「へィ、面白いもの連れてきてやったヨ」
バックルームに飛び込む。丁度ドアを抜けかけてたセブとほとんど正面衝突だった。
「お?」
抱きとめられて。
「そう」
頬辺りにキスされながら、なかへ押し戻す。
伸ばしとけ、とセブからハンドサインされて、微妙にどころかカナリツマラナイ音を流してやがるヤツがサムズアップしてきていた。
羨ましそうな顔すンなよ、と独り言をアタマのなかで。ああいうツマラナイ奴は用無し。
すい、と扉の中に引き込まれる。
「セブ、あれ、なんだよ?」
「おれの方が飛び込みなの。フロントアクトまで選べねェでしょ、こうも急じゃ」

あ、おい。その手は何だ、コラ。
「仕事前にはするなって"教え"だろうが」
よいせ、と。
腕ごと捕まえて、ローライズの隙間に潜ってきた手を引き出させる。
「景気付け?」
「さっきので保たしとけ」
軽くキス。
項に掌が添えられて、少し引き寄せられた。深く重ねる。ソルべより、こっちのデザァトの方がイイ。

おっせぇな、と思いかけたときに。
漸くバーカウンタお立ち寄りだったらしい連中が、ヒトごみのなかをゆっくりとやってきていた。
「あ、あれあれ」
くい、と頤で指す。またローライズの隙間に潜り込んでいたセブのを片手で捕まえて。
「見えた?」
「あー、二人連れ?」
「そ」

「なんかさ、」
「ん?」
「Two black beasts in the dark (闇夜に獣2匹)、って感じだ」
「ハハ!」
語呂いいかもな?
「どっちの所為でおれら振られたわけ、」
今年は、と付け足してやがった。
「両方、っていきたいとこだね」
「アウチ」

ゆったりとしたペースで近付いてきたベンが。
「よう、クソガキ。箱詰めオメデトウ」
軽い口調で言って寄越し。
く、と僅かに目を細めていたセブが。
「ア?――――あんた……、」
また、記憶の底を浚うカオをし。
「―――ベルファストの……!」

にぃ、とベンが口端を引き上げてた。
フン?おれはコイツがロンドンに出てきた後からしか知らないから。て、ことは。会うギリギリ前だな。
「なん?知ってたんだ」
セブにも確認してみる。
「おれの、ちょい上の連中と話してた、ライター」
「ハハ。おまえ、クソガキ扱い?」
トントン、とセブの頬を手の甲でノックした。
「クッソ、3ヶ月後に来いっての」
アタリマエだろう、ってカオをしているのは「ライター」だった。
「だよなぁ?オマエおれに会ってからツイテルもんナ」
まぁ、別に、今トップ取れてれば問題ないだろ。

「Chance IS time(運は時だろう)」
言い切ったヤツの台詞を聞いて、下手なリミックスにうんざりしていたりカルドが、にやり、と。黒い獣って呼び方も
似合わなくもない笑みを寄越していた。
「で、もういっこのその物騒なのは?」
すい、と「カミサマ」がリカルドに目線を投げる。
「コイビトのダチ。喰いたいから狙ってンの」
「―――あぁあああああもう、オマエは」
セバスティアンが額を抑えた。

ゴツッと音がして。
リカルドが、くっとわらった親友の背中に懐いていた。
「あぁ、アンタにおれは同情しつつ、」
はあ、とセブが溜息をついた。なんだよ?
「誑し込み方、教わりたいぜ、ったく」
ははは、と笑いかけてたのが。
その台詞が、向けられてたのはおれにじゃなく。
連中のどちらかか、あるいは両方なのが判って。抗議の一つもしようとしたなら。
「「オノレを磨け」」
たった、3歳かそこらしか違わない連中からご神託され。
がっくりと倒れ込んできたセブの身体をどうにか抱きとめた。うーわ、ダメージでかいねぇ。

