薄いカーテンから漏れ入る月明かりが闇を和らげていた。
シャンクスを抱きしめたまま、天井を見上げる。
すぅすぅと心地よい寝息を立てながら、コイビトが無事に眠りに着いたことに安堵する。
普段なら取らない、甘えているのではなく、不安から縋りついてくる態度に、シャンクスの中に潜む傷が見えた。
妹の話をした時から、何かがシャンクスを捕らえていた。
シャンクスが転がり込んできた時に、どさりと持ち込まれたファイルの数々。
ポートフォリオ、履歴、写真、ヴィデオ、ネガ。
ぐちゃまぜに持ち込まれたソレを、ファイルしながらボックスに片づけたのは、次に越したときについでにしたこと。
シャンクスが有名な子役だったことは興味がなかったから、特になにも考えずにファイルしたが。
頭の中に溜めてあるデータを出す。シャンクスの仕事年表。
映画は期間が長い上、毎日、といったデータはないので除外し。
ならばテレビドラマ、もしくは番組。
コドモが出ているならキッズ番組、毎日出ていたはずなのに、ぽこ、とどこか穴が開いて―――ああ、シャンクスが7歳の時。
"ファン・ファン・キッズ"。いかにも、なバラエティとミニドラマを組んだものがあったはずだ。
サラ、妹も、ずっと好きで見ていた。
10日間、前触れもなく休みに突入し、仕事を再開し。その後再契約が無かったもの。
それ以来、ライヴ・テレビドラマからも、ウィークリ・バラエティからもオファがあっても契約がなかったもの。
……誘拐され、保護され。なおかつ揉み消されたとしても、疑問の湧かない日数。
思い至り、溜息を吐いた。
あンたが不安定な理由の1個だな。
赤い髪に口付けを落とし、抱き直した。そうっと起こさないように。
誘拐犯がコドモにどんなことまでできるか、知っている。
それが周りに、どんな影響を与え。どんな眼差しをさせるようにするかまでも。
戻ってこれてよかったな、とは言わない。
どんなに"良く"扱われても、傷が残る。
逆はさらに―――。
赤い髪を撫でながら思う。
あンたが生きて戻ってこれたのは、もしかしたらあンたにとっては不幸なことだったのかもしれない、と。
けれど、生きていたからこそあンたに出会えたからには。オレはあンたが生き延びてきたことを、嬉しく思う、と。
あンたを抱きしめてやれる両腕は健在だから、必要な時には差し出そう。
傷を、あンたがどういう風に持ち続けるのかは解らない。
それを持っているのはあンただ。だからどうしようとあンたの勝手であり、責任である。
あんたが望む限り、オレはあンたを受け入れるだろうし。どうしようとあンたが決めたまま、受け止める。
あンたが笑っていられるように、オレはベースを築くから。
生きて、笑え。
幸せであろうと努力しろ。
赤い髪にもう一度口付けてから、目を閉じた。
それ以上、考えるのは止めにした。その先に答えがないのを知っているから。
10日ほど前に、ある音楽のPVを見た。ミッシング・チルドレンを歌ったバンドのもの。
背後には過去に消えていなくなった子供たちの顔写真が写っていた。
ミルク・カートンに印刷され、配布されていたもの。
その中に、一瞬だけ。15年降りに見つけた、サラの写真。
記憶に残っていたものより、さらに幼かった笑顔。
最後にオマエにキスしてやれなくてゴメンな、と。心の中で語りかけた。
"大切なものは大切にしろ"。
それは生きている間にしかできないこと。
並のコイビトのようにはできないけれど。オレはあンたが大切だから、大切にする、と腕の中のコイビトに語りかける。
だからあンたは。人生を楽しんでくれ、と。
記録映像のように頭を過ぎり始めた、幼いころのサラのイメージを、目を瞑ったまま追いかけた。
あンたも今頃、同じように。夢の中で記憶を追いかけているのかもしれない。
魘されていたら、起こしてやろう。
そう思いながら、眠りについた。いつものように浅い眠り。
寝言を呟いたシャンクスを、ただ抱きしめなおして、寝なおした。
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