朝は遠い。
けれど、明けない夜はない。
朝日が昇るのと同時に、リカルドが起き出した気配に目覚めた。
シャンクスはもう、夢は見ていないようだ。
1時間ほど、深くシャンクスが眠っているのを確認しながら、抱きしめていた。

6時に、眉根を寄せたままのシャンクスの眉間に口付けを落とす。
「シャンクス、」
起きるか?と耳元で訊く。
ぴく、と瞼が反応していた。
きゅ、と縋ってきた手指に、小さく笑い。目尻に口付けを落とす。
「起きれるか?朝だ」

ぼう、と完全にフォーカスできていない翠が間近で開いた。
とん、と唇に口付ける。
「いい朝だぞ」
きゅう、と抱きつかれて笑った。髪をさらさらと撫でて、額にも口付ける。
「―――――ぅ、」
いつもの寝ぼけた挨拶、"おはよう"の"う"。
「もう少し、寝てろ。独りで眠れるか?」
くうう、と抱きしめられて笑った。
仕方ない、もう少しいるか。

「7時までだぞ、シャンクス」
抱えなおして、リラックス。
「――――ゃ、」
「ワガママ」
笑って、髪に口付ける。
寝惚けたままのシャンクスの口許が、僅かに自慢げな笑みを浮かべた。
ハイハイ。ワガママでいいんだよ、あンたは。

くたり、とシャンクスの身体が力を抜いていき。
ただ幸せそうに眠るコイビトが腕の中に残った。
目を閉じても入り込んでくる朝陽に、部屋の空気が温まっていくのを感じる。

ドア越し、ガラス越し。がら、とテラスへの窓が開けられる音が響き。
リカルドが太陽を眺めながら、煙草を吸っているのだろうと思い至る。
悪いな、リカルド。
"親友"よりは"コイビト"を取るのが、ラテン男の宿命だからな。

一日のスケジュール予定を組み立てなおしながら、きっちりもう1時間、シャンクスを抱きしめて過ごした。
7時になり、再度シャンクスを起こす。
「シャンクス、起きるぞ」
さら、と髪を掻き分けてやると、気だるげに首を横に振り。ころりと転がって枕に埋まった。
腕を引き出し、頬に口付ける。
「昼前には起きろよ」
「―――あ、とで」
コンフォータをかけなおしてやり、寝惚けたままのシャンクスに笑う。
ああ、そこまで起きてるなら、もう悪い夢は見ないな。

「おやすみ、シャンクス」
髪を撫でて整えてやってから、ベッドを抜け出す。
「キス、」
「キスな」
横向きの頬に口付ける。
「オオケイ?」
「――――ノ、」
「なら顔上げろ」
寝惚けてさえも、王様っぷりを発揮するシャンクスの頬を撫でる。

ころりと寝返りを打ったシャンクスに、いいコだ、と言ってやり。緩く唇を啄ばむ。
寝ろ、と呟き。それをトン、と口付けて封じる。
ふ、と息を吐いたシャンクスが、すとんと眠りに落ちていったのを確認してから、着替えを1セット揃え、リヴィングに向った。

リカルドは、ソファに座って両足を抱え込み。ぼーっと煙草を咥えたまま、外を眺めていた。
「おはよう、リカルド」
「……ん」
起きて2時間以上経って、この寝惚けっぷりはシャンクスといい勝負だ。
「オマエ、起きたまま寝てるよな」
高校時代からの特技に笑う。

「……起きる」
「どっちでもいいけどな」
「シャワー」
「浴びろ浴びろ。場所は解るな?」
「んー」
「行ってこい」
「……ん」

煙草を揉み消したリカルドが、のそりと起き出した。
メイン・バスルームのシャワーを使うらしい。
タオルを出してやってから、さて自分もシャワーを浴びるか、と。シャワーブースの方に入った。

手早く浴びて出れば、頭を拭いながら丁度リカルドも出てきたところで。
顔を見合わせてから、改めて朝の挨拶をする。
「オハヨウ」
「よう」
今度は目もばっちりと開き、しっかりとお目覚めのようだ。

「朝飯は?」
「食う。腹減った」
「手伝え」
「わかった」
リカルドが着替えている間に、髭剃りを終え、伸び気味の髪をバックに整えた。
バスルームの入口で、今度はリカルドが髭を剃り、濡れた髪を整えるために入れ替わり。
リヴィングで手早く着替えた。

コンフォータは畳まれ、その上に枕が乗せられ。退かしておいたはずのロゥテーブルは、元の位置に戻されていた。
さすがだな。

戻ってきたリカルドに、洗濯物を出させ。
洗濯機を回し始めている間に、リカルドは朝食の支度を始めていた。
フリッジが開けられ、サラダが用意される。
勝手知ったる他人の冷蔵庫。

「手際良くなったな」
「家政夫やってた」
「ふぅん?」
「メイシーばあちゃんに、オマエの写真送ってやんないと」
「メイシー?」
「元雇い主。すっげえカワイイヒトなんだよ」
「なるほど」
元雇い主、というからには。いまは施設にでも入っているのだろう。
相当好きなんだな、彼女が。
コイツから連絡を取ろうとは、随分な進歩だ。

「で。リカルド。オマエ、トースト何枚食う?」
「3」
「ハムは?」
「ベーコンないのか?」
「ある。グリルするか、サニーサイドアップと一緒にフライパンか」
「グリル」
「何枚?」
「3枚」
「了解」

冷蔵庫からベーコンを取り出し、グリルの網にセットする。
トーストはトースタにセットし、卵はバターを溶かした後にフライパンへ落とす。
リカルドはサラダを作り終え。コーヒーメーカをセットしていた。
「リカルド。オマエ、マンゴー食えたか?」
「好き嫌いは克服した」
「オトナだな」
「ニンゲンが食うものである限り、オレは食う」
返事に笑う。

「サバイバルにでも行くのか?」
先にレモンを割っておいてから、マンゴーの皮を剥き、角切りにする。
手早くレモンを絞って、酸化防止。
リカルドがグリルのベーコンをひっくり返し。卵を出しておいた皿に移していた。
「行けるとこは巡ってみようと」
「最終目標は?」
「ヒマラヤでダライ・ラマに会う」
「…ダライ・ラマはネパールに亡命中だろ?」
「ヒマラヤの天辺付近にある寺院に行って、布をかけてくる」
「いい絵が撮れそうだな」
リカルドが持ち込んでいたジェラルミン・ケースを思い出した。

「なぁベン」
「ん?」
「オレはやはり、インディアンらしい」
「そうか」
血筋的にはワラパイ・インディアンだが。自分はインディアンではない、と言い張っていたリカルドの言葉に、少し笑みを浮かべる。
「兄貴になにか言われたか?」
「"自分のことは自分が決めろ"」
「そりゃそうだ」
笑ってゴツ、と拳を合わせる。
リカルドがにか、と笑っていた。

「あと」
「ん?」
リカルドがトーストをさらに追加させながら、笑って言った。
「"オマエが何であろうと。弟であり、『兄弟』だ"ってさ」
ふン。蟠りは解消済みだな、コレは。
「よかったな」
「ん」
ガタガタとグリルからベーコンを下ろしているリカルドは、これでも照れているのだ。
笑って冷蔵庫から、チーズを取り出す。
「なら山羊のチーズにチャレンジ?」




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