「他人に言われたイメージに成ってどうする?崩壊するだけだろ」
さらり、と。ベンが相変わらずそいつが抱えているものを切り込む口調で言い。
「自分が成りたいモノでなけりゃ、好かれても迷惑するだけだ」
と。妙に説得力のあるフォローをリカルドが寄越していた。
「―――だってさ。聞こえたか?」
トントン、と背中を軽く叩く。
「セバスティアン、ほら。らしくネェだろオマエ」

「努力もせずにのし上がれるほど甘くないのは、周りがイヤって程証明していただろうが」
さくり、と。また「人斬り」だよ。
容赦ねぇな、相変わらず。けどまあ、ここまで斬られるのは、取り合えずオマエのことを認めてるってことだぞ?
「白鳥を思い出せ、白鳥を」
リカルドがにやり、とし。
「うーわ、オマエラそこまでにしとけって。ホンモノのSWAN SONG(最後の一声)になっちまうよ今夜のデ」
ひらひら、と長い片腕を上下させていたりカルドに言った。

「セーブ、ガキどもが待ってンよ?」
―――あ、でも。
そもそもおれが原因か、ハハ、ごめんゴメン。
おっかねぇの連れて来ちまったけど。オマエ結構ナーヴァスだったしね、リチャージするには刺激はこんなモンだろ。
「ひとまず帰るときくらいはこのツマラナイのは勘弁してくれ」
「沈むなよ」
片腕にプラスティックカップを持ったリカルドがフォローしていた。
いいコンビだね、こいつら。いまさらながらに再確認する。

先に出て行った連中をちらっと見遣って。
その口元に、にぃい、と浮かんでいたベンの性質の悪い笑みをしっかりセブも見届けていたらしい。
「―――あー、クソウ」
「少なくともクソガキ扱いじゃねぇじゃん」
「確かに。"よう、ああ、うん"、だったな前は。あと。"名前は?ふン、なるほど"」
「ア?オマエそれさ」
「なんだよ」
「名前訊かれたンならジョウトウ」
「―――まじかよ、クソ。何様」
「あー…Ben Ballardサマ」
「ハァ?!」
コイビトのPNを明かしてみる。軽めのトピックを書くときの方を。

がっくり、とまた懐いてきた身体を。
「うわっと、」
また支えて。
「――――おれ、"バラード"の書いてるモン割と好きだったんだぞ」
ぎゃは、とわらっちまった。

それから、ツマラナイものを聞かせたらダチを辞める、と宣告し。
ついでのあのクソDJも抹殺しろ、と付け足して。気分イイ音のなかに20分くらい浸かって。
帰り際にはオマケに、結構念入りにキスともう少しばかりを付け足してから外に出たなら。スモーカー2人はまた壁に凭れて
喫煙中だった。

「改善の余地アリ」
だろ、とベンに言えば。
「あンた甘やかしすぎ、」
とん、と唇に軽いキスが落ちてきた。
「これくらいで十分」
にぃ、と間近でわらいかてくる銀灰を見つめかえす。
「おれ、惚れられてると弱いんだヨ」
くくっとわらった。だって本当だし。

「押しだけじゃないのか、」
「だって、アレ。ツラ最高だろ?」
すい、とりカルドに視線をやっていたコイビトに返した。あそこまでバランスが良いヤツは滅多に見かけない。
「色気が足りん」
「それはいいの、おれがアマッテルカラ」
あまえるだけじゃあな、と呟いて肩を竦めてみせたオトコに言った。
「オマエの前の。結構本命になりかけだったんだし、」
かァわいいじゃん、馬鹿で一途で。と付け足した。

「なら明日帰ってくるか?」
さらりとした口調で返された。久しぶりだろ、ってのと一緒に。
「色気が足りない、」
同じ口調で返した。
「リカルドもいるし、」
それにさ、と腰に腕をまわした。
「実を言うと、オマエも足りない」

肩にすい、と腕が回されてきて。はは、と軽くわらった。
「今日はリカルドは寝かせてやろう」




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