類にも分けられ。浮かばせるたびに選び、使い分けていくのは最早職業病に近いのだろう。

「シャンクス、」
とリカルドが呼び。
「ん?」
茶色の塊を乗せたフォークを差し出した。
「チャレンジ?」
くぅ、と目許でシャンクスが笑った。
リカァルド、オマエは天然で墓穴掘り続けているぞ。
そのうち押し倒されていたら、笑ってやる。

シャンクスが、あん、とクチを開け。
「Feed me, please?(たべさせて?)」
"可愛らしく"言っていた。
すい、と茶色の塊がシャンクスの口の中に運ばれていく。

そういえば。リカルドは意外と構いたがりなのだったのを思い出した。
自分のとは違い、寂しさの裏返し、といった意味もある。
それが延長でクセになったってワケだ。
きっとこの調子なら、例の"ウサギちゃん"にも相当"いいオニイチャン"してきたのだろう。

ぱく、と食べたシャンクスが、リカルドの目を見詰め、にこお、と笑っていた。
リカルドが笑っている目のまま、方眉を引き上げた。
「ベン、オマエは?」
「遠慮する」
「クソ甘いぜ?」
「見りゃ解る、見りゃ」
「一緒にのた打ち回ろうぜ?頭痛がするくらい甘いって」
「なおさらいらん」

シャンクスが、前髪が顔を隠すくらい俯き、くっくと笑っていた。
リカルドも小さく笑う。
「な、チャレンジしろって。分かち合おうぜ?」
すい、と突き出され。
溜息と共に塊をクチに取り入れた。
―――もう少し軽く作れないものか、なんだってこんなに重いんだ。

すい、とシャンクスの翠目が赤いカーテンの間から覗き。こちらをキラキラ煌く目線で見詰め、ひゃは、と笑い出した。
リカルドの黒目を見遣り、ガキの頃に何度か口にした言葉を音に出す。
「"病める時も"」
「"健やかなる時も"」
「"天国も"」
「"地獄も"」
「「"分かち合うことを誓います、エィメン"」」
拳を突き合わせ、ゴツと合わせる。

ソファに凭れて笑っていたシャンクスが、呼吸困難なくらいに大声で笑っていた。
に、とリカルドと笑い合って、それぞれ珈琲を啜る。
「み、みず…ッ」
グラスを手渡せば、切れ切れにいってきていたシャンクスは結局受け取れずに、
「は、ら…痛…ェてば、ハ、」
と大笑いを再開した。


リカルドはさらりとクソ甘いケーキを平らげ。
オレはヤツにキィライムのシャーベットを乗せたスプーンを突き出した。
「連帯責任」
「イエッサ」
ぱく、とリカルドがスプーンを咥える。
「美味いだろ」
「リサーチ済みってか」
「何度か来てはいるんでな」
「次は風俗からフードライタに転向か?」
「オマエがグラビア・ヌードに興味持ったらな」
「ダレの?」
「仕事として」
「アリエナイ。ナチュラル志向なんだ」
に、とリカルドが笑う。
軽いジョークの応酬。

シャンクスが、息も絶え絶えに、
「も、もやめろオマエら、…お、かし過ぎ…っ」
そう訴えてきた。
「フツウだよな?」
「こんなモンだろ」
笑ったままリカルドと視線を合わせる。
涙目だったシャンクスの目尻から、一粒転げ落ちていった。

「普段そうじゃね、―――だろ…っ、が」
腹が痛い、と訴えるシャンクス分に、シャーベットを残し。
増えた客に構わず、こちらを興味津々といった眼差しで何度も見遣ってくるウェイトレスに、伝票を、と合図する。
ぎゃあぎゃあと笑っている割には、妙に色気のある顔を晒しっぱなしのシャンクスを。
リカルドは小さく頬杖を付いたまま、静かに見詰めていた。

ふいに今まで集まってきていた目線とは違う、見定めるような視線を感じ。同時に後ろを振り向いた。
「あ!やっぱオマエら!!」
いかにも、なハーレーライダの大男が、ずかずかと近寄ってきた。
すい、と眉を引き上げれば、リカルドも似た様な好戦的な眼差しを浮かべていたのだろう、男がワタワタと両手を振った。
「オレだよ!!トーニ!!覚えてないか!?よくヒストリック・ロードでライドしたじゃねぇかよ!」
ちら、とリカルドと目線を交わし。
シャンクスが漸く発作を収め、指先で目許を拭い、深い息を吐いてるのを確認してから、また視線を戻す。
「「さあ?」」

