両足を抱え上げ。緩やかに潤んだ内を、リズミカルに刻む。
「ああっ、」
掠れた嬌声が耳に届く。
"好き"ねえ。
ふ、と。その言葉の持つ軽さと広さに笑う。
ああ。今日はあまり持たせないであンたの"スキ"なものをやろう。

何度も軽く往復させ。
打ち込む深さと角度、そして強さを変えながら、トップを目指す。
口付ける代わりに、耳に舌先を潜り込ませる。
わざとねちゃ、と音を立てさせる。
「―――ン、ァあ…ッ」
とろりと蜜のような声。
「あンたの中は気持ちがイイ」
絡み付いてくる内を突いて開かせながら、低く囁く。
「イッちまえ、」
「あ―――ゥン……っ」
色が乗り、掠れた声に何度も前立腺を抉る。
火照って赤く染まった体が震え、仰け反った耳元に赤い痕を軽く残す。

シャンクスの腰を足ごと抱え上げ、
「あァ、ゥ、―――あ、つ…、ァ…ッ」
とうわ言めいた嬌声を零すシャンクスの耳朶を吸い上げた。きゅう、と強めに。
ぐ、と押し込めば、ぴく、とシャンクスの身体が一瞬強張り。
「ひ、ぁ、ア…っ」
腹に熱い飛沫が散り、きゅうう、と締め付けられた。
奥まで突いてから、堰き止めていた精液を注ぎこむ。
シャンクスにしか、しない行為。

「んァ、…ぁっ」
呻いた身体がまた跳ね。余韻のままに締め付けてくる内から、楔を引き出す。
熱く濡れたソレを、シャンクスの腹に落とし。
「んっ、ぅ」
体重を落として上半身も重ねた。
くたりと回された腕に、両足を開放させ。
両腕でシャンクスの身体を挟み、とん、と口付ける。
「――――おも…、」
ぎりぎりで甘える笑み。
「風呂用意できるまで伸びてろ」
笑って身体を引き上げる。

くい、と引き戻されて、なんだよ、と笑う。
「重いんじゃなかったのか?」
「んー、」
「ん?」
首筋に、ちゅ、と口付けられた。
噛んだ後がぴりっとした。
ぺろりと噛み痕を舐められ、ぴく、と身体が反応する。

「すきなものはだいじにする、」
「鉄則だな」
ふわふわと甘い、素直な声に微笑む。
「ダレも教えてくれなかったよ」
「一番大事なことは、誰も教えてくれないんだ」
舌先が優しく、赤く浮いているだろう痕を辿る。
「じゃぁ、オマエ、"ダレ"…?」
くくと笑ったシャンクスが、とろりと蕩けた声で訊いてきた。
「妹が死んだ時に、もっと大事にしてやればよかったと思った」
記憶を攫い。死んだ幼い顔を思い出した。
「10歳の夏の経験だな」

すう、と翠が見上げてくる。
滅多に他人には口にしない話。14ヶ月の同居生活で、初めてあンたに打ち明けるか?
「よくある話さ。イカレタヤツに攫われた」
他の数十名と共に。
「埋葬できただけでラッキーだろう」
すう、と火照ったままの指先が、唇に触れてきた。
笑いかける。

「妹は永遠の6歳だ。写真は父親が全部焼いちまった」
僅かに目を細めたシャンクスに、唇で触れる。
「勘当された手前、あンたを墓に連れていくわけにもいかないしな」
左胸に、シャンクスの熱い掌が押し当てられる。
片腕できゅう、と首に縋られた。
抱きしめられる。
体重を預け、頬に口付けた。

シャンクスが。そうっと、聞き取れないくらいに細めた声で。
「I could die for you、(オマエのために死ねるよ)」
そう囁いた。
柔らかな音が、心臓に届く。
微笑む。

「Hell. don't」
"それはヤメロ。"
ささやきで返す。
「Live and smile、」
"生きて、笑ってろ。"
タイクツがあンたってイキモノを殺しかけていたことは知っている。
けれど、生きている限り、楽しみは発掘できる。
「Live and Smile, Shanks」
ソレを提供できるベースなら、築いてやるから。

くうう、とより一層抱きしめられた。
ぽんぽん、と頭を撫でて、頬に口付けを落とす。
両腕で抱きしめられて、シャンクスの心がこちらにフルで開いていることを知る。
さらりと髪を撫でる。
「You don't have to learn everything the hard way」
一番キツい方法で、総てを知っていかなくていい。
オレから汲み取れるものがあれば、遠慮なく掻っ攫え。
愛しているあンたにだから、してやれること。

