アントワン・ブロゥの美学がどう在るのか、あまり興味はないのだが。
シャンクスのために設え直された貴族服は、ぴったりと身体にフィットしていた。
ゴージャスに宝石で飾り立てられたジャケットやベスト。
肌の淡い色味を生かすように長く垂れて遊ぶレースの袖や襟。
足、脹脛の上、リボンで留められたズボンの裾はぴたりとラインに沿い、
細かいレースのソックスの下に、甘いサンドベージュの革靴。金のパックルで、白を基調とした服とバランスを取っている。

金も手間も相当かかった、貴族服。
バロックよりはロココに近いのか、ファッションの年代的には?
アクセサリの色合わせの一つ一つまでに行き届いた配置とバランス感覚。
それを、意図された風にぴしりと着こなせるシャンクスもシャンクスだが、そもそものデザインが、天才的なのだろう。
シャンクスに似合うように、と計算されつくされたのだとわかるソレ。
最初に見たときには少し違うように見えたのも、多分、髪の色をウィッグかなにかで変えさせるつもりでいたのかもしれない。
今見たら、これ以上はどう弄ればいいのかわからないほどに、馴染んで見えた。装飾を手直しされた結果。
数百年、歴史的に経ったとは思えない程、その服を着ているのがアタリマエに見える。
ここ、ヴァーミリオンの室内であるから特に。

「黒に染める前提だったんだよ、」
前髪を摘みながら、シャンクスがリカルドに言っていた。
「だから、ちょっと手直ししてもらえたみたいだネ」
「大事にされているね、シャンクス」
リカルドが笑って言った。
「ウン?だっておれだよ―――?」
にこお、と笑って。連絡を断っていた事を後悔していたこと等、カケラも匂わせない。
リカルドは、僅かに目を細め、シャンクスのその言葉には何も言わないつもりらしい。
解っている、と理解しているのか。
それとも、同じ轍を踏むのかどうか、遠くから見守るつもりなのか―――。
いや、リカルドは。多分、一生見届けるだけの存在で在ろうとするのだろう。
カメラを構えて、距離を置くように。
愛情を持って見届けはしても。誰かの人生に口出しすることのない。
鳥の巣を写真に収める時、壊れそうであっても手出ししないのと同じように。

イスにかけておいたジャケットを取り、財布を仕舞い。部屋の鍵を取った。
煙草とライターも。
すい、とシャンクスが見遣ってきた。リカルドの視線も当てられる。
「良い絵が撮れるといいな」
そう言ったのならば、すいすい、とシャンクスに手招きされた。袖のレースが優雅に揺れる。
近寄って笑いかける。
「また後でな、シャンクス」
「見納め、で多分。完成版の抱き納め、」
にこ、と笑い、腕を僅かに広げていた。
「そうだな。実際に目で見れるのは、今日くらいか?」
笑みを返して、抱きしめる。薄い綿のシャツを通して、装飾類のゴツゴツとした感触が肌に伝わる。
「あとはハロウィン、」
くくっとシャンクスが小さく笑った。
「出歩かないけどね、」
付けたし。アントワンの“教示”は守るつもりらしい。

「脱ぐならオレの前だけにしておけ」
笑って髪に口付けを落とす。
「どこに何が行ったか解らなくなりそうだからな、脱ぎ散らかすと」
離れて軽く片目を瞑る。軽口。
くっと笑ったシャンクスに、再度きゅう、と抱きしめられた。
ほんとうに浮気には向かない、と小さな声が耳元でした。
「Usted parece maravilloso, mi amor. Diviertase. 」
とても素敵だ、目一杯楽しめよ。
そう笑って告げて、再度腕を緩める。
シャンクスが、くぅ、と微笑んだ。頬にそうっと触れてから離れる。
宝石より美しい翠の双眸が煌いていた。

「リカルド、頑張れよ」
ごつ、と親友と拳を合わせる。
「やるからには全力だ」
にぃ、と笑みが返された。
「Goce.」
「Absolutamente」
楽しめよ、といえば。アタリマエだ、とのレスポンス。

最後に携帯電話を拾い上げ、ジャケットのポケットに入れた。
に、と笑っていたシャンクスに、最後に目線を遣ってから、部屋を後にする。
どんな絵が撮れるのだろうな。
出来上がりが楽しみだ。




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