「あ!ひっでぇっ!!」
ぎゃあ、とトーニが叫び、に、と笑ってやる。
トーニ、トーニ・フラタンジェロ。顔見知りのライダーだ。
「よう、オマエもこっちだったのか」
立ち上がり、がつ、と腕を合わせ、握手。そしてそのまま背中をぽんぽんと叩く。
「オマエとは、オマエが越しちまって以来だな!」
がはは、と嬉しそうだ。

リカルドも同じような挨拶を交わす。
妙に潤んだ目をしていたトーニにリカルドが苦笑を浮かべた。
「ヤメロ。男殺しの異名まではいらない」
「だってよ、リカァルド、オマエさあ!!」
「わかった、ウルサイ、騒ぐな、死んじゃいないんだからよ」

シャンクスは興味なさそうに、先ほどまでの大笑いはどこへやら、なすました顔で見ていた。とん、とその前にシャーベットの
残りを置く。
「あンたの分」
ひょい、とスプーンを引き上げ、唇の前に差し出す。
すい、と首を傾けた拍子に、赤が流れた。
「キィライム。さっぱりするぞ」
なん?と目で訊いてきたシャンクスに答える。

手首にシャンクスの手が添えられた。
一口だけ、食っていく。
「ごちそうさま、もうイラナイ」
ぺろ、と唇を舐めていくのを見遣って笑いかける。
「よく食ったな」
あンたにしては、とは言わずにおいた。

残りのシャーベットをさっさと平らげ。
本格的に泣き出したトーニに、あーあ、と天井を見上げたリカルドに向き直った。
「オマエ、死んでたのか」
「そう。似たような状態に在ったから、訂正しておかなかったんだけどな」
「トーニ。ボーナスが出てよかったな」
とんとん、と肩を叩いてやる。
イカツイ男の涙目というのは、別の意味でクるものがある―――マイナスに。

シャンクスが背後で退屈だ、とオーラで訴えていた。外を流れるトラフィックを見詰めたままでいる。
連れて帰るならそろそろ切り上げ時だ。
すい、とトーニの後ろを見遣る。

「オマエのガールフレンドが退屈してるぞ、トーニ」
「あ、ああ」
ぐい、と涙をトーニが拭いていた。
トン、と肩を叩いて、あのさ、と言いかけていたシャンクスに向く。
リカルドはトーニに同じように軽く別れの挨拶を交わしていた。

「悪い、シャンクス。払っちまったら出よう」
「あのさ、まっすぐ戻る?」
「寄りたいとこでもあるのか?」
「知り合いがこっちに来てる」
「約束してたのなら、送るぞ」
「オマエらは来ない?」

近くのウェイタを呼びとめ、クレジットカードを見せた。
ぴ、とカードが目の前で切られ、暗証番号を機械に打ち込む。そのまま、備え付けのプラスチックのペンで液晶にサインをした。
清算終了。

僅かに甘えるようなシャンクスの声に、笑って見詰める。
「顔を出すだけでもオオケイなら。長居はリカルドが辛いだろ」
「オーケイ、昼にも会ってるから構わない」
する、とシャンクスの指が、手の甲を一瞬滑っていった。
笑いかける。

「イビザのダチ」
にこ、としたシャンクスに、ああ何度もかけて来ていた電話の相手か、と思い出す。
「どの?」
フラッシュで浮かぶ、シャンクスの"ダチ"の面々。
仕事で何人かにはインタビュウしていた。シャンクスと知り合う前のこと。

「"セブ・フリーダーソン"。ガキのカミサマ」
「へえ。のし上がってたのか」
オレが知っているソイツは、まだ"カミサマ"じゃなかった。ただのガキ。
「シークレットで、"アムネジア"でいまプレイしてる。行く?」
「そうだな」
「あぁでも、知り合いって?クソ生意気なガキだったろ、」
少し優しい笑みを浮かべたシャンクスに、肩を竦める。
「あンたにそんな顔をさせるのなら、今でもタダのクソ生意気なガキだよ」
セバスティアン、とシャンクスから本名を告げられて、にぃい、と口端を引き上げた。
「で。リカルドの男殺し伝説は続くと思うか?」




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