「I…do love ya、」
囁きよりも、小さい声。
"愛してンよ、"と。
「あぁ」
こつ、と額を合わせて笑う。
「I love you too,」
す、と微笑んだシャンクスに、目を見詰めて囁く。
並の恋人のように、というわけにはいかないが。

ゆっくりと瞬き。
それから、くしゃん、と笑ったシャンクスに、目を閉じて笑う。
「Every time I say the word, it's always from the bottom of my heart」
"その言葉を告げるとき。オレはいつも真摯であるってことは覚えておけ。"
「もっと、言え……?」
囁くシャンクスの目をまた見詰める。
「愛してるよ、シャンクス」



鼓動が伝わって、身体の触れた先から体温が混ざってそれがしばらくキモチ良かった。
意識の底を揺らす単語をイキナリ目の前に提示されて驚いた。
いったいこの国で、何百人といる消えるコドモ。そういえば、牛乳パックの後ろにそういったコドモの顔写真が載ってることを
知ったのは結構いい年になってからで、馬鹿みたいに驚いたことも思い出した。

湿っぽいマットレスの匂いと、手首からベッドの柵に留められたスティールの輪ッかが擦れる音が聞こえた気がして。
また腕に力を込めた。
一緒になって、アタマのなかで響いただけのダレカの叫び声。布で戒められて外へ出ていくことのなかったソレ。聞こえた。
―――おれの声。

肌に顔をくっつける。
髪や、こめかみのあたりにやわらかく唇で触れられて。少しだけ体から力を抜いた。
多分、意味不明なんだろうけど。言っちまわないと蟠って眠れそうも無いから。
「チョコレイトは嫌いなんだよ」
寝惚けた振りで音にした。それからまた抱きついた。
かさ、とアルミの剥がれる小さな音と。真っ暗な視界の中で「食べナ?ごめんネ」と言ってきた若いオンナの声がまた聞こえちまった。
何種類かのオトコの声と。ダレカの悲鳴じみた泣き声。膝を捕まれた、その手の感触。開かされた足。泣き叫ぶより前に、衝撃。

不意に。
「そうか、」
それを全部消していくように。深い、低い声が聞こえて。腕に抱きしめられて長く息を吐いた。
「―――このまま寝ちまう…?」
そう言ったなら。
「あンた、気持ち悪いだろ?風呂に入れてやるから、ぼぅっとしてていいぞ」
目を閉じたままでいたおれに。柔らかな声が返された。

甘えさせて貰った。身体より、多分。キモチの方で。
半分眠っていたような気もする。あのキイワードを聞いて、蓋が開いちまったときはいつもどこかが鈍くなる。
額を濡れた手が撫でていく、それがコイビトのものなのか、3回続いた銃声の後で触れていったオンナの手なのか
一瞬わからなかった。
眠り込んでたのかもナ。

唇に冷たい水が触れて。促がされるままに多分飲んで。
コイビトの首に腕を回した。くっつかせろ。
モノをヒトより深く視るおれのすきなヤツは。少し訝しんでるみたいだ。おれも不思議だから、仕方ないね。いまの自分がさ。

「ベッドへ入って寝るか?」
きゅう、と抱きしめられて柔らかな声で問われる。
「―――ひとり、」
あぁ、驚きだ。これダレだよ。
「一緒に寝るぞ?」
少しだけ、笑みが混ざった声に。勝手に口角が上がってった。
ゆったりとした口調が続いて。
「眠れそうにないなら、あンた膝に抱えて仕事してるが」
息がまた、深くから押し出された。
首元に顔を埋める。
「おまえの片腕が空く、―――やだ」

寝よう、と。
誘って。抱き合うっていうよりは、抱え込まれて奇妙に安心して目をずっと開けずにいたなら。
低い声がずっと話してくれてて。ハイスクールで、リカァルドと仕出かした馬鹿話。
聞いていたなら、緩みかけた蓋はどうにか元の通り納まったみたいだった。無意識の隙間から染み出していた音が全部、
静まっていく。

鉄の馬の話、とか。ティーンエイジャの、ハーレー乗り…?
『イージー・ライダー』の絵が頼まれもしないのに出てきたのは職業病、なんだろうな。
顔を埋めたままで、「Born to be wild?」って言ったつもりだけど。寝言だったかもしれない。
ずっと、鼓動だとか伝わってくる音だとかに意識をあわせてることなんざ出来なくなって。
そのまま。
多分眠った。

でも、最後に思っていたことは。こんど聞いてもらおう、だった。
薬だの処方箋だの、ジャッジメントだのを絶対出してこないコイツに。
出すとすれば、せいぜい。
―――くすぐったい台詞くらいだ、多分。




next
back