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 店の外に出れば、クルマのあたりにリカルドは見当たらず。
 「あ、つまみ食いされてンだ」
 ベンを見上げる。
 リィザ、やること早いなぁ、とこれはひとりごと。
 
 そうしたなら、クルマの方へ背中を押された。強すぎず、弱すぎず。親密すぎない程度の近しさ、ってヤツ。
 「オマエお助けに行くの?」
 振り向いた。
 「そう。セバスティアンに見せたいだろ?」
 「セブの好みって要はおれだけどね」
 イイオトコの見本、そう言ってわらったベンに軽口で返してから、オープンな所為でロックの意味の無いクルマに飛び乗った。
 パーキング係のおっさんに「ありがと」と一言。
 傷一つついてないね、治安はパーフェクトじゃないのに。
 
 すぐに、通りに影が二つ。
 困りガオだろうリカルドと、アムネジアのロケーションを説明しているんだろうベンの二人組み。
 「オカエリ。」
 案の定困りガオのリカルドがエンジンをスタートさせる前に労いの一言を投げる。
 くぅ、と苦笑が刻まれる。
 
 そうしたなら、外から。
 「ちょっと待ってくれな、幌上げちまうから」
 そう、断ってきた。
 あぁ、ナルホド。あのあたりだと、パーキングは路肩だしね。
 
 ギリギリのところでクラシック、なコイツは。幌は当然の如く非オートマティック。
 ばさばさと布が開いていく音を久しぶりに聞いた気がする。鉄のごとごという音と。
 がち、とフレームの合わさる音が最後に結構響いて。
 中にいるんじゃなかったよ、と一瞬後悔しても遅い。
 ますます、窮屈になったバックシートで。
 「うー、」
 天井を見上げた。
 テラスから飛び降りてやるしか、このストレスは消えてかないな。
 
 外から。
 いくつもの店の名前が聞こえてくる。
 あー、なに言いあってンだよニーサンたち。
 コマシタウェイトレスの勤め先?どうせダブってるよ。
 あ、それか。
 ダブりは最初からノーカウント?悪ガキだねえ。
 
 がち、とドアの開く音が両側からして。
 連中が戻ってきた。
 「ピンクのエプロンはお好き?」
 ニーサン連中に後ろから声をかける。
 「ハ?」
 「ウェイトレス!」
 リカルドにわらってから。タバコを咥えて首を横振りのベンの頭を後ろから小突いた。
 
 リカルドは一瞬考え。
 「ピンクのエプロンで迫られたことはないな」
 ふむ、って具合に言っていた。
 「あれ?あのイメージってメディアだけ?」
 実際、おれ良くしらねぇし。
 
 シートにまた埋まっていたら。
 長い腕がナヴィシートから横切り、ちら、とタバコの穂先の赤も流れてた。
 咥えタバコのリカルドが。
 「テレビはあんまり見ないからワカラナイ」
 そう言ってきて。ベンに実際はどうなのか聞いた。ウェイトレスの制服。
 そんなどうでもいい話をしているうちに、新しいタバコに火を点けたオトコが。
 「アンナ・ミラーズはピンクもあるぞ」
 笑いもせずに教えてくれた。さらに追加情報がリカルドから。
 「オレが知ってるのは赤いほう」
 ―――ふぅん?
 
 ルー・ロイヤルを抜けるあたりから。
 「あそこの制服は狙いすぎだよな」
 「脱げば一緒だろ」
 また悪ガキ連中が言葉のやり取りをはじめて。
 イキナリ。
 「「中身が問題だよな」」
 リエゾンで同意を求められた。
 
 「脱がせるならね」
 応えておいた。
 「勝手に脱がれるのは時折困る」
 どことなく、身につまされるトーンのリカルドの言い振りに。
 またわらった。
 
 
 「あー、と。あ、ここで停めよう」
 空きスペース発見。
 くっく、とわらっていたベンのシートを膝で突く。
 すい、とクルマが停まり。
 「さっさと、出る!」
 バン、とドアを開けて。ロックやなんかは任せた。
 
 通りに、オレンジの髪の子を見つけた。ディータ。
 「ディータ、感心なフォロアだね?なんできょうやるって知ってンの」
 とん、と頬にキスした。何年か前からイビザで知ってるカオ。
 一瞬、きょと、としたカオが。ぱあっと笑みがひろがっていって。すい、と抱きつかれる。
 どうしても洩れてくる低い音が鳴っている方へ歩いていきながら、同じように後ろを咥えタバコでついてくる姿をちらっと確認する。
 なんでだか、ベンと目があった。―――フン?
 アタリマエのようにフロント・ドアは素通り。奥へと人波をぬって通される。
 
 「ここに来てたの?それともセブに誘拐されちゃったとか?」
 デぃータがわらって。
 「マサカ」
 に、とキスで返す。
 「次は来てね?なんだかこの夏はツマラナカッタもの」
 ありゃ。同じこと言われたよ。
 
 「んー、どうだろう?イマおれイッパイイッパイなんだよ」
 聴いていない振りがお上手な連中に、わざと振り向く。
 リィザにヤラレタ、オーマイガっとやってるリカルド。どうやらライターを掏られたらしい。リィザ、ライターが人質代わりのつもりかネ。ぶっくっく、って具合にそれを受けて笑ってるヤツと。
 目線に、二人そろってマジメな顔を作って見遣ってきた。
 
 「な?アイツら堕とさないとネ」
 くっくっく、とディータにわらいながらキスされた。
 「あのヒトしってる」
 「あぁ、去年いたからね」
 「ビーチでちらっと挨拶だけされたわ」
 「そう?」
 ビーチパーティの女王様はヤツの取材対象じゃなかったわけか。
 
 「ミス・ディータ、こんばんは」
 ふわ、と。コイツの十八番、営業用誑かし笑顔が浮かんでいた。
 「ハイ、」
 くう、とディータの唇が吊り上った。
 
 「セブ、泣いちゃうわよぅ?」
 ハイハイ、面白い冗談だね、ディータ。
 目があえばリカルドは、親友の営業スマイルを久しぶりに見たんだろうな、苦笑していた。
 
 フロアの熱気が確実に何度か上がったのが、テラスからでもわかった。
 「あ、やべ。はやくしねぇと出てきちまう。ブースの裏!控え室だからな、来いよ!」
 なにやら社交辞令が始まったのをちらっと訊いたけど。
 階段を下りるのも面倒くさい。
 テラスの手すりから飛び降りる方がよっぽどハヤイ。
 
 「シャンクス、」
 呼び止められる。
 「はン?」
 振り向いた。
 「あンたが飛んだ後どうするんだ?」
 「降りてこいよ、バックステージで待ってるからさ?」
 じゃな、とひらひらっと手を振って。ダイブ。
 高々数メートル。どうってことない。
 
 
 
 
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