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 「たとえ誘惑する相手がオレの親友であれ。ソイツがあまり興味を持たないだろうことを承知の上であれ。そういうコトに
 加担するのは、"コイビト"としてはどうかな」
 方眉を引き上げ、見下ろす。
 すう、とシャンクスが首を傾けていた。
 目がきらめきを増している。
 ひとまず抱え上げて、ベッドルームに向う。
 
 「イヤでもそうなっちまうよ、」
 シャンクスが告げてきた。
 「しないで悶々としている顔もソソるからなあ、あンた」
 それがリカルドに通用するかどうかは別のハナシとして。
 とさりとシャンクスをベッドに下ろし、引き出しを開けて着替えを取り出す。
 シャンクスの分も1セット揃えて出して、手渡す。
 「軽くしとくか」
 ほら行くぞ、と。受け取り、きょと、と見上げてきたシャンクスを促す。
 「ヤツは早起きだぜ?」
 
 リカルドは夜明けと共に起きる傾向にある。
 酔っ払っていようが、ハイになっていようが。前日、1時間しか寝ていなくても。
 夜明けと共に、むく、と起き出し。
 煙草を吸いながら太陽が上がりきるのを待ったり、ぼーっと座ったまま、他人が起きてくるのを待ったりする、変わったヤツだ。
 
 シャンクスが着替えをベッドに放り、腕を伸ばしてきた。
 「風呂はいいのか?」
 引き寄せられながら訊いたならば、酷く色っぽい声で、
 「お好きな方で…?」
 と囁き。耳元に齧り付いてきた。
 
 シャンクスが"別れの挨拶"をしてきたタイムを思い出し。できなくはない時間の長さだったな、と思い至り。
 果たしてどこまで"口直し"してやるベキなのか、Tシャツから潜り込んできた指を黙認しながら考えた。
 「どうせ風呂なら二度手間か」
 着替えを放り出し、シャンクスが羽織っていただけのシャツに手をかける。
 ふ、と吐息でシャンクスが笑った。
 
 唇を合わせる。
 ゆっくりと押し合わせ、軽く啄ばみ。その間に腕を抜かせる。
 く、と甘く唇に歯を立ててきたシャンクスを一度放し、Tシャツを脱がせ。
 軽くまた啄ばみながら、素履きのデニムを脱がした。
 ちゃり、と涼やかなアクセサリの音に。それらは放っておいても害はないだろう、と無視することにし。
 また深く口付けながら、掌で身体の表層を辿る。
 シャンクスがTシャツを脱がせようと指を動かし。声が喉奥でくぐもっているのが聴こえた。
 
 クソガキがオレの前の"本命なりかけ"……ねぇ。
 セバスティアンとオレでは随分とタイプが違うように思うがな。
 まあこの"猫"が"タダの猫"でないくらい、最初の印象から解るが。
 "不実"で"気侭"で"気難しい"オレになんでくっ付いてるんだかな、あンたも。
 
 口付けを解き、Tシャツを脱ぐ。
 万が一、戦闘、犯罪、事故に巻き込まれた時のために下げている認識票が、ちゃり、と鳴った。
 シャンクスが、くぅっと満足げに笑った。
 翠がとろりと蕩けている。この硬質な音が、耳に心地よかったらしい。
 
 シャンクスが深い息を吐いていた。
 「ソレ、」
 しっとりと艶を含んだ声に訊きかえす。
 「はン?」
 「オマエが死んじまったら、クレ。代わりに」
 「引き取りにきたらな」
 にぃ、と口端を引き上げる。
 
 「いくよ、」
 「死体は適当に処理されるよう、遺言状に書いてある」
 さらりと赤い前髪を掻き分ける。
 「そんなこったろうと思うから、」
 すう、と目許で笑ったシャンクスに口付けを落とす。
 「不実なコイビト」
 蜜より甘い声が囁く。
 「来るならモルグに入ってる間に来ないと、埋められちまうぜ」
 笑って掌で心臓の上を撫で上げる。
 「弁護士に行かせようかな、おれ人前で泣いたこと無い」
 マジではね、と優しげな声に微笑みかける。
 「墓でもできたら、そこに落とせよ」
 なにも生まれやしないけどな、と呟き。唇を啄ばんだ。
 
