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 カフェで一服してから、マーケット・スクエアに出た。
 目的は、食材の確保。
 数件のグローサリと肉屋に寄った。
 スパイスの店と、スーパーにも寄って、ほしい物を購入していった。
 
 パーキングに戻り、クールボックスに入れ。
 一度引き返してから、リカーストアへ。
 買ったのは年代モノのブランデーと、リカルド用にシュウェップスのトニックウォータ。
 それから自分用にハイランド・モルトを。
 店主に当たり年のワインを勧められて、赤なら飲みながら調理すればいいかと思ってそれも貰った。
 
 帰り際、宝石店が目に入った。
 ウィンドゥをちらりと眺め、思いついて中に入った。
 「いらっしゃいませ」
 「こんばんは。少し尋ねたいのだが」
 奥のスペースに通された。酒瓶の入った紙袋を2つも抱えていたので、配慮してもらったらしい。
 
 「ウィンドウのところに、タグが掛かっていただろう。あれを二つ貰いたい」
 「畏まりました。なにを刻みましょう?」
 「ああ、掘り込んでもらいたいのは名前なんだ。スペルが面倒だから用紙にそのまま書こう」
 「よろしくお願いいたします」
 紙を二枚渡され、名前を書き込んだ。
 シャンクスとリカルドのものを。
 「材質はいかがなさいますか?」
 「プラチナで。こちらのものはマット加工を」
 とリカルドの名前を書き込んだ用紙を指し示す。
 店員が、用紙に書き込んでいく。
 
 「フォントはいかがなさいましょう?」
 飾り文字のものをシャンクスに、シンプルなものをリカルドに、それぞれ選ぶ。
 「装飾も可能ですが」
 「いや、あまり華美でなくていいんだ」
 「左様でございますか。他には緊急連絡先の電話番号や血液型なども彫り込めますが」
 一瞬考え、首を横に振った。
 「チェーンはいかがなさいましょう?」
 「切れ難いものを」
 「細身のものもございますが」
 「あまり細くてもな…ああ、それくらいのものがいい」
 サンプルをいくつか見せられて、気に入ったものを指し示した。
 
 「いつぐらいに出来上がる?」
 「お急ぎでありましたら、明日の昼頃には」
 「ではこちらのホテルへ届けてくれ」
 ヴァーミリオンの名前を告げた。
 店員の目つきが、僅かに鋭くなった。
 「お客様のお名前でお届けいたしましょう。フロント預かりのほうがよろしいですか?」
 「そうだな」
 支払いはクレジット・カード。
 「ああ、ホテルにはバラードで通っている」
 「失礼ですが」
 「仕事名だよ。プライヴェートでああいうホテルに泊まるような人間じゃないだろう?」
 笑って軽口。
 
 「ホテルの人間には話しておく。出来上がり次第、届けてくれて構わない」
 「畏まりました」
 目の前でカードを切られ、暗証番号を打ち込む。サイン。
 「ではよろしく」
 「ありがとうございました。またのお越しをお待ちしております」
 丁寧に頭を下げれて、店を出た。
 
 パーキングに戻る途中、行く時に目に入っていた花屋にも寄る。
 「いらっしゃいませ」
 おや、という顔で店員に見られる。
 「珍しい薔薇が見えたので」
 そう言えば、この手の店員は、ふわりと笑みを浮かべる。
 「ウチは界隈で品揃えが一位なんですよ。大体のものは揃えてございますから、なんなりと」
 「見て選んでも構わないか?」
 「もちろんですわ。どうぞこちらへ」
 カットされたローズが大きなスチールのバケツに入れられ、ショーケースの中で並んでいる場所へと案内される。
 
 「プレゼントですか?」
 頷く。
 「あちらのジュリアを50と、ああ、あのあざやかな紫がいいな、ラヴ・ポーションを50」
 名前を告げれば、あら、という顔をされる。
 なぜ知っているかなど訊くな。仕事で調べただけだ。
 「淡い茶系のジュリアとこの鮮やかな紫では、」
 「赤に溢れた場所なのでな」
 「ええと、それでしたら…」
 シャルル・ドゥ・ゴールとブルー・ムーンを指し示される。
 「中間色をお入れになられると良いですよ」
 「では、シャルル・ドゥ・ゴールを」
 「畏まりました」
 何本にしましょう、と訊かれ、適度に花束の色のバランスが取れるように、と頼んだ。
 本数も言った数に拘らず、全体を見て適当に調整してくれて構わない、とも。
 
 「少々お待ちくださいませ」
 「一度荷物を置いて戻ってくる。構わないか?」
 「ああ、そのほうがよろしいかもしれませんね」
 ふわりと微笑まれた。笑いかける。
 「ではよろしく頼む」
 一度パーキングに戻って車を出した。
 マーケットの角にある店だったので、そこより少し先に入った道に車を止める。
 
 店に戻れば、大きな花束が出来上がっていた。
 透明のプラスティックにレースのリボン。
 カッパー交じりのオレンジに、パープリッシュ・ブルーとくすんだ薄紫の薔薇の花束。
 ラブ・ポーションが鮮やかさを際立たせるように、回りにジュリアとドゥ・ゴールが配置されていた。
 
 「ラブ・ポーションを多目になさったほうが見た目がよろしいかと思いましたので、少し多めに入れさせていただきました」
 「ああ、構わないよ」
 確かにジュリアと同数ではバランスに欠けるか。
 「プロのセンスに任せた甲斐があったな」
 会計を済ませながら告げると、店員が愛らしい笑顔を浮かべていた。
 「あの、お客様」
 「うん?」
 「不躾なようですが…もう少々お待ち願いませんか?」
 「…構わないが?」
 
 さらりと立ち退いた店員が、一本を取り出して、さらりとラッピングした。
 淡い紫のイングリッシュ・ローズ。
 「ドーヴ、という薔薇です。お客様に」
 大きな花束に、プラス1本を面映い気持ちで受け取る。
 「ありがとう、ミズ・キャサリン」
 手を差し出し、差し出されたところで掬い上げて口付けを落とす。
 礼儀。
 「また寄らせてもらうよ」
 笑ってから店を後にした。
 
 大きく嵩張り、派手な薔薇の花束を持って歩くと。すっかり街灯が点いて暗くなった街中とはいえ、妙に注意を引く。
 パーキングでサイドシートの花束を寝かせ。それから車をゆっくりと発進させた。
 ホテルに着いたら、これの似合う花瓶を用意させて活けさせよう。
 携帯電話に電話を入れさせれば、連中の邪魔にはならないだろう。
 こっそり運び入れさせて驚かせるのは悪くないアイデアだ。
 連中がいつ気付くかはナゾだが。
 ま―――気付いたときが楽しみだな。
 
 
 
 
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