 すう、とシャンクスが目を閉じていた。
 「止めよう、マジにそうなったら嫌だ」
 ぎゅ、と背中を抱きしめられた。
 「いつかは帰らない」
 さらりと髪を撫でる。
 胸の内にある覚悟は揺るがない。
 「ケモノだからな」
 
 
 
 「R.キャパをオトコにした覚え、ないんだけど」
 ロクデモない睦言を返すヤツの肩に歯を埋めた。
 「サワダになった覚えもないな、」
 そう、耳元で返された。
 背中に爪を埋める。
 
 身体の表面、それを乾いた手がひどく優しく撫でていく。
 さら、と触れられるだけで何かの糸が弾かれる、ゆっくりと。
 息が零れ、肩口を噛み締めていられなくなるまでもうそれほど間がないことも、わかってる。
 髪が流れる耳元、優しく啄ばまれて。
 身体の重みが乗せられていくのを感じた。足に触れる乾いた布のさらりとした肌触りがひどく不釣合いで。
 首元、血の流れを感じ取れる場所に唇で触れた。
 
 『ねぇ、ベイビイ。セックスは五感で愉しむものよ』と。まっくろの髪をした女優がいつだかおれに言ったけど。
 6番目まで感じかけるのは、どういうモノだろう。唇を押し当てたまま、項を掌で辿った。
 浮きかけた意識を。またさらりとした感触が引き戻した。腰を押し当てられて、きくりと背中が強張る。
 「…ぅ、」
 肌に声が吸い込まれてく。
 
 僅かに耳元、その少し下に口付けられて目を閉じた。
 さっきからずっと、身体を腕の届くところ、触れられるところはすべて、辿られて。それがひどく優しい。
 酷く、優しい。反語。
 おれも大概ぶっ壊れてるけど。オマエも、矛盾だらけで。
 
 足を、まだ布地に包まれたまま乾いてさらりと音を立てるのに片方絡ませる。
 ゆっくりと、腕をまわした背が掌の下で動き。
 口付けられる。肩よりうえ、作り出している線の一々、些細な部分。
 同じように触れられても、引き起こされるモノの深さが違って、笑い出したくなった。
 相当、オマエにマイッテルのかな、おれ……?
 「―――ン、」
 笑い声が、あまくくぐもって途切れた。
 
 熱くなりかけてた中心を乾いた温度に包まれて、ゆら、と勝手に腰が揺れた。
 「ぁ、あ」
 鎖骨、齧られて喉を反らせた。
 指先をまた少し潜り込ませる。肌の表層の少し下まで。
 「痕残すなよ、」
 どこか笑いを潜ませた声に。なんで、と返した。
 息を吐きながら。
 答えは別に期待してない。
 
 なんで、オマエがトクベツなのか。
 それがわからないのと一緒だ。
 なんで、オマエが。おれを傍に置いてるいのかワカラナイのと一緒なように。
 おれがね、ワカラナイ。
 
 「も、ぉと、」
 だから鳴いてみる。
 手指が中心を高めていく感覚に神経を半分しか持っていかれない。残されて、また胸元を柔らかく吸い上げられて、ただ焦れる。
 爪で背を掻く。
 「ん、っく、」
 柔らかい愛撫に背骨の奥が軋む。
 オマエの手が掬い上げたモノじゃない、先に埋められていた快楽の欠片を少しだけ引き上げられていって。
 焦れて声を上げたのと。不意にきつく、濡らされていた場所を噛まれたのが同時で。
 「―――ァ、っ」
 身体が震えた。
 
 空気と、間にあった熱が揺らぎ。
 絶えず熱は高められたままで、喘ぐ。
 目を開ける前に、乾いた音が届いた。木の滑る音。
 片手が伸ばされているのを知る。
 腕を捕まえる。
 上がった息の合間に名を呼ぶ。
 「ん?」
 やさしい声、それが落とされる。
 「あ、―――ンな…?」
 もう片腕を伸ばす。肩から首へ向けて。
 「ん?」
 「まだ、ダイジョウブ、へーき…」
 
 
 
 
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